2017年9月5日火曜日

【九州北部豪雨での対応は】水資源機構筑後川局長・元永秀氏に聞く

 ◇ハード対策が減災効果発揮◇

 福岡県朝倉市や東峰村、大分県日田市が大きな被害を受けた7月の九州北部豪雨。線状降水帯による猛烈な降雨の中、水資源機構筑後川局が管理する寺内ダム(朝倉市)は過去最大の流入量を記録しながら、懸命の防災操作で水を貯留し下流の河川水位をコントロール。ダム湖で大量の流木と土砂を捕捉し下流河川への流出を防いだ。最前線で陣頭指揮を執った元永秀局長はハード対策の減災効果を強調しながら、急増する自然災害リスクを踏まえ、課題の検証や対策の見直しを行う必要性を指摘する。

 --7月の豪雨災害は九州北部地域に甚大な被害をもたらした。

 「豪雨が発生するまで寺内ダムは厳しい渇水状態が続き、稲作で最も水を使う時期にもかかわらず、渇水対策本部を設置するほどシビアな水管理を行っていた。しかし7月5日に猛烈な大雨が降り始めた。5日午前7時から6日午前4時までの21時間で、ダム上流箸立地点の総雨量は412ミリとなり、特に5日の午後3時から午後4時までの時間雨量は106ミリに達した」

 「ダムが満水になると水をため込むことができなくなる。このため異常洪水時に入ってきた水をそのまま下流に通過させる異常洪水時防災操作、いわゆる『ただし書き操作』の準備を進めた。下流域の朝倉市と福岡県大刀洗町の首長にそのことをホットラインで伝え、流域の住民に避難指示を出してもらった」
防災操作中の寺内ダム(写真提供:水資源機構)
 --過去に例がないほど猛烈な降雨に現場はどう対応したのか。

 「防災操作は5日午後2時10分から開始した。渇水により平常時に対して貯水位が約10メートル下がっていたため、この分の空き容量と洪水調節容量を活用した。容量をほぼ使い切り、洪水時最高水位131・5メートルまであと57センチというほとんど満水の状態をキープ、降雨や流出を予測しながら放流量を調節した。幸運にも雨が小降りになったため何とか耐えられ約11時間後に防災操作を終えた。結局ただし書き操作は行わずに済んだ」

 「寺内ダムは150年に1回という規模の洪水を想定し、計画高水流量が毎秒300トンに設定されている。九州北部豪雨では最大で計画高水流量の約3倍に当たる毎秒888トンという異常な洪水が流入した。これは管理開始以来最大の流入量だった。そのような中、防災操作により最大流入量の約99%に当たる毎秒878トンをため込み、下流への放流は毎秒約10トンに抑えた。防災操作によって全体で福岡ヤフオクドームの約6・5杯分に相当する約1170トンの水をため込んだ計算だ」

 「寺内ダム下流約8キロの金丸橋地点の水位は避難判断水位程度の3・5メートルにとどまったが、これは防災操作によって水位が約3・38メートル下がった結果だと推定される。ダムがなければ堤防から大きく越水し、佐田川周辺で浸水や堤防が決壊する可能性があった」

 --今回の水害では大量の流木が発生した。

 「被害拡大の要因になった流木もダム湖内に約1万3000立方メートルが流れ込んだ。九州地方整備局の調査結果によると九州北部豪雨全体で約21万立方メートルの流木が流出したと推定されている。このことを考えると寺内ダムは、かなりの割合の流木を捕捉したことになる。利水用の江川ダム(朝倉市)でも渇水で水位が下がっていたため約620万トンの洪水をため込んだ」

 「寺内ダムがある佐田川の隣を流れる桂川の下流域や赤谷川流域などでは大きな被害が出た。寺内ダム上流の黒川などの流域も被害を受けた。しかし、降った雨は同じだったにもかかわらず、寺内ダムや江川ダムの下流域は大きな被害を免れた。水をため込むことができる施設がある地域とない地域で、被害に大きく差が出た結果となった」
ダム湖で補足した大量の流木(写真提供:水資源機構)
 --今回の教訓を今後にどう生かす。

 「九州北部豪雨を受け水資源機構はリエゾン(災害対策現地情報連絡員)として被災自治体に職員延べ203人を派遣し、被災状況調査や所有施設での流木・土砂の受け入れ、ポンプ車による緊急取水、物資の運搬を行った。筑後川局始まって以来の災害だったが、水資源地域の復旧・復興のため、技術力を最大限発揮し組織一丸で最善は尽くせたと思う」

 「今回の災害対応でハード対策の重要性を再認識した。ただし寺内ダムも江川ダムも渇水で水位が下がっていて、何とか耐えられた側面がある。想定を超える大雨だったことも否定できない。これらを考慮すると今のハード対策で本当に十分かということを、考える時期を迎えているのではないか。課題をしっかりと検証し、今後も真の安全・安心、国土強靱(きょうじん)化に関係機関とともに取り組んでいきたいと考えている」。

《寺内ダムの概要》

 水資源開発公団(現水資源機構)が手掛けた初のロックフィルダムとして1978年に管理を開始した。洪水調節、既得取水の安定化・河川環境の保全、水道用水とかんがい用水の供給を目的とした多目的ダム。

 堤高83m、堤頂長420m、総貯水容量1800m3。江川ダムとの総合利用により福岡都市圏や福岡県南部地域、佐賀県東部地域に水道用水、朝倉市など2市2町の農地約5900haにかんがい用水を供給している。(写真提供:水資源機構)

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