2021年10月29日金曜日

【デザイン調整で十分な協議を】新宿区審議会、新ラグビー場の高さなどに懸念

神宮外苑地区再開発事業の完成イメージ(7月の港区議会資料から)

  東京・新宿区が28日に開いた景観まちづくり審議会(会長・後藤春彦早稲田大学教授)で、新宿と港の2区にまたがる「(仮称)神宮外苑地区市街地再開発事業」の検討状況が報告された。日本スポーツ振興センター(JSC)が計画するラグビー場棟の高さ(約55メートル)に対し、出席した委員から周辺施設との調和を不安視する意見が出た。委員らは今後のデザイン調整で十分な協議を行うよう求めた。

 神宮外苑地区の再開発はJSCと三井不動産、明治神宮、伊藤忠商事の4者による個人施行の再開発事業。JSCは明治神宮第二球場(新宿区霞ケ丘町3の2)の解体跡地に、新秩父宮ラグビー場を含めたラグビー場棟の整備を計画している。

 審議会では、再開発事業のコンサルタントを担う日建設計の担当者が全体の計画概要を説明した。ラグビー場棟が隣接する国立競技場(約47メートル)よりも高いことに対し、委員から「スケールが大きい」「高さ20メートル程度のイチョウ並木など周辺環境と調和が難しくなる」といった意見が出た。「ラグビー場の高さを47メートル以内に抑えればなだらかな景観を生み出せる」との提案もあった。

 委員らはラグビー場の四角張ったデザインが、曲線的な国立競技場の造形と調和しないことも懸念。整備にBT(建設・移管)+コンセッション(公共施設等運営権)方式のPFIを採用する方針に対し、最終的な設計が不透明になることも危惧した。

 日建設計の担当者は「デザイン調整の体制などを検討していく」と応じ、PFIの公募手続きに当たっての景観協議で協力を求めた。JSCはPFI事業者を選定する一般競争入札(WTO対象)を2022年1月に公告する予定だ。

【本体工事の準備着々】首里城復元、「見せる復興」へ21年度は保管倉庫・加工場を整備

木材倉庫と加工場の整備を控える首里城
(9月25日時点、国営沖縄記念公園事務所提供)

  沖縄を象徴する首里城(那覇市)の正殿などが火災で焼失してから、31日で2年がたつ。この間、内閣府沖縄総合事務局は復元の準備を着々と進めてきた。来年度にスタートする正殿の本体工事に備え、本年度は木材の保管倉庫と加工場を整備する。綿密な市場調査を重ね、沖縄在来樹種を含め使用木材の調達も順調という。安全性に配慮しながら復元工事の様子を一般公開する「見せる復興」にも力を入れる。

 首里城は2019年10月31日未明に発生した火災で正殿、北殿、南殿が焼け落ちた。沖縄総合事務局は「首里城復元に向けた技術検討委員会」を通じ有識者から助言を受けながら、火災の再発防止に向けた防火対策、木材を含めた資材調達の在り方など、復元に向けた課題解決に取り組んできた。

 正殿の工事に備え20年度の基本設計を経て、本年度は実施設計を行っている。基本・実施設計は国建が担当。本体工事の施工者を決める一般競争入札(WTO対象)を来年度に公告し、下半期に着工する見通しだ。26年度の完成を目指す。

 正殿の構造材には国産のヒノキを中心に、一部で沖縄在来種の「チャーギ(イヌマキ)」(長崎県産)と「オキナワウラジロガシ」(沖縄県産)を活用する。沖縄総合事務局は19、20年度に市場調査を実施し、本年度から木材を計画的に調達している。木材需給が切迫する世界的な「ウッドショック」のあおりを受け、国内でも木材流通価格は上昇傾向にあるが、特段の影響は受けていないという。

 正殿の整備に備え、使用木材の保管や加工などを行う施設(S造2階建て延べ2163平方メートル)を建設する。既に入札公告済みで年内に施工者を決める。

 沖縄総合事務局は「見せる復興」として、破損したかわらの撤去や躯体解体などの様子を公開してきた。今後の復元工事も公開する予定だ。

 木材倉庫・加工場の整備に伴い、見学デッキが使えなくなるため、正殿の近くを通る仮設デッキを整備。27日に供用を開始した。デッキには首里城の絵や復元工事の内容を展示している。並行して正殿の完成後の着工を目指す北殿と南殿の復元方針も検討を深める方針だ。

2021年10月28日木曜日

【回転窓】ご当地キャラの今昔

  ご当地グルメやキャラクターなど、地域活性化への仕掛けはさまざま。先日出張で訪れた新潟市内のアーケード街を歩いていると、野球漫画「ドカベン」や「野球狂の詩」の登場人物らの銅像が立ち並んでいた。地元出身の作者・水島新司氏が街おこしに一役買っている▼北陸エリアを代表する都市の繁華街といえども、他の地方都市と同様にかつてのにぎわいは失われつつある。アーケード街で営業している路面店はまばら。周辺では再開発事業も進んでいるが、活性化の起爆剤としての効果は思うほど現れていないようだ▼うら寂しいアーケード脇の路地に入ると、小さなお寺の上方に巨大な弘法大師像が見えた。周囲の雑居ビルとミスマッチに思える異様な光景ながら好奇心から自然と引き寄せられた▼仏像のほか、昔の武将や偉人たちも見方を変えれば、人々を引きつけるご当地キャラと言える。その地域に残る歴史的・文化的なつながりに目を向ければ、新たな魅力発見へとつながる▼未知なるものへの好奇心は今も昔も人々の行動意欲をかき立てる。情報過多の時代だからこそ温故知新で得られるものは少なくない。

【デザインアーキクテトに田根剛氏起用】帝国ホテルが新本館のデザイン公表、コンセプトは「東洋の宝石」

田根氏による帝国ホテル東京新本館イメージパース
(検討段階のもので今後行政協議などで変更の可能性がある)

  帝国ホテルは、東京都千代田区の「帝国ホテル東京 本館」の建て替えプロジェクトで、デザインアーキテクトに建築家の田根剛氏を起用する。客室の広さを拡大する方向で検討。低層部は迎賓館としてのたたずまいを継承する。上層部をピラミッド状の形状にして象徴的な建物を目指す。27日に東京都内で会見した定保英弥社長は「優れたサービスが提供できる風格や重厚感のあるホテルを目指す」と話した。

 時期は2031~36年度を予定している。所在地は内幸町1の1の1。都が都市再生プロジェクトに位置付ける内幸町一丁目街区(約6・5ヘクタール)に位置する。本館やタワー館など総延べ約24万平方メートルの建て替えを計画している。タワー館は三井不動産と共同で建て替え、オフィスや商業施設の入る複合施設を建設する。時期は24~30年度になる見通しだ。想定する概算総事業費は約2000億~2500億円。

 新たな本館は宿泊施設としての機能を継承。外観のコンセプトは「東洋の宝石」になる。石材の採用も検討しているという。同日の会見で定保社長は「スタッフが笑顔でお客さまを迎える新たな舞台を作る」と語った。田根氏は「周辺の開発が進む中で、重厚かつ都市の中にたたずみ続ける建築の在り方を考えた」とデザイン検討の経緯を説明。日本を代表するホテルとして「唯一無二の姿はどうあるべきかを模索する大きなプロジェクトにしていきたい」と述べた。田根氏はエストニア国立博物館、弘前れんが倉庫美術館などの作品を手掛けている。

【施工はりんかい日産建設・四国通建JV】愛媛県今治市でFC今治の新スタジアム起工

スタジアムの完成イメージ(今治・夢スポーツ提供)

  愛媛県今治市が拠点のサッカーJ3・FC今治の新スタジアム建設運営会社「今治・夢ビレッジ」(今治市、岡田武史代表取締役)は、同市高橋ふれあいの丘に計画している新スタジアム「里山スタジアム」の建設工事に11月1日に着手する。敷地の約4万8500平方メートルは市から無償で借り受ける。当初は観客席6000席を確保する。2023年1月の完成を目指す。設計は梓設計、施工はりんかい日産建設・四国通建JVが担当。

 今治・夢ビレッジは、FC今治の運営会社「今治・夢スポーツ」(同、矢野将文社長)の全額出資子会社。26日に現地で地鎮祭を行った。徳永繁樹今治市長をはじめ、工事関係者ら約40人が出席し、工事の安全を祈願した。

 岡田代表取締役は「ここが終着点ではなく、365日皆さんが集まってほっとしていただける心のよりどころ、心豊かになる場所として何が必要なのか、考え続けていきたい」とコメントした。

 建設地の高橋ふれあいの丘は西瀬戸自動車道今治ICに近い丘陵地で、FC今治の現在のホームスタジアム「ありがとうサービス・夢スタジアム」や今治市営スポーツパークなどがある。観客席はチームのJ2、J1昇格に合わせ増やせるようにする。ランドスケープデザインは高野ランドスケーププランニングが協力している。総事業費は約40億円。

【拡張梁構造の屋根が特徴、座席数は約3万】広島市、サッカースタジアムの基本設計公表

 

新スタジアムの完成イメージ(報道発表資料から)

 広島市は、設計・施工一括(DB)方式で取り組む「サッカースタジアム等整備事業」の基本設計を取りまとめた。スタジアムのシンボルとなる屋根は、3本の矢をモチーフに矢を放つ弓のような拡張梁構造を採用、開放感ある翼のような形態とする。設計・施工は、大成建設・フジタ・広成建設・東畑建築事務所・環境デザイン・復建調査設計・あい設計・シーケイ・テックJVが担当。2024年1~3月に一部開業、24年7~9月に全体開業を目指す。

 事業では、中区中央公園広場にサッカースタジアム、東西広場エリア、周辺施設をつなぐペデストリアンデッキを整備する。サッカースタジアムはRC・SRC一部S造7階建て延べ約6万平方メートル。スタンドはプレキャスト(PCa)段床、座席は約3万席、2階と3階に幅約10メートルのコンコースを設ける。屋根部は拡張梁構造(付加制震構造)、スタンド部は1階が耐震壁付きラーメン構造、2~6階はラーメン構造(一部ブレース配置)とする。エリア設定・セキュリティー機能で国際試合にも対応。サッカーだけでなくラグビー・スポーツ教室なども行える複合的な機能を持たせる。

新スタジアム内部の完成イメージ(報道発表資料から)

 広場エリアは、スタジアムを挟む形で東側と西側に配置。整備面積は約3万5700平方メートル、うち芝生広場面積は約1万2000平方メートル。国道54号を横断する東側ペデストリアンデッキは東側で有効幅員8メートル、北側で4メートル。県立体育館や旧広島市民球場跡地方面の南側ペデストリアンデッキは有効幅員10メートル。それぞれ桁下高さ5メートル以上とする。歩行者の回遊性を高め、周辺地域との連続性と調和したにぎわいを創出する。

 事業に関連し、Park-PFI(公募設置管理制度)と指定管理者制度を活用して広場エリアのにぎわい施設を整備する「中央公園広場エリア等整備・管理運営事業」は、NTT都市開発・RCC文化センター・エディオン・NTTアーバンバリューサポート・NTTファシリティーズ・大成建設・中国新聞社・日本工営・広島電鉄・UDIで構成するグループが担う。

新スタジアムの鳥瞰イメージ(報道発表資料から)

2021年10月26日火曜日

【回転窓】思いを込める、思いを示す

  国内政治は31日投開票の衆院選一色だが、海外に目を向けると東南アジア諸国連合(ASEAN)と20カ国・地域(G20)の首脳会議が相次ぎ開催される▼ASEAN首脳会議は関連会合も含め26~28日にオンラインで開き、不安定な情勢が続くミャンマーへの対応などが主要議題になる見通し。ローマで開かれるG20首脳会議の日程は30、31の両日。新型コロナウイルスや経済の対策、気候変動問題などが取り上げられそうだ▼就任から約3週間がたった岸田文雄首相はG20への出席を見送りオンラインでの参加になるそう。足元を固めるまで本格的な外交デビューは先送り。24日投開票の参院静岡補選で野党候補に敗北したこともあり引き締めに必死なのだろう▼報道機関の世論調査によると465議席を巡る争いは結果が読みにくいよう。小選挙区は接戦になっているところが多く、報道各社は終盤の情勢によって結果が大きく変わるとみる▼選挙があるたびに投票率の低さが話題になる。先日、若手俳優らが一票の大切さを語る動画が公開された。自らの考えを投票用紙に込める。まずは意思を示す事が大切と改めて思った。

【施工は鹿島、29年12月竣工目指す】東京モノレール、浜松町駅ビル建替工事に着手

建て替え完了後の駅ビル外観イメージ(報道発表資料から)

  東京モノレールは、東京都港区の「浜松町二丁目4地区」で進む再開発の一環で、モノレール浜松町駅ビルの建て替え工事に着手した。隣接地に整備される再開発ビルとつながる、延べ約1万平方メートルの新たな駅ビルを整備する。設計はトーニチコンサルタントとJR東日本建築設計。鹿島が施工する。モノレールの運行を継続しながら工事を進め、2029年12月の竣工を目指している。

 駅ビルの所在地は浜松町2の4の12。世界貿易センタービルディング(東京都港区、宮崎親男社長)らが再開発を進める「浜松町二丁目4地区A街区」内にある。再開発では世界貿易センタービル(浜松町2の4の1)などを解体。街区全体で総延べ約31万4500平方メートルの施設群を整備する。世界貿易センタービルの跡地には、高さ約235メートルの超高層ビルなどを建設予定。鹿島の施工で既存建物の解体工事が進んでいる。

 既存の駅ビルは1964年に開業した。建て替え後はRC・S造5階建て延べ1万0800平方メートル。2階と3階に分かれていた改札口の3階への集約や、周辺に整備予定の自由通路との連携など、駅利用者の利便性を高める。3階部分には、隣接地に建設される再開発ビルとつながる歩行者広場を整備し回遊性を高める。

【延べ3300人が作業、481mの線路を切り替え】JR渋谷駅山手線内回り、広くなったホームの供用開始


  JR東日本は、東京・渋谷のJR渋谷駅で山手線内回りの横移動とホーム拡幅工事を実施し、25日から広くなったホームの供用を開始した。ホームを拡幅するため内回りの線路軌道を埼京線側(東側)に移動させた。線路の切り替え延長約481メートルを3工区に分け、複数の工程を同時に進行。22日深夜に始まり、25日未明には延べ約3300人の社員・作業員が工事に従事した。

 2027年度の完成を予定している渋谷駅改良工事の一環。今回の山手線内回り工事は▽線路移動▽工事桁横移動▽ホーム拡幅-を実施した。工事に当たり内回りの池袋~大崎駅間を23、24の両日に運休した。

 現場は外回りの山手線と埼京線に挟まれており、営業運転中は資機材の搬出入が難しい。JR東日本建設工事部大規模開発プロジェクトチームの芹澤卓哉課長は「(営業運転の妨げにならない)スペースが確保できる部分は事前に施工した。資機材を夜間に搬出入したり、ホーム下に格納したりするなどし、作業当日は線路の外からの出し入れを最小限に減らすよう計画した」と話す。

 線路軌道の切り替え延長は約481メートル。うちホーム部分の約235メートルは、線路を仮に受ける橋桁(工事桁)となっている。事前に施工した約90メートルを除く、約145メートル、17連の工事桁をジャッキで横移動。最大で約4・2メートル動かした。工事桁の横移動に伴い拡幅部分のホームを組み立てた。ホーム幅は最大で約5・1メートル広がった。

 ホームの北側(新宿方面、約105メートル)と南側(大崎方面、約141メートル)にある線路は、外回りの山手線と埼京線に近接し重機を置くことができない。このため作業員たちが声を掛け合いながら線路を動かしていった。南側では約64メートルを事前施工しており、残り約77メートルは横移動とともに線路の高さも上げた。最大で約2・0メートル横に動き、約0・2メートル高くなった。

 JR東日本の社員、建設会社の社員、協力会社の作業員など延べ約3300人が工事に従事。一度に現場に入る作業員は最大約800人となった。芹澤課長によると、マスクや保護メガネの着用、手洗い・うがいの実施など「新型コロナウイルスの感染対策で当たり前のことを徹底し重ねてきた。万が一、感染者が出ても別の人が対応できるよう準備も進めた」という。


 工事は▽北工区=線路横移動、工事桁横移動、ホーム拡幅など▽中央工区=工事桁横移動、ホーム拡幅など▽南工区=線路横移動など-の3工区に分けて実施。施工は北工区を鹿島・清水建設JV、中央工区を大成建設・東急建設JV、南工区を鉄建建設・東急建設・東鉄工業JVが担当した。

 渋谷駅改良工事は5段階で実施される計画。これまでに駅の南側にあった埼京線ホームを北側に移設し、山手線とのホーム並列化工事を実施した。今回の山手線内回り工事は3段階目。今後は山手線外回りの線路横移動とホーム拡幅工事、山手線内外回りの線路とホームの高さを上げる工事の2段階を経て、27年度に全ての工事を完了する予定だ。

【建設予定地は那覇市の奥武山公園内】沖縄県、J1規格スタジアム建設で21年度内に建設位置絞り込み

 沖縄県はサッカー・J1の試合が開催できる「J1規格スタジアム」の建設計画で予定地としている奥武山公園(那覇市奥武山町)内の活用可能な敷地の絞り込みを進めている。

 従来の公園機能をどうするかも含めてスタジアムやこれを補完する複合機能を配置できる位置を検討している。2021年度中に具体的な位置を整理する意向だ。

 県では法規制関連の調整や財源の検討と並行して施設を配置可能な位置を検討中。今春実施したエリア全体の整備条件設定に向けたサウンディング(対話)型調査は公園のうち約6・2ヘクタールの敷地を対象としていたが、スタジアムと複合機能に活用できる敷地をより具体的に絞り込む。

 スタジアムの必要敷地面積は2ヘクタール程度を見込み、陸上競技場と補助競技場の位置を中心に想定しているが、敷地の形状がいびつなため周辺用地の一体的な活用も視野に入れているもよう。公園の敷地は県有地と市有地に加え、一部民有地もあるため、民有地を避ける形で配置を検討する。配置可能な敷地がまとまれば報告書のような形で公表を予定している。

 サウンディングの際に提示した条件によるとスタジアムは収容人数2万人以上でイベントなどに多目的に活用でき、事業手法はサービス購入型PFIなどを想定。これに併設する複合機能は試合以外の日常的なにぎわいを創出できる独立採算事業の集客施設で、サウンディングではモノレールに近い敷地を活用する提案が複数出ていたもようだ。

2021年10月25日月曜日

【凜】東日本高速道路東北支社管理事業部・有賀しほりさん

  ◇安全、快適な利用へ使命感◇

 東北自動車道の秋のリニューアル工事に伴う渋滞を予測する「渋滞予報士」として堂々と9月にメディアデビューを果たした。橋梁の老朽化による床版取り換え工事が始まることを受け、対面交通規制による渋滞のメカニズムや予測方法を分かりやすく解説。「道路交通情報を確認し、出発時刻を調整することで混雑を回避できる。お客さまに安全・安心、快適、便利に高速道路を利用してほしい」と呼び掛けた。

 入社して4年。福島県郡山管理事務所でスマートICや橋梁設計など現場経験を積み、希望していた交通分野へ内示を受け、2020年10月に東北初の女性渋滞予報士に就任した。いつ、どの程度の渋滞が発生するかは例年、ゴールデンウイークやお盆期間を前に情報を発信してきた。コロナ禍の影響で渋滞予測ができないこの1年、過去のデータ分析や伝えやすさを追求し、訓練を重ねてきた。東日本高速道路会社の歴代渋滞予報士が東北支社に在籍していたことも心強く、多岐にわたってアドバイスをくれた。

 「高速道路の交通量も徐々に戻ってきている。10月後半から年末にかけ渋滞が発生しやすい」とみる。「予測に完璧は求めない。8割程度を心掛けていきたい」と気負いはない。「渋滞を減らして、安全・安心、そして快適に高速道路を利用してもらうことが渋滞予報士の使命」。経験を力に成長を誓う。

 (道路管制センター交通技術課、あるが・しほり)

【やっぱり!マイ・ユニホーム!!】四電工「機能性と安全性をアップ!!」

  四電工が約30年ぶりにユニホームを全面リニューアルした。コンセプトは「機能性と安全性の向上」。従来のものに比べ軽量で耐久性が高い生地を使用した。

 伸縮性と速乾性にも優れる生地で作業効率向上を追求した。従業員の労働環境のさらなる改善を狙う。新規採用のアピールなどにもつなげたい考え。

 上着の背中やパンツ横など複数箇所に反射素材を施した。暗い場所での視認性を高め、夜間でも安全に作業ができる。フルハーネス安全帯着用時に出し入れできるよう前面には縦型収納ポケットを、腕にペン差しを設けた。

 取り出しやすさや作業性向上を図った。作業服のコーポレートカラーに映えるようにヘルメットも黄色から白に変更。見栄えを意識し、社員が着用したいと思うユニホームにした。

 新ユニホームには10月から順次切り替えている。試作品製作から技術系の各部門にヒアリングを実施。ブラッシュアップを重ね、細部にまで気を配ったデザインに仕上げた。着用した社員からは「デザインが今風で気に入っている」「ポケットが使いやすい」「以前に比べて動きやすくなった」と評判も上々だ。

【駆け出しのころ】フジタ取締役常務執行役員国際本部長・君島誠司氏

  ◇相手を尊重し海外に夢を◇

 とにかく海外で仕事がしたい--。就職活動をしていた頃、商社やゼネコンが海外に多くの社員を派遣しており、真っ先に内定をもらった当社も中東を中心に約700人が海外で働いていました。

 入社後、思惑と違って九州支店に配属。沖縄の米軍基地にある小学校の建築工事を1年ほど担当します。契約など事務手続き関係はすべて英語を用い、基地に一歩入ればそこは外国。現場に出て安全管理や職人の作業支援なども行いながら、建設会社の仕事を学ぶことができました。

 その後、東京支店に異動し、入社5年目の1989年に大きな転機を迎えます。社命で北京に語学留学を予定していた社員が急病になり、代わりに私が行くことになりました。中国語の勉強以上に多国籍の留学生らとの交流が新鮮でした。しかし訪中から1カ月過ぎて天安門事件が発生。デモ隊と衝突して殺気だった軍隊が引き上げ時に周囲を威嚇射撃し、建物の窓ガラスが割れるなど怖い思いもしました。

 特別機で日本に帰ってから2週間後には、中国・西安の日中合弁のホテル開発プロジェクトの担当としてすぐさま戻ります。中国側が土地を提供し、当社が資金を拠出し建設したホテルを日系のホテル会社が運営。社員は技術系3人と事務系の私の4人が駐在していました。

 事件の影響で事業はスローペースでしたが、中国側の代表者らとホテルの組織や完成後の事業スキームなどを、じっくりと検討しました。買い集めた専門書で調べたり中国人スタッフに教えてもらったりと勉強の毎日。日本とは異なる価値観を持った人たちと一緒に仕事をすることは、苦労もありましたが楽しかったです。

 中国ではいろいろな要因で条件が変わるので、日本のように最初から緻密な計画やスケジュールを立てる習慣があまりなく、その時々でフレキシブルに対応します。日本のやり方を一方的に押し付けるのではなく、現地の人たちの意見を尊重し、うまくすり合わせながら事業を進めることの大切さを学びました。

 西安の後は、上海を拠点に投資案件だけでなく、日系企業の工場案件などの営業にも飛び回りました。通算24年にわたって中国の仕事に携わり、中国市場に進出している日系ゼネコンでトップを目指しました。現地のサブコンの活用や中国人所長の育成など、他社に先駆けて現地化に取り組み、競争力を高めていきました。

 私は日本よりも海外の方が性に合っていると感じています。海外の仕事ではつらく、苦しいこともありますが、国内では得られない面白みがあり、見識も広がります。若い人たちには海外に夢を持ち、内にこもらず知らない世界に率先して飛び出してもらいたいです。

入社10年目、西安のホテルで開いた中国側スタッフ
との懇親会で(左から4人目が本人)

 (きみしま・せいじ)1985年明治大学政治経済学部経済学科卒、フジタ工業(現フジタ)入社。藤田中国総経理、経営改革統括部長、国際本部長(現任)などを経て2020年から現職。神奈川県出身、59歳。

2021年10月22日金曜日

【回転窓】AIによる選別

  動画配信サイトに飼い猫を中心に投稿している人気ユーチューバーのチャンネルが一時配信停止となり話題になっていた。差別的なコメントや嫌がらせ行為などは禁止されており、抵触すると配信ができなくなる▼人工知能(AI)による判定で、動画の一部が禁止事項に該当すると誤認識された可能性があるとの見方も。停止のままでは収益が得られない。異議を申し立て懸念される動画を削除し復帰が認められた▼ヤフーがニュースサイトのコメント欄の誹謗(ひぼう)中傷対策を強化した。AIを活用した違反コメントチェックも導入済み。表現の自由は大事だが、ヘイトスピーチのような行為は許されない▼膨大なやりとりの監視には機械的なふるい分けが有効だろう。だがAIをだますデータを作ることも可能と言われる。特定の相手をおとしめるために工作し、言論を封殺するような事態も想定すべきだということか▼言葉や行為の可否の線引きは受け手の感情や社会背景でも変わる。一人一人の判断軸が問われるのはリアルもデジタルも同じ。誰かを傷つけていないかと想像する意識が、いつの時代も大事だろう。

【現存車両は1台だけ】文化審、国鉄バス第1号車の重文指定を答申

 JR東海のリニア・鉄道館(名古屋市港区)に展示されている「国鉄バス第1号車」が、15日付の文化審議会(文化審、文部科学相の諮問機関、佐藤信会長)の答申を受け、重要文化財(美術工芸品)に指定されることになった。

 鉄道省の省営バス岡多線(愛知県岡崎市~岐阜県多治見市など)の開業時(1930年12月)に使用された旅客用車両7台のうち現存する唯一の車両。交通史上、産業技術史上の価値が高く評価された。

 1930年に機械メーカーの東京瓦斯電気工業(いすゞ自動車、日野自動車などの前身)が製造したボンネットバス。全長約7mの大型の乗合自動車として官民共同で製造に取り組んだ。保守点検などさまざまな制度や仕組みも整えた。乗合自動車業の発展や乗用自動車の国産化で多大な貢献を果たし、先駆性や規範性が高いと評された。

 37年4月まで活躍し走行距離は約25万kmに達した。翌年から東京都千代田区にあった旧鉄道博物館(交通博物館)で展示され、2007年にさいたま市大宮区の鉄道博物館、11年にリニア・鉄道館へ移された。

【ランサムウエア被害、建設業界でも急増】建設関連各社、被害防止の有効策模索

巧妙に偽装したメールを送りつけるなど、ランサムウエア攻撃
の手口は多種多様。企業の対策は待ったなしの状況にある。(写真はイメージ)

  建設各社が国内外で被害が急増しているランサムウエア(身代金要求型ウイルス)対策に神経をとがらせている。犯罪の手口が巧妙になり被害規模も大きくなっている状況を受け、ハードディスクの暗号化や標的型攻撃メール訓練を実施する企業が増加。全ての通信を信用しない「ゼロトラスト」を前提に対策を取る企業も少なくない。テレワークの進展で隙間を狙った攻撃も否定できず、各社が有効策を模索している。

続きはHP

2021年10月21日木曜日

【回転窓】サブカルと郷土愛

 漫画やアニメ、ゲームなど、日本が世界に誇るサブカルチャー。今夏開かれた東京五輪のセレモニーでも、さまざまなコンテンツが盛り込まれた。評価は人それぞれだが、注目を集めたのは間違いない▼サブカルを活用した街づくりは各地で広がる。神奈川県小田原市では7月、地元出身のアニメ原作者・監督で「機動戦士ガンダム」の生みの親である富野由悠季氏がふるさと大使に就任。幅広い世代にファンを持つガンダムを新たな観光資源とし、誘客や知名度向上につなげる狙い▼関連事業も矢継ぎ早に打ち出される。バンダイナムコグループが展開する「ガンダムマンホールプロジェクト」の初弾として、「ガンダムと小田原城」「シャア専用ズゴックと小田原漁港」が描かれたマンホールふたを市内に設置。22日からマンホールカードも配布するという▼世間的には「小田原嫌い」を長年掲げてきた富野氏。コンプレックスを抱きつつ生まれ育った地元と距離を取ってきたのも郷土愛の裏返しか▼有形、無形を問わず地域とのつながりが多様な価値を生み出す。伝統的、歴史的なメインカルチャーとの融和に期待したい。

【下町情緒を楽しんで】東京・墨田区ら、東京スカイツリー中心に周辺地域ににぎわい創出


  東京都墨田区にある観光スポットの東京スカイツリーを訪ねた人たちに区内を回って楽しんでもらおうと、官民連携の街づくりが進んでいる。鉄道高架橋の下に商店街、隅田川の支流に船着き場などを設け、集客や回遊の仕組みを整備。隅田川に歩道橋を架け、隣接する浅草エリアとも行き来できるようにした。感染症の影響で落ち込んだ観光客を呼び戻せるか。これまで進めてきた官民の街づくりの真価が問われている。

 新型コロナウイルス感染症の流行前、東京スカイツリータウンには年間約3000万人の観光客が訪れていた。だが2020年度の来場者数は約1626万人。前年度と比べ56・3%減となった。感染拡大で人数は減ったものの、東京スカイツリーが持つ集客力のポテンシャルは変わらない。

 地域に根差した街づくりを進めてきた墨田区では「動線をつなぐことでにぎわいを取り戻したい」(都市整備部都市整備課)とコロナ後の姿を描く。

 東武鉄道、東京都、墨田区の3者は、東京スカイツリータウンの南側に面して流れる北十間川や、この川沿いにある隅田公園を生かした回遊性を持つ街をつくるために連携している。「北十間川・隅田公園観光回遊路整備事業」を14年度に始動。20年度に入り、新たな商店街や船着き場などが順次開業した。


 東武伊勢崎線(東武スカイツリーライン)浅草駅~とうきょうスカイツリー駅間で北十間川に面する高架橋の下に、複合商業施設「東京ミズマチ」が20年6月に誕生。高架下倉庫が商店街に生まれ変わった。国内外の宿泊需要に対応する宿泊施設や、川や公園と近接するレストラン、スポーツと一緒にカフェが楽しめる開放的な施設など14店舗が軒を連ねている。官民連携事業の初弾として、水辺の街づくりが形になった。

 「東京ミズマチににぎわいをもたらす上で、大きな役割を果たすのが舟運だ」(区の担当者)。区は北十間川を快適に利用してもらうため、水質浄化を目的に河道をしゅんせつ。舟運の出発点として東京ミズマチの東端部に、クルーザーなどが停泊できる「小梅橋船着場」を3月に完成させた。区は現在、船舶の運航やにぎわい創出などに関する実証実験を進めている。24年度以降、舟運事業を開始したい考えだ。

 東京ミズマチの北側に広がる隅田公園(約8ヘクタール)。区はPark-PFI(公募設置管理制度)で民間活力を導入して整備・運営を任せている。南側を先行して整備。樹木が多かった公園内に芝生広場を設け、見通しが良く家族連れに親しまれる空間を創出している。現在は北側の設計業務を進めている。

 東武線は東京ミズマチのある高架橋を西に進み、隅田川を渡り、浅草駅に到着する。東武鉄道は鉄道橋梁沿いに歩道橋「すみだリバーウォーク」を建設。20年6月に開通した。東京スカイツリーから呼び込んできた人たちを東京ミズマチや隅田公園にとどまらせず、隅田川を渡って浅草エリアに歩いて行ける道ができた。これは同時に、浅草側の観光客を東京スカイツリー側に呼び込む新たなルートにもなる。

 とうきょうスカイツリー駅周辺では今後も地域を回遊する仕組みづくりが計画されている。区は既存の「言問通り」「桜橋通り」を、にぎわい創出につながる街路に再整備。新たに「(仮称)南北通り」「墨田区画道路12号線」「(仮称)押上駅北口線」も整備する予定だ。駅北口には駅前広場を設けて滞留空間とし、駅だけでなく東京スカイツリータウンや、いくつもの街路に人をいざなう。区は21年度内に「とうきょうスカイツリー駅周辺街路整備計画」の素案をまとめる。

 隅田川の対岸にある浅草エリアも観光地でコロナ禍の厳しい状況に陥っている。台東区は「浅草地区まちづくり基礎調査」を20年度に実施。調査結果を踏まえ、21年度はコロナ禍での街づくりの在り方を検討している。学識経験者や地元住民らでつくる「浅草地区まちづくりビジョン策定委員会」を22~23年度に組織し、20~30年先の長期的視野に立った街づくりビジョンの策定作業に入る。

 隅田川を隔てた両区はともに都内屈指の観光スポット。それぞれに観光街づくりが進んでいるが、両エリアがともに魅力を高め合えば観光客をさらに引き付けることができる。そのためにも両区の連携と協力がより求められそうだ。

【現場の最新動向を配信】大林組、オンラインイベントで現場の最前線を紹介

建設中のエスコンフィールド HOKKAIDO

  大林組が主催するオンラインイベント「OBAYASHI LIVE SHOWCASE2021」が、20日に開幕した。国内で施工中の3現場と大分県やニュージーランドで進めている水素エネルギーの製造事業などを紹介。工事で使用している最新技術を交え、現場の最前線を配信している。21日まで視聴可能だ。

 オンラインイベントは、同社が掲げるブランドビジョンのスローガン「MAKE BEYOND つくるを拓(ひら)く」を実践する取り組みを紹介。メインの「つくるを拓く最前線オンラインツアー」は、同社が施工を担う国内3現場を中心に生配信を行っている。

2023年3月の完成を予定する川上ダム

 1現場目の「川上ダム」(三重県)は堤頂長334メートル、高さ約80メートルの規模。2023年3月の完成を予定する。仮想空間に実在する構造物を表現するデジタルツインを採用し、可視化を実現している。迫力ある現場を臨場体感できる。

 2現場目は「エスコンフィールド HOKKAIDO」を取り上げた。2023年に開業予定のスタジアムは、設計段階でBIMを使用。二重構造の大屋根は架設時にミリ単位で調整を行うなど細心の注意を払い、施工を進めている。

水素製造プロジェクトも紹介した

 再生可能エネルギーへの取り組みも披露した。大分県九重町とニュージーランド北島中部の都市・タウポで進めている水素製造プロジェクトに迫った。輸出可能なサプライチェーン(供給網)の構築に奮闘する社員の様子が垣間見られる。

OYプロジェクトとして高層純木造耐火建築物を建設している

 終盤は次世代研修施設「OYプロジェクト」を紹介した。22年3月に完成を目指す研修施設は、日本初の高層純木造耐火建築物で、木材利用に対する同社の姿勢を具現化した事業として注目を集めている。

2021年10月20日水曜日

【回転窓】縁起を担ぐトンネル工事

  トンネル坑口の上に飾られている「化粧木」。両端が上に反り、斜めに切られた形状。これは何だろうと思っていたら、現場の担当者が「鳥居」だと教えてくれた▼トンネル工事には言い伝えや風習などが数多くある。化粧木も山の神に対する信仰心の厚さと、社となる坑内の安全を祈願したものだ。確かに「山の神が嫉妬するから坑内には女性を入れない」などの言い伝えもある▼今でこそ安全な作業環境が確保され、坑内に女性を入れないことはないが、工事の安全を祈り、縁起を担ぐ作業員は今も多い。未知なる自然と向き合い施工する作業員にとって、自然への畏れは忘れてはならないのだろう▼19日付最終面にトンネル探究家・花田欣也氏の新書『鉄道廃線トンネルの世界』を紹介した。廃線にはなったが今なお公道や観光目的などで利用されている110のトンネルを解説している▼鉄道ファンが高じてトンネルの魅力にはまった花田氏。「トンネルの歴史を調べると、ただ通過するだけのトンネルが違うものに見えてきた」という。縁起を担ぎながらトンネルを命懸けで造った人たちの思いが伝わったのかもしれない。

【回転窓】民意が問われる時

  第49回衆院選が19日に公示された。2017年10月以来4年ぶりの総選挙は14日の衆院解散から31日の投開票まで17日間という短期決戦。岸田文雄首相にとって早速の正念場といえよう▼1回目の総選挙が行われたのは1890(明治23)年7月とされる。当時の帝国議会議員選挙は300議席で争われた。自由党や大同倶楽部、愛国公党、立憲改進党などが選挙戦に挑み、直接国税を15円以上納めていた満25歳以上の男性約45万人が投票。投票率は93・7%に達した。選挙後、愛国公党ら4派は合流し130議席で第1党についた▼コロナ禍は沈静化しているものの、世の中はなんとなく落ち着かないように思う。バブル崩壊後やリーマンショック後の不景気を知る人にとっては嵐の前の静けさのように感じるかもしれない▼総選挙があるからといって突然何かが変わるわけではない…。そんな思いが頭の片隅にあるようにも思える。新型コロナウイルスの流行で打撃を受けた家計や事業者を支援しつつ、中長期的な成長につなげる経済政策をどう構築していくのか▼聞き心地の良い話に終始することは、どうか勘弁いただきたい。

【施工は清水建設】韮山反射炉(静岡県伊豆の国市)、世界遺産登録後初の補修が最終段階に

足場を解体している韮山反射炉

  清水建設が静岡県伊豆の国市で施工する「韮山反射炉」の保存修理工事(発注・伊豆の国市)が、29日の完成に向け最終段階に入っている。仮設足場の解体が進んでおり、連双式と呼ばれる2基の反射炉が修理後の姿を見せている。韮山反射炉の修理は2015年7月の世界遺産登録後初めて。劣化箇所も含めて必要以上に手を加えず、現状保存に細心の注意を払っている。

 工事は20年10月に着手した。主な工事内容はれんがの補修、反射炉本体の補強鉄骨の塗装など。れんが補修では全体で約1万4000枚あるれんがの9%を劣化度合いに応じて新しくしたり、補足れんがを貼り付けたりした。補強鉄骨の塗装は一度すべての塗装を剥離し、鋼材にさびや劣化などがないことを確認。その上で適切な下地処理とフッ素樹脂塗装を実施した。

 韮山反射炉は西洋式大型大砲の鋳造工場として1857年11月に竣工し、1864年まで稼働した。鋳鉄の溶解が実際に行われた反射炉として世界で唯一現存する。保存修理工事は1989年の大規模保存修理工事以来32年ぶり。世界遺産登録後は初めてとなる。

エポキシ樹脂での補修箇所もあえて最小限の補修にとどめた
(写真は改修前)

 前回の補修工事では長期保存の観点から耐久性の高い補修材などを選定して補修した。今回は「(劣化した部分も含めて)世界遺産としてのありのままの姿を残すようにする」(清水建設の樋口尚志工事主任)ことが求められた。前回の補修時に塗布されたとされるエポキシが表出している部分は、現状をそのままに残す目的であえて手を加えず、消失したれんがを埋める補修にとどめた。

【朝もやに包まれた「大滝大橋」題材に】米土木学会フォトコン、吉井久美子さん(先端センター)が橋梁部門で2位に

朝もやに包まれる「大滝大橋」を撮影した吉井さんの作品(先端センター提供)

  先端建設技術センター(佐藤直良理事長)職員の吉井久美子さんが、米土木学会(ASCE)主催の橋梁写真コンテストで第2位を受賞した。作品名は「大滝大橋」。吉井さんは大滝大橋を撮影し、7部門中「ALL Bridges」部門でセカンドプレイスに輝いた。この写真コンテストでの受賞は日本人初。

 大滝大橋は埼玉県と山梨県を結ぶ国道140号の橋梁で埼玉県秩父市内にある。長さは345メートル。廿六木大橋とともに「雷電廿六木橋(らいでんとどろきはし)」を構成する。

 コンテストは2012年に始まり今年が9回目。7部門ごと2点の受賞作品が選ばれる。応募総数は20カ国から425点。ALL Bridges部門には175点の応募があった。

 吉井さんは「父の影響で昔から写真を撮るのが趣味だった。朝もやに浮かぶ橋は幻想的で美しかった。驚きと戸惑いを隠せない自分をよそに、ASCE日本支部事務局のみなさんが喜んでくださったことがうれしい」と喜びを語った。

【こんなに嬉しいことはない…】小田原市、「ガンダムマンホールカード」を22日から配布

配布するマンホールカード(ⓒ創通・サンライズ)

 人気アニメ・ガンダムの「マンホールカード」を手に入れよう--。バンダイナムコグループがオリジナルデザインのマンホールふた2種類を神奈川県小田原市に寄贈した。

 このうち栄町のダイヤ商店街内に設置された「ガンダム」のマンホールふたをカード化。小田原市観光交流センターで22日から配布する。時間は午前9時~午後5時。1人当たり1枚。無料。

 ガンダムマンホールプロジェクトは同グループが展開するIP(キャラクターなどの知的財産)を生かした新戦略「ガンダムプロジェクト」の一環。ガンダムの生みの親である富野由悠季さんは同市の出身。「ガンダム」と「シャア専用ズゴック」の2種類を7月に寄贈し8月に設置された。

 カードはマンホールのふたを管理する地方自治体と、下水道広報プラットホーム(GKP、長岡裕会長)が共同作成。小田原市のカードは「酒匂の渡し」と「ガンダム」の2種類となった。

2021年10月18日月曜日

【回転窓】安全な思い出のために

  列島が秋の空気に包まれて各地の紅葉が進んできた。群馬、新潟両県境にある谷川岳は、登山者が一段と多くなる時期を迎えた▼全方位に視野が開け、山頂まで続く尾根が見渡せるようになる標高1665メートルの「天狗(てんぐ)の留まり場」。鎖につかまる岩場もすいすい登ってきた身軽な小学生に「元気ね、気を付けて」と高齢の夫婦が声を掛けていた▼ロープウエーが1319メートルの天神平まで上げてくれて、最高1977メートルの双耳峰を往復すると5時間ほどの行程。密を避けるアウトドアが人気の中で初級者向けと紹介する雑誌があったり、SNS(インターネット交流サイト)で4歳の登頂が話題になったりしたこともあり、天候に恵まれた日は多くの人が行き交う▼谷川岳は登頂ルートの一つが日本三大急登という険しい山。事故はほぼ下山時に起きている。「『易しい=安全な道』ではありません」。登山指導センターが警鐘を鳴らしている▼天狗の留まり場から何組かのグループが引き返した。経験や体力から「ここをゴールに決めて登った」そう。楽しい思い出は無事に下山できてこそ。賢明な判断を支持したい。

【本拠地整備応援シリーズ第2弾】川崎フロンターレ、バナナの次はアボカドで!!

 サッカーJ1川崎フロンターレがホームスタジアム「等々力陸上競技場」(川崎市中原区)の改築費用を工面するため、「かわさき応援アボカド」を販売する。2009年から販売している「かわさき応援バナナ」に続くシリーズ第2弾。

 1パック4個入り398円(希望小売価格)のうち、5円が等々力陸上競技場整備基金に寄付される。地元川崎の青果卸会社、東一川崎中央青果などの協力を得て、市内のスーパーや量販店以外に試合会場でも販売を予定している。

 かわさき応援バナナは1房198円のうち3円が寄付される。12年間で約1000万円が集まったという。15年のメインスタンドの改修工事費に充てられた。川崎市は陸上競技場を球技専用スタジアムに改修する計画。アボカドやバナナの売り上げが計画の後押しになりそうだ。

【凜】丸藤シートパイル工場統括部千葉工場工務グループ・河本希美さん

  ◇知識深めて頼られる存在に◇

 建設資材の加工工場で働く女性は全社員でたった一人。前職は家電量販店の販売員としてフロアに立ち接客していた。「スキルが生かせる仕事をしたい」と一念発起。事務一辺倒の仕事ではなく、さまざまな職種と関われる現在の会社に魅力を感じ、迷わず転職を決めた。

 現場では気の緩みが重大な事故につながりかねない。入社当初に指導を受けた先輩社員の「緊張で疲れるといろいろなことを見落とす。肩の力を抜くことも必要だ」というアドバイスを、ずっと心に留めている。それでもメリハリをつけ、肩の力を抜いて仕事に臨むのはなかなか難しい。

 工場を動き回りながら検品や在庫管理に携わる。工事で使う土留めや鋼矢板などリース品の数量や、どんな現場で使われるかという情報の把握が大切になる。「情報は自社工場に乗り入れるドライバーや協力会社との会話」から手に入れるのがこつと明かす。

 物おじしない性格は日々のコミュニケーションに役立っている。顧客に修理費などを請求する業務の大元も任されるようになり、「やりがいを感じている」とほほ笑む。

 入社から2年。「会社からの期待を感じながら働くことを楽しみたい」とポジティブに仕事と向き合っている。「知識を深めて頼られる存在になる」のが当面の目標で、「初の女性工場長を目指したい」という思いを胸に秘めている。

 (こうもと・きみ)

【中堅世代】それぞれの建設業・298

小さなころに抱いた建設業への親しみが仕事の原点になった

 ◇憧れた父の背中を追って◇ 

 「自分の仕事の原点には建設業で働く父の姿があった。いつも父に誇れる自分でいたい」。行政機関で働き工事発注の関連部署で管理職を務める岡田宗久さん(仮名)は仕事で壁にぶつかった時、父親の姿が頭に思い浮かぶという。

 中国地方出身の岡田さんの父親は地元の建設会社に勤めていた。いつも作業着姿だった父親の背中を見て育った。大雨が降り土砂崩れなどが起こるといち早く現地に駆け付けていた。そんな姿を「格好いい」と感じ憧れた。幼かった頃は会社に出入りする職人が遊んでくれ、こっそり現場に入れてもらうのが楽しみだった。「自分にとって建設現場は遊び場だった」と当時を懐かしむ。

 建設業界を深く知りたいと考え、大学進学で迷わず土木工学科を選んだ。大学院に進みひたすら学問として土木を追求する日々。充実はしていたが、「これでいいのか?」という思いが心のどこかにあった。「小さな頃から慣れ親しんできた建設業界に恩返しがしたい」。いつの間にか膨らんできた思いをかなえるために、業界の発展を後押しできる行政機関で働くと決めた。

 就職後、最初に配属されたのは河川整備を担当する部署だった。専門用語が飛び交う職場。大学院まで進み土木を学んできたが、働き始めると右も左も分からなかった。一日でも早く戦力として認めてもらうため気付いたことはとにかくメモをした。「苦しいこともあったが、小さな頃に憧れた建設業界を深く知るきっかけになった」。

 働き始めて最も印象深い出来事は、1995年に発生した阪神・淡路大震災だ。大地震で倒壊したビルや高速道路。壊滅状態になった神戸の姿を見て、「大規模災害の恐ろしさを思い知った」と話す。

 被災地を支援するため時間を忘れ仕事に没頭した。復旧をサポートする施策立案や自治体との調整などやるべきことはいくらでもあった。昼夜を問わず業務に当たった。多忙を極め心身共に追い詰められたがそんな時、脳裏に浮かんだのは幼い頃に見た父親の姿だった。災害が発生すればどんな時でも現場に駆け付けていた父親。「今の自分と同じことを父親もやっていた」と思うと、不思議と力が湧いてきた。

 社会人になってから各地でさまざまな自然災害が起こった。地震や水害、火山噴火…。各地を襲った災害は枚挙にいとまがなく、被害規模は年を追うごとに大きくなっている。これまでの経験もあり、地域を守っていくのは建設会社という思いが強くなっている。

 60歳の定年退職を迎えるまで残っている時間はそう多くない。建設業界の関係者と話すとさまざまな課題に苦慮していると感じる。「今の自分があるのは建設業界のおかげ」。より親身になって話を聞き、より良い対応策を一緒に考えたいと強く感じている。

【きみに期待】川崎地質中部支社技術部2グループリーダー・原勝宏さん

原さん㊧と米田技術部長

  もっともっと視野広げたい◇

 10年間の北日本支社での勤務を経て2020年4月から現職に就く。道路、鉄道、電力施設の建設に関わる地盤調査などに携わっている。顧客の要望に応じて、部署や事務所の壁を越えて連携しながら品質の高い成果の提供を目指す。最近は社内研究や学会活動に携わる機会も増えてきた。社内外での新たな仕事や人との出会いに刺激を受け、「もっともっと視野を広げていきたい」と未知な業務にも積極的に挑戦している。

 ICT(情報通信技術)を積極的に活用し、顧客満足度や社内の生産性向上に貢献することが現在の目標だ。管理職としては、若手に自分の経験を踏まえて仕事の価値・面白さを伝えるため、「楽しく前向きに仕事する姿勢を見せたい」と考えている。

 休日のリフレッシュ方法は長年の趣味である登山。一般コースタイムより少し厳しめのペースで登り、体力的・精神的な自信につなげている。

 上司の米田英治技術部長は「真面目で、業務中は積極性や向上心を持って行動し、新たな知識の取得に取り組めている」と評価。「今後は大きな視野でのコンサル環境の変化に伴うリーダーシップを期待している」と話す。

【駆け出しのころ】パスコ取締役上席執行役員事業統括担当・品澤隆氏

  ◇共通言語で理解を深める◇

 学生時代にパスコを訪問した時、コンピューターを使ってデータや地図、画像を扱っている様子に大きな可能性を感じたのを覚えています。都市計画や土木的な要素が絡みあった航空測量の世界にも魅力を感じました。

 最初の配属先は仙台支社。本社で見たようなコンピューターを使った最先端の仕事場といった風景はそこになく、自分の思い描いていた職場環境のイメージと落差があったのは否めませんでした。パソコンは1、2台ありましたが、大半の業務は手作業。都市計画の基礎調査データをまとめる作業で電卓をたたいて集計したり地図の色を塗ったりなど、非常にアナログな作業でした。

 航空写真だけでは地図は作れず、現地踏査であちこちを歩き回りました。労力として大変な面はありましたが、基礎的なことを実体験で学ぶことができました。ソフトウエアなどIT設備に最初から頼ってしまうと、技術やノウハウのブラックボックス化が問題になります。アナログ的な作業に苦労することで、業務を改善し間違いをなくそうという発想が生まれてきます。

 支社も少人数だったため、若手ながらいろいろな仕事を任せてもらいました。技術的なことにとどまらず、プロジェクトの原価管理や協力会社への発注手続き、価格交渉など、大げさに言えば経営的な観点から経験を積むことができました。

 1年目の秋ごろ、GISを使う必要がある仕事を任され、東京の本社に出張しました。同行してくれた先輩は一通り説明した後、仙台にすぐ戻ってしまいます。何もかもが初めての状況の中、とにかくマニュアルを調べたり周りの人たちに教えてもらったり、試行錯誤しながら何とか2カ月ほどで業務を完了させることができました。GIS関連のスキルアップ以上に社内の人脈が広がったことが大きな財産でした。

 2年目にロックフィルダムの堤体の挙動を監視するアプリケーションの作成を担当しました。発注者との打ち合わせに出向いた時、ダムの「天端」を「てんたん」と読んでしまい、恥をかきました。同席していた営業職の先輩から「最低限のダムの知識も知らない人間が所属する会社に、仕事を任せて大丈夫だろうかと懸念を抱かせてしまう」と注意を受け、仕事への向き合い方を諭されました。

 専門領域の知識を高めると同時に幅を広げることも必要です。プロジェクトを一人で完結することはできません。多分野の人たちと交わる部分を、自分の中に増やすことを意識しながら業務に取り組んできました。共通言語で相互理解を深めながら、同じ価値観を共有することがプロジェクト成功の鍵になると思っています。

入社1年目ころ、仙台支社ではいろいろなことな仕事を任せてもらえた
(右側が本人)

 (しなざわ・たかし)1987年長岡技術科学大学工学部建設工学課程卒、パスコ入社。東北事業部技術センター長、執行役員事業統括本部長などを経て2021年から現職。東京都出身、57歳。

2021年10月15日金曜日

【回転窓】参加導く努力を

  菓子メーカーの亀田製菓が商品の味付けをテーマにキャンペーンを展開中だ。わさび味と梅しそ味の柿の種に、辛さや酸っぱさを強める要望が寄せられたが、どの程度が良いのか定まらない。そうであれば顧客に聞こうと「全国統一品質審査」と銘打った▼PR動画では、本気で悩む同社にタレントのマツコ・デラックスさんが「世に問うべきよ」と促す。現行製品と辛さなどを強めた再現レシピを比べてもらい、最多得票の味は期間限定で商品化する予定だ▼参加を促す試みは広告戦略の王道の一つ。重要なのは「もう少しこうなれば良いのに」という受け手の気持ちを上手に引き出すこと。言いたいことを発言する場があると、能動的な姿勢が湧き上がる▼14日の国会で衆院が解散された。新型コロナウイルス対策、経済活性化、外交など課題は山積み。19日公示、31日投開票の日程も正式に固まり選挙モードに入った▼将来の道筋を決める大事な選挙だ。最も問われるのは国民一人一人の姿勢なのだろう。だからこそ、政治の側が他党との違いを含めしっかりと政策を説明して、投票という形の参加を導き出してもらいたい。

【延べ4.5万㎡、23年4月着工目指す】東和不、東京・青海地区に大規模アリーナ建設

多目的アリーナの完成イメージ(江東区議会資料から)

  トヨタグループの東和不動産(名古屋市中村区、山村知秀社長)は、東京臨海副都心の青海地区に多目的アリーナなどを整備するプロジェクトで、アリーナの建設工事に2023年4月着手する。建物は3棟構成。総延べ面積は約4万5000平方メートルで、高さ約40メートルを計画している。設計者と施工者は決まっていない。25年6月の完成を目指す。

 建設地は複合施設「お台場パレットタウン」に位置する。住所は東京都江東区青海1の3の15。既存施設を閉館して取り壊し、トヨタ自動車と森ビルが所有する約7・4ヘクタールの敷地のうち、トヨタが持つ約2・6ヘクタールにアリーナを建設する。パレットタウンの跡地を再開発する大規模事業になる。

 新施設はバスケットボールなどのスポーツを観戦でき、博覧会や見本市などにも使える地下1階地上6階建ての「メインアリーナ」(収容人数約1万人)、地域に開放できる「サブアリーナ」、スポーツチームの本拠地機能を持つ「練習棟」の3棟で構成する。総延べ面積は約4万5000平方メートルとなる。再生可能エネルギーなどを取り入れるなど環境に配慮。最先端のテクノロジーやモビリティも導入する。災害の発生などを見据え、備蓄倉庫も設ける。

 敷地の西側は、東京テレポート駅南口に広がる「シンボルプロムナード公園」と調和した芝生広場となる。南東には多用途に利用できるコンコースを設ける。サブアリーナと練習棟の屋上は、東京湾が望める広場にする。

【電力供給支える仕事人】東電PGら、ライマンカード第2弾と鉄塔カード埼玉版を作成

  東京電力パワーグリッド(東電PG)が送電線工事業のリクルート活動の支援を目的に、送電鉄塔の工事や維持管理に携わる職業の魅力を伝える「ラインマンカード」と「鉄塔カード」(埼玉県版)を作成した。第2弾となるラインマンカードは送電線工事の作業員を写真で紹介。電力の供給に貢献している姿や鉄塔に関わる職業の魅力を伝える。送電工事会社の説明会での配布を予定している。

 電源開発送変電ネットワーク(東京都中央区、鈴木亮社長)と共同作成した埼玉県版の鉄塔カードは栃木県、群馬県、茨城県に続く第4弾になる。県内にある鉄塔を景色と調和する写真でカード化。線路名や電圧、鉄塔型などプロフィルも記載している。東電PGのイベントなどで販売する。鉄塔の魅力を感じてもらうイベント開催も検討している。

【サイバー空間のリスク対応】ランサムウエア被害、建設業でも続出

  建設業界で加速するDX。業界各社は働き方改革の鍵を握るとみて、経営の最重要課題に位置付け、先進技術を業務に取り入れようとしている。生産性や利便性の向上に大きな効果が期待できる一方で、情報流出やサイバー攻撃などリスクも顕在化しつつある。国内外で被害報告が急増しているランサムウエア(身代金要求型ウイルス)は企業にとって新たな脅威になりつつある。セキュリティー対策に詳しいS&J(東京都港区)の三輪信雄社長のインタビューや、被害事例を交え今後を展望する。

 □S&J社長・三輪信雄氏に聞く/大手と中小でランサムウエア対策が二極化□

 --国内企業でランサムウエアの被害が多発している。

 「ランサムウエア攻撃は、インターネット回線を利用して特定の人がアクセスできるVPN(仮想専用線)からウイルスが侵入するケースが考えられる。VPNの脆弱(ぜいじゃく)性を修正するには、『パッチ』と呼ばれるプログラムを適用すれば問題ない。パッチを当てたり、更新したりしていれば被害は抑えられる。大企業の中には、事故原因を調査・分析する専門組織(シーサート)を設置し対策している。中小企業の多くはパッチを当てるなど有効な手だてを講じていない。豊富な知識を持った人材も配置できていないなど、大手と中小で対策内容や意識が二極化している」

 --テレワークの進展も原因の一つか。

 「テレワークに備えて会社の倉庫に眠っていた古いパソコンを使用している点も要因の一つ。VPNにパッチが当たっていないので、結果的に侵入口を設けてしまっている。リモートワークによって、異常を検知しにくい環境がウイルス感染を助長させている。ランサムウエアはウイルスが侵入して起こるのではなく、ウイルスを踏み台にして人間が侵入している、と認識した方が良い。会社のエントランスからセキュリティーを通り抜けて社長室に行けるのと同じことだ」

 --建設業界でもウイルス感染が発覚した。

 「一昔前の標的型攻撃は、高い技術を持った犯罪グループが特定の企業に狙いを定めて情報を盗み出すのが定石だった。特に工場を保有する製造業やITサービスを提供する会社がターゲットになりやすい。サーバーがダウンすれば莫大(ばくだい)な被害を受けるからだ。標的型攻撃とランサムウエアを混同しがちだが、後者は不特定多数をターゲットにしている。日本のセキュリティー対策は個人情報の流出防止が前提にある。建設業界には『情報が盗まれても全ての現場はストップしない』という意識が見受けられる。特に中堅、中小企業はセキュリティー対策で課題を抱えている」

 --解決方法は。

 「シーサートのような専門人材を配置できないのであればセキュリティー対策に強い専門会社に外注するのが有効だ。当社にランサムウエア被害を相談する顧客の多くは、ソフトウエアの開発や保守・運用などを手掛けるエスアイヤー(ITベンダー)に頼んでいる。ただエスアイヤーは依頼主が強く要求しない限りセキュリティー対策を行わない。ユーザーはセキュリティーに対する意識を持つべきだし、エスアイヤーも真摯(しんし)に対応すべきだ」

 「対策費用を懸念する意見は理解できるが、外注するのだから一定額コストはかかる。特に製造業や建設業は協力会社を抱えている。中小企業が多くを占める協力会社は、セキュリティー対策が不十分だ。仮にランサムウエアの被害に遭えば、確実に情報が漏えいしてしまう。発注機関からの信頼も失いかねない。そうならないためにも、元請企業が協力会社にパッチを当てるよう進言したり訓練メールを一緒にやったりしてセキュリティー対策を助言するのも一つの手段だ」。

 (みわ・のぶお)1985年同志社大学工学部電気工学科卒、住友ゴム工業入社。90年ラック入社、2003年社長、08年S&J設立。日本の情報セキュリティービジネスの先駆けとして事業を開始し業界をリード。総務省最高情報セキュリティーアドバイザー、神奈川県警サイバー犯罪対策テクニカルアドバイザーなどを務める。経済産業大臣賞(個人)などを受賞。

 □被害企業の事例□

 警察庁が国内で発生したサイバー攻撃の現状などを発表した。2021年上半期(1~6月)はランサムウエア被害の申告件数が22都道府県で61件に上り、20年下半期(7~12月)の40件に対し大幅に増加していることが分かった。建設業の被害は8件。決して楽観できる状況にはない。直近でも建設関連企業がランサムウエア被害を受けている。

 ランサムウエア攻撃は、メールの添付ファイルやリンクにアクセスして起こるケースが多いが、被害を受けた企業では、セキュリティー機器の脆弱性を悪用されサーバーにウイルスが侵入した可能性が高いという。

 ある企業の担当者は「セキュリティー強化のためのシステム投資や体制整備に費用と時間がかかる。外出先での業務対応や在宅勤務などでの利便性の確保からセキュリティーが甘くなっていた」ことが原因と分析する。

 ランサムウエア攻撃で数百万のファイルやデータが暗号化。多数の自治体で個人情報や契約内容の流出が疑われた。同社は対策本部を設置した上で、対応窓口を一元化し業務と完全に切り離した。被害者である一方、ある自治体からは工期延長の理由が同社にあるということで指名停止処分を受けた。自治体からの処分は会社の存続にも関わる。担当者は「サイバー攻撃を受けると会社の評判や印象が悪くなる」と苦渋に満ちた表情を浮かべる。業務継続には信頼回復が何よりも欠かせない。数カ月にわたり不眠不休で丁寧な対応を図った。

 同社の場合、専門家の調査や自治体への対応など事態が落ち着くまで約3カ月を要した。専門調査会社の調査結果などから流出の可能性が非常に低いと判断したが、「100%安心とは断言できない」と気を引き締める。

 被害後、一度暗号化されたデータの完全な復元は難しいと判断し、サーバーをゼロから構築中という。被害を受けた後すぐにウイルス対策の強化やランサムウエアのダウンロードを阻止する装置の導入、より取り扱いがシビアな個人情報や機密情報はスタンドアローンのハードディスクに保管するなどの措置を講じた。サーバー構築に当たっては、セキュリティー強化を重点的に行い、月内には構築できる見込みだ。

 サーバー構築には数千万円という膨大な費用が必要になる。より高額で高度な機能を持ったシステムもあるが、かえって現場に混乱を招く可能性もある。このため「今までと同じ環境でセキュリティーレベルを格段に上げる」のが最良と判断した。

 各社がセキュリティー対策に重い腰を上げて取り組む中、手持ち資金の少ない中小企業にとってサイバー攻撃対策にかかる費用を捻出するのは一苦労と言える。年間何千万円もの費用をかけて対策することは経営圧迫にもなりかねない。泣き寝入りの状況にならないためにも、サイバー攻撃への対策強化に必要なコストを発注業務の一般管理費に反映した上で、予定価格を算定するべきだとの意見もある。

 サイバーテロという新たな犯罪手口とどう対峙(たいじ)していくのか。企業の姿勢が問われそうだ。

2021年10月14日木曜日

【回転窓】ものづくりの熱

  働き方改革に取り組む建設産業。ワーク・ライフ・バランス(仕事と家庭の調和)を重視し、仕事もプライベートも充実した人生にしてもらうのが目的で、単に休むことがゴールではない▼先日のインタビューで大手ゼネコンの役員が若い頃に熱中したギターを社会人になっても続け、今でもライブなど音楽活動に精力的に取り組んでいると話していた。忙しさで入社10年目ごろまでは空いた時間に一人でギターをつま弾く程度。それでも情熱を失わず、建設現場と音楽の両方でものづくりと音づくりに情熱を注いだ姿に感銘を受けた▼コロナ禍で自粛要請が長引き自宅で過ごす時間が増えた。楽器演奏を始める人が増えたそうで、手軽に購入できるギターは巣ごもり需要で人気とか。楽器業界はさらなる盛り上がりを期待しているだろう▼フェンダーやギブソンなど世界的なギターメーカーは、人気ギタリストが使用し、時には演奏者と一緒に開発することで、ブランド価値を高めていった。ものづくりの熱が人々に伝わりファンを魅了し続ける▼芸術の秋。自宅に眠っている楽器を引っ張りだし、昔の情熱を取り戻してみようか。