2015年10月19日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・113

コストダウンでは発注者側の能力も問われる…
 ◇知識を知恵に変える人づくり◇

 工事を発注する際、本当にベストな建設会社を選んでいるのか-。

 公共交通インフラを管理・運営する組織で、土木技術者として長年現場を見てきた服部誠司さん(仮名)。価格以上に企業努力による技術提案を適切に評価する必要性を痛感している。

 提案内容を見れば、工事受注を希望する企業が事前検討にどれだけ力を入れてきたか一目瞭然。その差は明らかなのに、技術提案の内容が一定の水準に達していれば、価格が安いところに最終的に発注する。そうした経営判断に違和感を覚える。

 価格が安いこと自体は悪いことではないが、事前検討の甘さが施工段階でどこかに必ずしわ寄せされ、最終的にかかるコストが増大。工程や品質などにも悪影響を与えるリスクを想定する必要がある。

 「結果として、安い企業を選んで何度も痛い目に遭ってきた。現場に足しげく通い、より現実的で確実な施工方法を検討した企業は、勉強した分だけ工事費も上がる。そうした熱意を持って提案された中身を発注者側が適切に評価してあげないと、優良な企業が離れてしまう」と危機感を募らせる。

 多くの人たちに役立つ仕事に誇りを持ちながら、現場の第一線でがむしゃらに働いてきた。現場のイロハを教わった団塊世代の先輩技術者たちがリタイアし、要となるベテラン層がごっそり抜けた建設部門の行く末を案じている。

 若手技術者の確保・育成は急務だが、経験工学といわれるこの世界では、知識を詰め込むだけでは現場で本当に使える人材は育たない。現場に立って知識を知恵に変えることが求められる。

 「実際に体を動かしてリアルな現場を体感しないと、ものづくりの本質は理解できない」というのが服部さんの持論だが、勉強中の若手の力を借りなければ、目の前にある多くの現場の運営が滞ってしまう現実に頭を悩ます。

 社会・経済への影響が大きな交通インフラの現場管理では、最悪の事態を起こさないことが大前提。「人材育成にかける手間も余裕もない中で、現場の安全確保、工事の円滑実施といった至上命令を厳守するため、日々のプレッシャーには想像を絶するものがある」

 現場管理だけでなく、工事発注でも技術者の経験が問われる。現場の流れが分かっていないと、実態に即した積算ができない。服部さんは「施工の段取りや作業内容を十分理解してなければ、正しい金額ははじけない。かかったコストは払うが、建設会社の言いなりでも困る。発注者側の予定価格がきちんとしていないと、ベストな施工者を選定することはできない」と訴える。

 最近は建設コストが上昇傾向にあり、発注者側の積算能力もより重視される。「コストダウンはあらゆる企業・組織の永遠の課題だが、気合いで価格を下げるようなダンピングは許されない」。受・発注者の双方で知恵を持ち寄り、中身の伴うコストダウンが図れるように、建設部門の組織の立て直しに奔走する毎日だ。

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