2016年5月24日火曜日

【回転窓】時代を切り取る迫力

仕事や旅行で地方に行った時、時間があれば街並みや建築物を見るようにしている。先日行った山形県酒田市では、昭和時代に活躍した写真家・土門拳の記念館を訪ねた▼「リアリズム」を追い求め、激動の昭和を撮り続けた戦後日本を代表する写真家。展示された作品の数々は、時間や空気はもちろん、被写体となった人物の感情まで、そっくり切り取ったような迫力に満ちていた▼完全主義者と言われた土門は、出費や労力をいとわず撮影を重ね、作品を生み出したという。記念館には本人から提供された7万点が収蔵され、保存作業を進めながら順次公開されている▼記念館は市街地から離れた緑豊かな公園の中にあり、コンクリートの建物と「拳湖」と名付けられた池や自然林が調和し、彼方に出羽富士・鳥海山も望める。設計は谷口吉生氏。自然と建物の協調が土門作品の魅力をより引き立たせていた▼新しい技術が次々に開発され、便利になり過ぎた感もある今の時代。生きていたら稀代の写真家は一体どんな瞬間を切り取るだろうか。報道の末席に身を置く一人として、鬼気迫る仕事を見てみたかった。

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