2016年5月27日金曜日

【若者に夢を】語り継ぐ-土木の心・1 元国土交通省技監・足立敏之氏

 近代日本では、古市公威、廣井勇、青山士、八田與一といった土木技術者による「人類の為、国の為」という献身的な活躍が発展の基盤を作った。社会の価値観が多様化し、若年層の進路選択の幅がかつてないほど広がる中、土木を志す若者へのさまざまなメッセージを「語り継ぐ-土木の心」と題したインタビューシリーズで伝える。土木技術者に求められる哲学や誇りとは―。

 --土木の役割についてどう考える。

 「道路、河川、港湾などのインフラは文字通り社会の基盤を形作る。国民生活や経済活動に一番近いところで活躍してきたのが土木だ。災害時も自衛隊や警察、消防などの実働部隊と共に土木部隊の力と専門知識が必要になる。復旧、復興の全段階で土木は不可欠で、国、地方自治体の土木部門や建設業の方々の出番となる。土木はわれわれの生活に欠かせない」

 「日本のぜい弱な国土を考えると、土木を担う建設産業は自衛隊や警察、消防などの公的分野と同じくらい大切だ。建設分野に携わる人たちはそれを国民に知ってもらう取り組みをすることが大切だ。公共事業批判などで萎縮している面もあるが、本来の大切な役割に国民が目を向けてくれるよう自分たちの役割を胸を張って主張すべきだ。きちんと訴えれば理解してもらえるはずだ。いつまでも『無名碑』だけを美学と捉えるのではなく、世間に知ってもらうことが大切だ」

 --地域の建設産業が疲弊している。

 「災害時に緊急対応に当たる地元建設業者がいない『災害対応空白地域』の発生が心配だ。そうさせない施策を国が打つ必要がある。自衛隊や消防は緊急時のために平素からトレーニングを業務の一環として行っているが、建設業は日ごろの工事を通じて災害対応のトレーニングを無償で行っている珍しい存在だ。こうした建設業の心意気に応えることが肝要だ」

 --土木の原点は。

 「初代土木学会長の古市公威が『(土木技術者は)いろいろな分野のリーダーを束ねるトップを目指しなさい』といった意味の言葉を遺している。リーダーの中のリーダー。それが土木技術者の原点だと思う。土木工事は現場に従事する大勢の人々の努力が結集され、その集大成として完成する。荒川放水路完成時の青山士の言葉『この工事の完成にあたり 多大なる犠牲と労役とを払いたる 我らの仲間を記憶せんが為に』の精神を忘れてはならない」

 --これから土木を志す若者にメッセージを。

 「こういう仕事をしてみたいというイメージを持つべきだ。そのためにキャリアを積み、資格を取り、夢の実現に向かってほしい。神戸市長を務めた原口仲次郎に『人生すべからく夢なくしてかないません』という言葉がある。60年前に本四架橋の必要性を訴えた際、市議会議員に『白昼夢を見ているのか』と批判されたのにそう反論した。土木技術者はこうあってほしい。吉田松陰は『夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に成功なし。故に夢なき者に成功なし』と言っている。社会全体で若者の夢をつくる環境づくりが必要だ」

 「日本はこれまで世界でも一流のインフラを整備し、経済発展の基盤にした。それが今は残念ながら二流三流の水準だ。インフラが二流なのに経済が一流ということはあり得ない。そんな状態ではインフラ輸出なども不可能だろう。日本を一流の国にするという夢があってもいい」。

 (あだち・としゆき)

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