2021年10月13日水曜日

【回転窓】膨らむ借金

  カネにまつわる話は怖い。内田百閒の随筆は借金の話が多く、借金返済に奔走する中で独特な文学を作り出している▼百閒は取り立てる人を「鬼」に見立て、自ら百の鬼に責められる園の主人「百鬼園」と称した。家族の病気から借金が始まり、返すために借りるという行為を繰り返すうちに借金が膨らみ、教職までも失った▼巨額の借金は自らの不節制もある。お金を工面するため、運転手付きの車で友人などを訪ね周り、結局借りれず車代だけが残る。これでは借金は減るはずもない▼文藝春秋11月号で現役財務事務次官の矢野康治氏が「このままでは国家財政は破綻する」と題し、財政再建の必要性を訴えている。確かに政治家が人気取りだけでばらまきを続ければ借金が膨らみ、国がおかしくなる。ただ財政再建を優先するあまり、コロナ禍でしぼんだ経済をそのままにして良いとも思えない▼今こそ生活に困っている人や次世代の人のために予算を付ける時だろう。もちろん国民の安全・安心を確保するインフラ整備も含まれる。借金を抱えても百閒先生の文章にはユーモアがあった。そんな心のゆとりを持ちたい。

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