2016年5月17日火曜日

【建設生産システムを高度化】JS、BIM・CIM活用に本腰

取得した点群データで作成したプラント
 日本下水道事業団(JS)は、3次元(3D)モデルを活用し、下水道施設の調査・設計段階から施工、維持管理までの建設生産システムの高度化を図る「BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)」と「CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)」の活用に向けた取り組みを加速させる。本年度はこれまでの研究開発成果を基に、実際のプロジェクトに試験導入して課題を抽出するほか、運用ルールとなる「ガイドライン」も作成する。

 ◇下水道施設の整備・維持管理にBIM・CIM◇

 下水道の施設整備へのBIM・CIMの導入には、工種間の調整不足によって発生する設計、施工時の初歩的なミスの解消効果が期待されている。

 処理場やポンプ場の整備では、土木・建築構造物、機械・電気設備、プラントの機械・電気設備など一つの施設内で複数の工事が行われ、それぞれ設計、施工担当者が分かれている。1カ所の案件で複数の設計図面や特記仕様書が書き起こされるため、全体の工事内容の把握に時間がかかるほか、担当者間の情報共有や調整不足につながりやすい。これが異なる設備同士の干渉などのミスの発生原因になる。例え同じ工種でも工事の時期や業者が異なると、連携不足による不具合が生じることもあるという。

 3次元データを用いるBIM・CIMを調査・設計段階から導入すれば、2次元図面と違って情報を一目で把握できるようになるため、関係者間のコミュニケーションが促進される効果があるとみる。設備同士の干渉や取り合いのチェックなど品質確認を自動化でき、後工程での調整や手戻りが生じない質の高い業務が実現できるとみている。

 施設完成後の維持管理でも効果を期待する。膨大な施設ストックから発生するデータの効率的な集約・分析が可能になるほか、整備後の施設をコンピューター上で再現できるため、遠隔地にある施設の状況を瞬時に把握でき、震災が起きた時などに被災地と災害対策本部との情報共有の迅速化などに役立つ。

 ◇16年度試験導入、運用指針作成も◇

 JSの担当者によると、「下水道分野へのBIM・CIMの導入は前例がなく、実現すれば世界初」となる。JSはこれまで、民間企業らとの共同研究や開発を通じて、前例が無い中で試行錯誤しながらBIM・CIMの下水道施設用のモデル作成に取り組んできた。BIM・CIMの活用に当たり、基本的には既存ソフトを使用するが、「越流堰板」や「汚泥かき寄せ機」など下水道施設特有の設備情報が入っていないため、下水道の施設整備で使用する用語を盛り込んだ「プロダクトモデル」の研究・開発を14年8月~15年8月に実施した。

 プロダクトモデルでは、下水道施設を空間要素と物理要素で構成。空間要素は処理場、ポンプ場、管路といった施設の種類、処理場であれば最終沈殿池などの施設内の場所を記載。物理要素では、設置する設備名を細かく規定する。

 現状では、このプロダクトモデルを基に、既存の設計図から3次元モデルを起こすことに成功している。このほか、数十年前に整備され、設計図面などが無い施設などの更新・改築時に有効な「点群モデル」も作成する。

点群データを基に3次元モデル化した下水道施設内の配管群
3Dレーザースキャナーで施設内をスキャンして取得した点群データを3次元モデル化する手法で、データ収集に2~3時間、ソフト解析からモデルの完成まで約1週間でできる。

 モデル化では、配管など単純なデザインの設備は8割程度を自動認識するが、建物の躯体やポンプなどは認識が難しいため、位置だけ把握し、その後手動で設備情報を置き換えるなどして対応している。

 JSは本年度、これまでの研究・開発の成果を実証する段階に入る。下半期には、有効性を検証するため実際の施設整備の設計にBIM・CIMを試験的に導入し、メリット・デメリットや費用対効果などを調査する。調査期間や対象施設は未定。その後、同じ施設の施工時にも同様の検証を行う考えだ。

 導入後の運用を見据え、ガイドラインも作成する。ガイドラインには、施設の情報をどのレベルまで書き込むかを表す「LOD(Level Of Development)」などを提示。運用基準を統一し、BIM・CIMの活用の円滑化を図る。

 このほか、施設整備に使用した3次元データを施設の完成後、維持管理に使う設備管理台帳に反映させるため、データ連携を担う中間データベースの整備も進める方針だ。17~18年度の完成を目指している。

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