◇だから自然にうそはつけない◇
入社して5月の連休明けに配属されたのは仙台の現場でした。漁港の防波堤を造る工事です。ここの職員は上部工と杭打ちの班に分かれ、私は杭打ちを担当しました。先輩が時々来ていろいろ教えてくれたとはいえ、新入りがいきなり杭打ちの施工管理を任せられたものですから大変でした。
若いころに携わった離島の漁港工事では、こんな失敗があります。コンクリートのエプロン舗装を施工し、検査の時にコアを抜いて調べたら厚さが1センチほど足りないのです。いろいろ言い訳を考えて検査官に説明していたのですが、そのうちに言葉が尽きてしまい、最後には「私の監督不行き届きでした」と謝罪しました。
すると、それまでカンカンになって怒っていた検査官がにやっと笑い、「君は若いから許してやるよ」と言っていただいたのです。私がいつになったら誤りを認めるのかと待っておられたのかもしれません。
この後、エプロン舗装をまた施工する機会があり、今度は前回の反省もあって少し厚めに造ってしまったんです。これには上司から厳しく怒られ、いかに計画通りに造ることが大切か、身に染みて分かりました。
かつて会社の先輩が「現場の皆が社長のつもりでやらないとうまくいかないよ」と話していたのを思い出します。誰かに言われたことだけをその通りにやればいいというのではなく、一人一人が社長のつもりになって考えてやらないとうまくいかないという教えでした。
海の工事で難しいのは、天候をどう読むかです。天気図をにらみながら判断に迷うこともあるのですが、例えば「あすのこの数時間は大丈夫だからやろう」などと決めます。そのチャンスを逃してしまったがために何日も施工できないこともありますから、自分が決断した通りに作業を行えた時はうれしいものです。
海では、人間がどんなに頑張っても天気や波の状況が悪いと作業はできません。なぜできないのかと悩むのではなく、自然が相手だから仕方がないと思えるかどうか。そういった自然と波長の合う人でないと参ってしまうでしょう。
自然は厳しいものです。人間の考えることなど大したことはなく、自然に対しては100点を目指しても取れるものではありません。120点の備えをしても、うまくいって60点くらい。だから自然にはうそがつけないのです。
入社する時、履歴書に好きな言葉として書いたのは「待てば海路の日和あり」でした。この仕事には、まさに自分の波長に合うものがあったと思っています。
(さかいざわ・ひろゆき)1980年中央大理工学部土木工学科卒、若築建設入社。横浜支店土木部長、事業統括本部土木部工事第一課長、東北支店工事部長、東北支店次長兼工事部長、執行役員東北支店長などを経て、15年6月から現職。東京都出身、61歳。
入社2~3年ころ、塩釜で仕事をしていた時の一枚 |
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