◇思い出の掛け時計◇
私が住宅の現場管理をし始めた頃の話です。住宅にしては大きい物件を担当していました。その年は例年よりもかなり暑く職人さん達は思いどおりに動けず、なかなか作業が進みません。引渡日は決まっていましたが、間に合わないのではないかと、私はかなり焦っていました。
悪いことは重なるもので、その現場を担当していた大工さんが体調を崩し、長期入院されることになってしまいました。その大工さんの息子さんが少しずつ現場を進めてくださいましたが、お伝えしていた引渡日には間に合わない状況となってしまいました。私はもうどうしてよいかわからず、途方に暮れてしまいました。
頭ごなしに叱られることを覚悟して、引渡日が遅れることを施主様にお話ししお詫びにいきました。すると、「大工さんが病気になったのではしかたないね」と現状を理解し、許してくださいました。そればかりか、何度か現場に通うたび、畑で採れたトマトやキュウリを届けてくれました。施主様は、当時一人暮らしで夜遅くまで働いていた私を気遣い、優しく接していただき、くじけそうな私を励ましてもくれました。
そしてようやく無事引渡ができました。その時、施主様に何かを手渡されました。それは裏面に「感謝」と書かれた掛け時計でした。この現場では、施主様にご迷惑をおかけしたばかりか、私の方が成長させてもらい、感謝の想いでいっぱいで、涙が思わず流れ落ちました。
今年、その施主様から年賀状が届きました。建築は「家を建てる」のではなく「家を建てさせていただく」仕事で、引渡後も心でつながっている素敵な仕事だと思います。
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