2016年5月30日月曜日

【駆け出しのころ】日特建設取締役専務執行役員経営戦略本部長・屋宮康信氏

 ◇無理と辛抱の違いを知る◇

 入社試験の面接では、当時の社長から「君は大学時代に何をやっていたのか」と聞かれました。「野球です」とお答えしたら、「一生懸命にやっている何かを持っているかどうかが大事なんだ」といったことを話していただきました。自分の学力や知識に関することを質問されると思っていたので、そのやりとりは鮮明に覚えています。

 入社して最初に配属となったのが、ダム関連のグラウト工事でした。四国支店の現場です。作業員も職員も宿舎で共同生活をしていましたので、非常に家族的な雰囲気のある現場でした。

 「土木は経験工学であり、経験しないと持っている知識は使えないんだ」。先輩からよく言われたことです。あのころの技術者には、自分たちは現場で経験して覚えてきたという自負が言葉の端々に表れていたように思います。生意気だったかもしれませんが、真面目にやっていればそうした先輩たちのレベルにいつかは追いつけるだろうと考えていました。

 若いころの経験で忘れられないことがあります。ある日、宿舎で食事をしていると、父親と同じぐらいの年の作業員の方が話し掛けてきました。奄美大島出身の私はその時、東北から働きに来られていたその方の言葉がほとんど分かりませんでした。相づちばかり打っているうちに、相手が怒りだしてしまったんです。ところが、なぜ怒っているのかも分からない。

 後で周りの方に教えてもらったのですが、現場で危ない場所があると言っているのに、「お前は真面目に聞かないのか」と怒っていたのだと分かりました。現場で働いている方の話はよく聞かなくてはいけないと痛感する出来事でした。

 この経験は海外事業を担当している今にも生かされています。海外では言葉の壁を感じることもありますが、相手が特に何かを訴え掛けるように話す時は、いつもより真剣に聞くようにしています。若かった時に作業員が怒ってくれなかったら、こうした考えでいたかは分かりません。本当によく怒ってくれたと思っています。

 新入社員には入社時の役員訓示で「無理はしなくていいが、辛抱はしてほしい」と必ず言っています。会社に入って3年目くらいまでは勉強期間です。先輩に怒られたり、作業員さんから苦情を言われたりするのは自分にまだスキルがないからで、これは辛抱しなくてはいけません。でも、休まずに働くなどの無理は駄目です。これが無理と辛抱の違いです。辛抱する期間が過ぎたら、やりたいことや仕事でのやりがいが見えてくるはずです。若い人たちには機会があるたびにそう伝えるようにしています。

 (おくみや・やすのぶ)1981年愛媛大卒、日特建設入社。名古屋支店工事部長、大阪支店工事部長、執行役員事業本部副本部長、取締役常務執行役員経営企画室担当、取締役専務執行役員事業本部長などを経て、14年4月現職。鹿児島県出身、57歳。

現場に向かう山中で残雪を見つけ、みんなで記念撮影した時の一枚(30代のころ)


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