2021年10月8日金曜日

【歩きたくなる温泉街に】K計画事務所(東京都港区)、草津温泉の景観再生へ

  国内有数の名湯として知られる群馬県草津町の草津温泉で、一体感のある良好な景観形成が進んでいる。温泉や広場などの設計を担ってきたK計画事務所(東京都世田谷区)の北山孝二郎氏は、小さな仕掛けをちりばめることで、温泉街全体が一体感を持つようなしつらえを目指してきた。古き良き温泉街の面影を大事にするような景観を、住民らが主体的に生み出すような好循環が生まれつつある。


 出発点となったのは、草津町が北山創造研究所(東京都港区、北山孝雄代表)に委託してまとめた「草津湯源湯路(とうげんとうじ)街基本構想」だ。黒岩信忠町長は、明治から昭和にかけての景観を再生し、観光客らがそぞろ歩きしたくなる町づくりを展開する方針を表明。旅館跡地の駐車場を活用して、日帰り温泉施設「御座之湯」の建て替え(2013年完成)や、階段状のオープンスペース「湯路広場」の整備(14年完成)、草津名物である高温の温泉を冷ます「湯もみ」を見せる観光施設「熱乃湯」の再生(15年完成)と相次いで進めた。

漫画図書ギャラリー「漫画堂」
(撮影・ヴィブラフォト/浅田美浩)
 これらの建築設計をK計画事務所の北山孝二郎氏が手掛けた。伝統的な工法による木造建築を採用し、屋根にはかつての板ぶきを再現。「小さなスケールの屋根を連続させることで、民家が連なっているような景観を作り、周辺との一体感を図った」(北山氏)。それぞれの建物を、大量の温泉が湧き出る温泉のシンボルである「湯畑」に向かせることで中心軸となる動線を生み出した。温泉街の西側に位置する「西の河原露天風呂」までを結ぶように演出する照明やポケットパークの整備、トイレ改修なども実施した。


 次に取り組んだのが、湯畑から徒歩1~2分に立地する地蔵地区(敷地面積1805平方メートル)の周辺再整備だ。未利用のまま雑木林が残っていた高台の町有地に、漫画図書ギャラリー「漫画堂」(W造2階建て延べ75平方メートル)や「地蔵カフェ月の貌」(W造平屋99平方メートル)、棚田状の広場などを整備し、階段などでメイン道路と結んだ。

 6月に竣工式が開かれ、町は「裏草津 地蔵」と命名。町並みを見渡すことができる新名所となった。漫画堂には、町にゆかりがあるちばてつや氏、赤塚不二夫氏らの作品や、人気漫画など1万冊超をそろえた。カフェは指定管理者の決定を経て開業となる予定だ。いずれも開放感あふれる造りになっており、間には広場を設け、奥まで見通せるようにした。地蔵地区から木で覆った階段を下りた先にある源泉周辺には「顔湯」「手洗乃湯」「足湯」を整備した。

整備された「裏草津 地蔵」
(撮影・ヴィブラフォト/浅田美浩)

 草津温泉街の特徴である高低差がある地形をより生かすために、湯畑と地蔵地区の間にも展望台を用意した。「それぞれが近いが今までは視界に入っていなかった。立体的に見えるようにすることで面的な広がりが感じられ、町全体が身近になっていく」と北山氏。一連の仕掛けが、周辺にも足を伸ばそうと観光客らに思ってもらうための装置や原動力になっている。

 北山氏が大事にしたのは「大きな物をできるだけ造らずに、少しずつ町の景色を変えていく」ということ。町が主導して木の温かみのある景観をそろえてきたことで、店舗などで外観に木を取り入れる動きが出てきたという。「小さなお店がまねをして、どんどん変わってきた。それぞれの店や旅館、家が意識を持っていけば、点から線につながっていく」(北山氏)。木の塀や手すりや階段、ベンチなども同様に統一したコンセプトで整備していくことで、これらが道しるべのようになり、より先へと歩きたくなるような感情を生み出し、回遊性を高めている。

 昔からの木材や石などを利用した建物を増やすことで、良いイメージを持った町並みが形成されていくと、時間を経て大きな価値が生まれると、北山氏はみる。地蔵地区のさらに東に位置する「大滝乃湯」まで歩行者を優先する形で動線をつなげていくと、より魅力的になるとの認識だ。

 目当ての旅館や温泉だけに立ち寄って帰るのではなく、数日間滞在して町を歩きながら楽しんで過ごしてもらうのが理想の姿。北山氏は「温泉が湧いた所に人が集まったため、まっすぐな道が無いことが良い特徴。車の利用を減らしていけばもっとユニークな町になる」と期待を寄せる。今後も積極的に町に提案していく考えだ。

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