2015年12月24日木曜日

【強靱化は国家百年の計】国土強靱化担当相・加藤勝信氏に聞く

2013年12月に国土強靱(きょうじん)化基本法が施行されて2年が過ぎた。国土強靱化基本計画と、具体的な実施策を示した年度ごとのアクションプランに沿った取り組みが本格化している。第3次安倍改造内閣の加藤勝信国土強靱化担当大臣に、改めて国土強靱化の必要性と進ちょく状況などを聞いた。

 ―― 国土強靱化基本法が施行されて丸2年になりました。この間も各地で大規模な自然災害が多発し、依然、国土の脆弱性が指摘されています。

 日本は、東日本大震災以降も毎年のように大雨や水害、火山噴火などの多くの自然災害に見舞われています。首都直下型地震や南海トラフ地震の発生も従前から懸念されています。そういった日本の状況の中で、国土強靱化は喫緊の課題であり、中長期にわたり継続して進める「国家百年の計」と認識しています。

 先日決定した「一億総活躍社会の実現に向けて緊急に実施すべき対策」でも、来年の春の取りまとめを予定している「ニッポン一億総活躍プラン」に向けて検討すべき方向性として、「希望を生み出す強い経済」の項目の中で、「事前防災のための国土強靱化の観点も踏まえ、計画的に社会資本整備を進めるとともに、地方創生を本格化し、地域におけるさまざまな資源を活用して活性化を進める」としたところであり、国土強靱化は地方創生とも絡む重要な施策であると考えています。

 ―― 国土強靱化基本法が施行されてからの2年間の取り組み状況をどう見ていますか。

 2013年12月に国土強靱化基本法が成立、施行され、翌年6月には強靱な国づくりのためのいわば処方箋となる「国土強靱化基本計画」と「国土強靱化アクションプラン2014」が策定されました。アクションプランは、施策の進ちょくを評価し、基本計画を着実に推進していくために、毎年度取り組むべき具体的な個別施策等を示したものです。今年6月に策定した「国土強靱化アクションプラン2015」では、この一年間の取り組みの進ちょくを把握・評価し、施策の拡充を図るとともに、進ちょく管理の徹底を図りました。2年間ではありますが、KPIの中には目標値を達成し、新しい指標を設定した項目もあるなど、国土強靱化の実現に向かって着実に進んでいると自負しています。

 今後検討していく「国土強靱化アクションプラン2016」でも、PDCAサイクルをしっかり回して、KPIが達成されていればさらに高度化し、国土強靱化の施策を加速させていきたいと考えています。2016年度予算概算要求では、国土強靱化に関連する予算について、政府全体の概算要求基準を上回る要求を行っています。

 ―― 国土強靱化基本法では、地方公共団体が地域計画を策定することができるとされていますが、地方公共団体の動きは鈍い印象を受けます。

 各地方公共団体で国土強靱化に取り組んでいただくことは、地域の方々の生命や財産を守ると同時に地方創生、地域の経済成長にもつながります。国土強靱化と地方創生は表裏一体の関係で、出来るだけ多くの地方公共団体に「国土強靱化地域計画」を策定していただきたいと思っています。現状では、すでに地域計画を策定している都道府県は10道県にとどまっていますが、34都府県が策定中あるいは策定予定としており、ほとんどの都道府県で地域計画を策定していただけると見ています。一方、市町村は、これからというところが多いようです。国としては、ガイドラインの配布や説明会の開催、出前講座などを通し、市町村でもしっかり国土強靱化の取り組みが進められるようサポートしていきます。

防災拠点機能を備えた超高層ビルを視察した=12月8日、都内で
―― 民間事業者への働きかけは。

 国土強靱化には政府、地方公共団体に加え、民間事業者の主体的な取り組みが不可欠です。民間事業者においては、大規模な災害発生時にも自らの事業を継続するための事業継続計画(BCP)の策定や事業継続性担保のための訓練、国土強靱化に役立つ新しい商品やサービスの開発・提供、帰宅困難者の受け入れ体制の整備等の社会貢献、といった観点から、様々な取り組みが行われています。

 今月8日に都心部の防災拠点機能を備えた超高層オフィスビルの東京日本橋タワー(東京都中央区)を視察させていただいたのも、民間事業者の役割に期待しているからにほかなりません。内閣官房のホームページでは、民間事業者による241件の先導的な国土強靭化の取り組み事例を公開しています。先ごろ事例の追加募集を行ったばかりで、こうした事例の紹介によって、他の企業への横展開を進めたいと考えています。

 こうした民間事業者のBCPの取り組みや災害時の帰宅困難者受け入れをはじめとする社会貢献などを促進していくため、評価、認証する仕組みを創設しようと、ナショナルレジリエンス(防災・減災)懇談会のワーキンググループで検討しています。認証制度が創設されれば、認証取得をどう促していくかについても検討する必要があると考えています

 ―― インフラの老朽化対策や既存不適格建築の耐震化も重要な課題となっています。

 高度成長期に急激に整備が進んだ膨大な数のインフラが40年、50年たち、一気に更新期を迎えています。インフラを管理するうえで、インフラ長寿命化計画の作成、点検診断技術の開発・普及、ITを活用した維持管理の効率化・高度化、技術者の育成配置、資格制度の拡充・運用といった施策が必要だと理解しています。地方公共団体には、インフラの老朽化対策を国土強靱化の地域計画とも整合をとって、進めていただきたいと思います。

 また中央防災会議による首都直下地震の被害想定では、耐震化率が100%になれば、2008年の耐震化率を用いた現状の被害想定と比べ、建物の全壊棟数と死者数は約9割減少すると試算しており、このような耐震化による効果をPRすることも必要です。また、「国土強靱化アクションプラン2015」では資金助成、税制上、融資上の優遇措置により耐震改修の確実な推進を後押しすることとしています

国土強靱化のPDCAサイクルイメージ(2015年度)
―― 国土強靱化を実現するために建設業に期待することは。

 建設業は、国土強靱化に必要な担い手ですし、災害が起きれば復旧、復興の中心的な役割を担うのは間違いありません。加えて、老朽化した施設を単に建て替えるのではなく、長寿命化するための維持管理、更新の手法などさまざまな面で高度な技術が求められており、建設業の役割は質的にも量的にも拡大していくと思われます。建設業が一定の事業量を確保し、安定的に経営を継続しながら社会的使命を果たす姿を見れば、建設業界で働くことを希望する若手も増え、次代を担う優秀な人材を育成していくことが可能になるでしょう。

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