◇人を守る公共事業を◇
1947年9月のカスリーン台風による大雨で、埼玉県加須市の利根川本川の堤防が決壊し、広大な地域が水没する事態となった。同市の大橋良一市長は、直前の同5月に市内で生まれ、両親などから水害の恐ろしさを聞かされてきたという。治水対策がなぜ必要なのか。利根川上流カスリーン台風70年実行委員長も務める大橋市長に聞いた。
--利根川の治水対策をどう見ている。
「当時の記録を見るにつけ、治水対策の重要性を改めて感じている。利根川は大河川であり、被害の大きさは他の河川とは比べものにならない。必要な治水対策は講じられてきているが、関東・東北豪雨で鬼怒川が決壊したように、支流を含めてまだ十分ではない。堆積している土砂の除去なども必要だと感じている」
「加須市には、利根川の右岸と左岸の両方が含まれる。右岸側は、カスリーン台風の時のように決壊すれば東京側へと水が流れていく。一方、利根川に渡良瀬川が合流する左岸側は、洪水が起きると、水がどんどんたまり、利根川の水位が下がらなければ水がはけない。対策も場所によって違う視点で取り組まなければならない」
--広域的な観点も重要では。
「水害の時には、水が来ないところに逃げなければならない。水がたまってしまう左岸側は、特に広域避難の必要性が高い。今年初めて市内での広域避難訓練を行った。バスで移動してもらったが、高齢の方など一人一人の状況が違い、短時間で避難してもらうためには、相当なシミュレーションを重ねなければならないと感じた。広域避難のためのアクセスも確保する必要があり、これから要望していく。(国土交通省関東地方整備局と利根川中流域5市町らで)広域避難協議会を立ち上げた。運命共同体として助け合うべきで、そうした共通認識に立っている。参考となるような枠組みを作りたい」
--利根川水系全体で意識を高める必要がある。
「上流部では傾斜もあり、水がどんどん流れていくが、下流に行けば行くほど、流れが緩やかになり、水位も高くなる。下流で雨が降っていなくても、上流の大雨が原因で下流が決壊する可能性もある。本当の意味で対策が必要なのは、(人口などが多い)中・下流のはずだ。ただ、大きい河川だからこそ、水害が起きるまで準備の時間もある。落ち着いて対応すれば、命は守ることができる。命は必ず守るという意識でやらなければならない」
--カスリーン台風で印象に残っている言葉は。
「『人間はもとより馬や牛、家、すべてを洪水は流してしまう。しかも、誰も抵抗できない』と聞かされてきた。起きてしまえば止めることができないし、(人を)助けようとしても助けられない。『公共事業は悪』のような話があるが、人を守る公共事業はやっておくべきだ。(戦前に)戦費優先であのような結果になった。洪水は、すべてをゼロにしてしまう。想像力を働かせて対応しなければならない。教訓をしっかり伝えていきたい」。
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