2016年5月9日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・136

 ◇誇りを持って働ける産業に◇ 

 常に人材不足の状況にある海外部門だが、ここ数年の国内事業の増大で、人材確保はさらに困難になっている。

 中堅ゼネコンに土木技術者として入社した藤原隆太郎さん(仮名)は、現場や技術研究所、管理部門などを回り、10年ほど前から海外事業に携わっている。着任当時、国内市場の縮小を見据えて海外事業のてこ入れが必要との考え方が経営層の間で強まり、将来の収益源となるように事業基盤を再構築する動きが盛り上がった。

 会社は、技術者を定期的に海外部門に配置転換しながら人材育成を進めた。国内の受注量が減少する中、土木、建築両部門からは、会社が打ち出した経営方針ということもあって、海外部門に人材を出し渋る様子は見られなかった。

 ところが、異動に協力的だったのは5年前の東日本大震災まで。震災を機に状況は一変。東北の被災地で進む復興事業に加え、政権交代後の経済対策などで国内建設市場が急激に膨らみ、海外部門はそれまでとは逆に、海外勤務の技術者を国内の現場や事業所に移すように命じられた。

 「震災前の業界は需要低迷で多くの企業がリストラなどで組織をスリム化し、事業の採算性や作業効率を高めることに苦心してきた。これから生き残りをかけて、新たな体制に移行しようとした矢先の方向転換だった」

 人材不足は単なる一企業・産業の問題ではなく、国全体の問題として顕在化している。少子高齢化で生産年齢人口の減少が進む日本では、人材を継続的に確保・育成できるかどうかが産業の発展と企業の存続を左右する。

 大きな構造物を創り出す建設産業に魅力を感じ、土木技術者を一生の仕事に選んだ藤原さん。「今でも建設産業が持つ根本的な魅力は失われていない」と話す一方で、技術者が自身の将来像を描きにくくなっているとも感じている。

 戦後、日本では高度経済成長を経てさまざまな社会インフラが整備され、豊かな社会を築き上げることに誰もが懸命に取り組んできた。技術者も技能者もプライドと確固たる信念を持って仕事に従事してきた。それがいつの間にか変わり、建設産業への社会のマイナスイメージが強まる。「きつい、汚い、危険」の「3K」を代表する産業と見られるようになった。働き方や処遇など就労環境に対する低い評価が、若者の建設業離れを加速させている。

 藤原さんは「金もうけのことを第一に考えて技術者になる人間はいないだろうが、誇りだけでは生きていけないのも確か。一時的な需要の増減に踊らされずに、建設産業の将来ビジョンをあらためて示すことが求められている」とみる。

 藤原さんの会社では、手持ちの事業量が確保されており、当面は技術者のフル稼働の状況が続きそうだ。それでも社内の営業担当者との話し合いでは、18年以降の建設市場の先行きは見通せず、経営環境は厳しさが増すとの見方で一致する。

 海外部門の強化は国内市場だけに依存せず、多角的な事業展開によって企業存続を図る重要な経営戦略の一つ。それでもリスクが大きな海外事業の拡大に懐疑的な意見は社内に少なくない。

 「将来を見据えて海外人材を継続的に確保・育成する覚悟が必要だ」。グローバル企業を目指し、みんなが誇りを持って働き続けられる環境をつくることが、今の藤原さんの目標だ。

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