四国初の中層CLT建築「高知県自治会館新庁舎」の完成イメージ |
構造用の建築部材として世界的に利用量が伸びている木製重厚パネル「直交集成板(CLT)」。木造建築で最も懸念される延焼火災や地震に強く、低層・小規模だけでなく中層・大規模な木造建築も実現できるのが特色だ。日本でも、普及に向けた環境が官民双方で整い始めた。CLTは滞留する大量の国産木材の活用促進とともに、S造やRC造が主流の中層・大規模建築に新たな可能性を与える。国産材を使用した木造建築が拡大する兆しを見せている。
CLTは、ひき板を繊維の方向が層ごとに直角に交わるように重ねて接着した大判のパネル。現在、最大で厚さ30センチ程度、幅3メートル、長さ12メートルの原版を製造でき、壁や床に使用できる。従来の木質構造部材と比べ、断熱性や耐震・耐久性に優れるのが大きな特徴だ。
CLTの製造・加工の大半は工場で行われているため、プレキャスト(PCa)コンクリートの木製版ともいわれる。工場製作品のため安定した品質が確保できる上、通常なら建築工事の現場で行う加工などの作業を大幅に省略でき、施工性・作業性も高い。
こうしたCLTの優位性は世界的に着目され、2015年には世界で年間約65万立方メートルのCLTが製造された。20年前の1995年(約2・5万立方メートル)と比べ約25倍に増えたことになる。特に先行する欧州各国では、CLTを使った中層・大規模の住宅建築などが一般化しつつある。
一方、日本でのCLT建築の普及は世界に比べて遅れているのが現状だ。15年度末までに国内で竣工したCLT建築は累計でもわずか15棟。しかも、いずれも低層・小規模建築にとどまる。こうした停滞を招いている大きな要因の一つとみられていたのが、建築基準法に基づく規制だ。
国内でCLT建築を建てようとすると、従来のルールでは、個別の計画ごとに構造計算を行ってから、建物の性能について計画規模にかかわらず超高層並みに緻密で手間とコストのかかる大臣認定を取得する必要があった。
そこで国土交通省は従来のルールを緩和。CLT建築に特化した比較的簡易な設計法を定め、4月1日付で建築基準法に基づく告示として施行した。この設計法に基づいて構造計算を行えば、建物の性能について、大臣認定を受けずに建設できるようになった。
◇東京五輪関連施設が「見本市」◇
国内でのCLT普及をさらに強力に後押ししそうなのが、16~17年度にかけて着工のピークを迎えるとみられている2020年東京五輪関連施設の建設だ。今年12月に本体工事に入るメーン会場の新国立競技場(東京都新宿区)の計画には木材がふんだんに取り入れられ、「実質的にはCLT建築に当たる」との見方もある。国交省のある幹部は東京五輪を「メードインジャパンのCLT建築の見本市にもなり得る」と期待する。
もう一つの後押しが、政府が取り組む「地方創生」だ。CLTに使う木材に国産材を活用することで、国土面積の7割を占める森林の再生を促し、林産業や地域経済の活性化につなげようという動きが活発化している。
林野庁によると、国内にある森林の年間成長量は現在1億立方メートル程度だが、実際に木造建築などに活用されている量はこのうちわずか2割程度。木材利用量全体に占める国産材の割合も、回復してきたとはいえまだ3割程度にとどまる。5月に政府が閣議決定した今後5年間の森林・林業基本計画では、非居住建築物の分野でのCLT建築の普及を柱に新たな国産材需要の創出を図っていくことが打ち出された。
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国交省と林野庁が共同で掲げるCLT建築の普及目標では、24年度までに年間50万立方メートル程度のCLTの生産体制を構築することを掲げている。これは中層(3~4階建て)建築物の6%をCLT建築に置き換えられる量に相当するという。各地域で中層・大規模のCLT建築に対応できる建築士の確保・育成も急ぐ。
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