2016年12月8日木曜日

【地域発展に有益な施設に】スポーツ庁・鈴木大地長官に聞く「スタジアム・アリーナ改革の展望は」

 ◇ポイントは高付加価値化、地域のシンボルとして一体的発展を◇

 2020年東京五輪の開催に向けて盛り上がるスポーツ産業。さらなる市場拡大を目指す政府が今年提唱した新たな成長戦略が、数千~数万人の観客を収容する大型のスタジアムとアリーナの改革だ。今後の新築や増改築では、より「稼げる」施設造りを促すという。改革を先導するスポーツ庁の鈴木大地長官に、五輪水泳の金メダリストとして活躍した現役時代の経験も踏まえ、今後の展望を聞いた。

 --スポーツの力と役割をどう考える。

 「スポーツには、実際に『する』、試合を『観(み)る』、選手を『支える』といったさまざまな側面がある。スポーツで健康になったり、幸せな気持ちになったりした経験は多くの人が持っているだろう。最近は、スポーツが経済成長にも大きく貢献するということに多くの方々が気付き始めている。これからは、スポーツとできるだけ多くの産業を結び付け、新たな事業分野を創出しながら経済をより大きくしていく時代だと思う」

 --スタジアム・アリーナ改革の狙いは。

 「スタジアムやアリーナへの設備投資はスポーツ産業の中でも最大規模の投資になる。新たに造る施設に付加価値を持たせ、将来にわたってより良い形で維持管理・運営できるようにすることが大事だ。まちづくりの拠点となり、地域にとって有益なものになることを目指している」

 「今年夏に、プロ野球・広島東洋カープの本拠地『マツダスタジアム』を視察した。観客席が非常にバラエティー豊かだったのが特に印象に残っている。大人数でバーベキューをしながら観戦できるエリアや、寝そべったまま観戦できるエリアまであった。こんなに楽しいスタジアムなら、これまでにないような層の来場者も増えるはずだ。選手にも好影響を与えるのではないか。単なる仕事場という意識ではなく、観客が楽しんでいる雰囲気が伝われば、選手も自然と良いパフォーマンスを発揮しやすくなるだろう」

 --「稼げる」施設造りの具体策は。

 「最近はスポーツ施設の内部や周辺にショッピングセンターや遊園地、病院などを併設するという従来なかった取り組みが出てきている。他分野と融合することで、より一層地域の役に立つ施設になれる。スタジアムやアリーナを所有しているのは地方自治体が多く、今後の新築や増改築について自治体からの問い合わせも来ている。11月に策定した『スタジアム・アリーナ改革指針』を参考にしてもらい、資金調達の方法や維持管理・運営などのアイデアを一緒に考えていきたい」

 --スタジアム・アリーナ改革の最終的な目標は。

 「地域と一体になって街全体を発展させられるようなシンボルにしていくことだ。例えば、1990年代前半に米国のコロラド州に住んでいた時、治安が大変悪かった場所にスタジアムが建設され、それをきっかけに街全体の雰囲気が一転して明るくなったことを覚えている。2012年ロンドン五輪のメインスタジアム周辺も同じだ。スポーツには社会を変える大きな力がある。人気が高いマラソンのようにスポーツが市民レベルにまで浸透している今の状況は大変な追い風だ」

 --東京五輪の関連施設整備について重要なことは。 

 「今年夏のリオデジャネイロ五輪を現地で視察したが、競技会場などの関連施設からはコスト削減という意識が伝わってきた。選手と観客の視点を両方とも重視しつつ、次世代につけを残さないよう効率的に使いやすい施設を造るべきだ。もちろん日本では自然災害が起きることを踏まえた安全の確保が最優先であり、その上でどこまで魅力的な施設としていけるか。マラソンなどの屋外競技では暑さ対策も重要になる」

 --施設造りで建設業への期待を。

 「日本の建設業の技術力は世界中で評価されている。海外に行くとそれがよく分かる。今後は建設業の皆さんからも貴重なアドバイスや知恵を頂きながら、より魅力的で中身のあるスタジアム・アリーナ改革を進めていきたい」。

 (すずき・だいち)1988年ソウル五輪の100m背泳ぎで金メダル。93年順天堂大大学院体育学研究科コーチ学専攻修了。日本オリンピック委員会理事、日本水泳連盟会長などを経て2015年10月から現職。千葉県出身、49歳。


 《スタジアム・アリーナ改革とは》

 政府が6月に決定した成長戦略「日本再興戦略2016」で提唱したスタジアム・アリーナ改革。1回の試合開催だけで最大数万人の観客を呼び込める経済的なポテンシャルに着目。今後の新築や増改築では、スポーツ以外のイベントも常時開催できる多機能化やイベント開催日以外も楽しめる商業施設の併設、気軽に来訪できる街なかへの立地を促し、より「稼げる施設」への発展を目指す。

 スポーツ産業の活性化策を話し合う有識者会議としてスポーツ庁と経済産業省が共催した「スポーツ未来開拓会議」が6月に公表した中間報告によると、日本政策投資銀行などの試算では、今後約20年でスタジアムとアリーナの新・改築需要は2兆円超に上る。

 スポーツ庁は17年度から、スタジアムやアリーナの新築や増改築を検討・計画している地方自治体などに専門家を派遣し、稼げる施設づくりを助言する新たなモデル事業に乗りだす。

 政府が17年度にスタートさせる次期5カ年の第2期スポーツ基本計画では、スタジアムやアリーナをまちづくりの拠点としても位置付ける。

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