2015年12月7日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・119

現場に出なくても、土木技術者としてやるべき仕事がある
 ◇今の自分の仕事が現場を支えている◇

 国土交通省で土木技術系職員として働く南裕二さん(仮名)は、居ても立ってもいられない気持ちだった。昨年夏、広島市北部を襲った土砂災害。現地からの報道に、「すぐにでも駆け付けたい」との思いを募らせていた。

 自然が相手の土木は経験が物を言う。中でも災害復旧は一つの決まった答えがあるわけではなく、積み重ねてきた経験を個々の現場に応じてどう生かすかが重要だ。

 入省から十数年。土木技術者としてそれなりの経験を積んできたという自負がある。それが、テレビの映像を見るだけで現場に行くことができない自分をいら立たせた。

 南さんは今、土木工事の積算に関する政策立案を担当している。もちろん工事と無関係ではないが、現場とはかけ離れた部署で働く。

 役所の机の上で政策を練るデスクワーク。それが土木技術者として国交省に入り、現場の経験も積み重ねてきた自分が本当にやりたいと思っている仕事なのだろうか。現場の最前線で活躍したいとの強い思いと現実との間で葛藤かっとうしていた。

 国交省は01年1月、建設省、運輸省、国土庁、北海道開発庁の4省庁が統合して誕生した。全国に6万人に上る職員を抱える。東京・霞が関にある本省を中心として、ブロックごとに配置される地方整備局や地方運輸局、さらに出先の事務所や傘下の出張所、領海警備に当たる海上保安庁もある。手掛ける分野は途方もなく幅広い。

 所管するインフラだけをとっても、道路、河川、ダム、砂防施設、下水道、港湾、空港などと多種多様。それぞれを担当する部署で整備や維持管理に関する計画を立案し、事業に予算を付け、実際の工事を発注するために必要な積算や入札契約、現場での工事の監督、実際に施工に当たる建設業を対象にした産業行政も担う。細分化されたそれぞれの仕事をそれぞれのセクションが受け持っている。そうした仕事の集合体が国交省という組織をつくっている。

 いら立ちが募る中、かつて現場で世話になった元上司と話す機会があった。そこで思い余った南さんから出た言葉は、「僕に何かできることはないでしょうか。今すぐ僕を現場に行かせて下さい」。気持ちを抑えることができなかった。

 ところが、元上司から返ってきたのは、「今、君にはやらなければならない仕事がある。それをしっかりとやりなさい」。

 南さんが担当している仕事は、全国各地の工事現場が円滑に運営されるために不可欠。元上司の言葉には、その仕事を全うしてもらいたいという同じ土木技術者としての熱い思いが込められていた。

 広島市の土砂災害以降も全国で相次ぐ豪雨災害。今年9月の関東・東北豪雨では1級河川の堤防が決壊して大きな被害が出た。

 被害のあった地域で進められる災害復旧工事。今の自分の仕事は、現場で頑張る仲間を政策面で支えている-。今は元上司の言葉を自分なりにそう理解している。もちろん、「現場魂」は忘れずに。

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