2015年12月16日水曜日

【回転窓】責任ある声は一つ

あの日、一人の小学校長が味わった焦りがどれほどだったか、容易に想像できるものではない▼11年3月11日、岩手県陸前高田市立気仙小学校の菅野祥一郎校長(現陸前高田市立図書館館長)は、学校から離れた場所で地震に遭遇。すぐ学校に戻ろうと車を走らせたが、学校につながる橋は既に通行止めとなっていた。「人生で一番焦った」。先日、菅野氏の講演を聞いた▼行く手を阻まれながらも何とか駆け付けると、児童は校庭に並んでいた。集まっていた地域住民から「校舎に上がろう」などとさまざな声が聞かれたが、菅野氏が指示したのは裏山への避難。これが功を奏し、まさに間一髪のところで津波の難を逃れた▼裏山への避難はマニュアルにはなく、一度も訓練したことはなかったという。「(以前に)自分が登れたのだから児童も登れるだろう」。その判断が校長の「責任ある声」となり、全校児童の命を救った▼講演を聞いた中学生に「今、僕たちに何ができますか?」と質問され、菅野氏は「震災を忘れないでほしい」と答えた。あの時、「責任ある声」を発した教育者にもっと多くを学びたい。

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