2017年5月2日火曜日

【球技場に-注目集めるハイブリッド芝】ピッチの強度・耐久性大幅向上、稼働率アップも

ハイブリッド芝「エクストラグラス」の断面。
天然芝と人工芝の根が絡み合い、ピッチの強度が向上する
 競技場や公園などで年間を通じて常緑の天然芝が利用できる環境が珍しくなくなっている。天然芝を管理し、ピッチコンディションを整える日本の技術は世界的にも非常に高いとされる。ただサッカーやラグビーでプロレベルの試合を開催するためにピッチコンディションを維持する費用は年間数千万円に上るとされ、使用頻度にも限界がある。ラグビーワールドカップ(W杯)や五輪の開催を数年後に控え、人工芝と天然芝を組み合わせる「ハイブリッド芝」が注目されつつある。

 ハイブリッド芝は、天然芝と人工繊維または人工芝を組み合わせてピッチを覆う。天然芝が成長する過程で人工繊維・芝と絡み合い、総天然芝よりも強く地盤に根を張り、耐久性が増す仕組みだ。

 人工繊維を専用機械で20センチ程度の深さまで打ち込む方法や、人工芝を織り込んだ基材をピッチの基礎部分に敷設する方法などがある。2015年のラグビーW杯イングランド大会では、試合が行われた13会場中9会場がハイブリッド芝のピッチだった。

 国内ではまだなじみのないハイブリッド芝。新技術の導入を目指し、技術開発や営業活動に力を注ぐ企業がある。三菱ケミカルの子会社・アストロ(東京都中央区、三矢雄二社長)はオランダからハイブリッド芝「エクストラグラス」の技術を導入。日本の気候風土に合った製品を開発し、Jリーグ・浦和レッドダイヤモンズのチーム施設(レッズランド)に昨夏、敷設した。

ハイブリッド芝を導入した浦和レッズユースチームの練習グラウンド
 同社のハイブリッド芝は基材をピッチの基礎に敷くタイプ。レッズランドのグラウンドキーパーを務める日本体育施設技術本部スポーツターフ管理グループの石井幹生氏によると、レッズランドのハイブリッド芝は「総天然芝だった頃より耐久性が高まり、維持管理の手間が圧倒的にかからなくなった」という。チーム関係者からも高評価を得ているそうだ。

 ハイブリッド芝の導入が脚光を浴び始める中、Jリーグは17年度、天然芝の割合が95%以上ならハイブリッド芝での試合を認めるようスタジアム検査要項を見直した。総天然芝より耐久性に優れ、ディボット(削り穴)もできにくく、結果的にピッチの稼働率を上げられる。

レッズランドのグラウンドキーパーを務める石井氏。
「維持管理の手間は圧倒的にかからなくなった」と話す
 ただし、実際にピッチの管理を行う石井氏は「ハイブリッド芝に対する期待の大きさは感じているが、少し誤解もあるようだ」と話す。ハイブリッド芝のピッチは人工芝の割合が5%以下で、芝の長さも天然芝の方が長い。ピッチはほぼ天然芝に覆われていると言って差し支えなく、「ピッチ管理も総天然芝の場合と変わらない」という。

9月発売予定の「エクストラグラスR」。
サッカーピッチ1面で、ほ場の切り出しから利用までが2~3週間で完了するという
 アストロは、基材敷設型の新製品として、ほ場で育成管理したハイブリッド芝をロール状に切り出し、現場に運搬して設置する「エクストラグラスR」を9月に発売する計画だ。レッズランドで3カ月程度必要だった養生期間を大幅に短縮できるのが特徴で、競技場だけでなく公共の多目的運動場や学校施設などをターゲットに需要開拓を進める。

 練習場ではなく競技場や球技場にハイブリッド芝を導入したケースは日本の場合、現時点では皆無に近い。ピッチコンディションの維持に苦労してきた神戸市の御崎公園球技場(ノエビアスタジアム神戸)は、ラグビーW杯を見据え、人工繊維打ち込み式ハイブリッド芝の導入を決めた。

 同市の建設局公園部によると、御崎公園球技場改修費として17年度予算に計上した9億15百万円のうち2億20百万円を使い、地温のコントロール設備とともにスタジアムにハイブリッド芝を採用する。工事は12月ごろに着手。来年2~3月には完了する見通しという。

 東京都調布市にある東京スタジアム(味の素スタジアム)では、東京都が3月、「東京スタジアムのフィールド芝導入実験業務」をオフィスショウ(東京都渋谷区、池田省治社長)に委託した。スタジアムに隣接する投てき競技練習場で打ち込み型と基材敷設型のハイブリッド芝を試験導入(各100平方メートル)し、全面採用に向けた検証を行う。同スタジアムはJリーグの公式戦を年間40~50試合開催するほか、コンサートや競技大会も開かれるなど使用頻度は極めて高い。

 天然芝ピッチの維持管理には経験に裏打ちされた技術とノウハウが必要で、多額の費用も掛かる。ピッチの稼働率が上げられ、維持管理の手間も減らせるハイブリッド芝への期待は高い。ただ日本では維持管理技術が確立されておらず、サッカーピッチ1面で1億円以上とされるイニシャルコストも無視できない。

 埼玉スタジアム2002のピッチ管理を手掛ける埼玉スタジアム2002公園管理事務所の輪嶋正隆芝環境課長は「注目はしているが、コストや技術の面で課題は多いのではないか」とし、「埼玉スタジアムへの導入は今のところ議論になっていない」と話す。

 スタジアムの利用頻度を上げることは、結果的として収入増につながる。ピッチの強度や耐久性を向上させ、使用機会を拡大できるハイブリッド芝の導入例が増えていくのか、注目する必要がありそうだ。


 □19年ラグビーW杯へ施設整備始動□

 ピッチへのハイブリッド芝の導入で転機になりそうなのが、19年9月20日~11月2日に日本で開かれるラグビーW杯だ。20チームが出場し、全国12都市を会場に予選リーグと決勝トーナメントを合わせて48試合が行われる予定。試合がある都市では大会に合わせ、会場となるスタジアムの整備や改修が今後本格化する。

 英国で開かれた前回大会では、試合会場の多くでピッチにハイブリッド芝が使われた。耐久性に優れ、短い間隔での試合でも芝の状態が比較的良好に保てるため、選手や大会関係者からも高い評価を得たという。

釜石鵜住居復興スタジアムの完成イメージ
19年大会に向け、開催都市ではスタジアムの整備・改修が始動しつつある。岩手県釜石市に新設される「釜石鵜住居復興スタジアム(仮称)」は4月27日に大成建設・新光建設JVの施工で工事に着手。東京都調布市の味の素スタジアムでは、改修工事の詳細な内容や施工時期などを盛り込んだ整備計画を都が策定する。

 小笠山総合運動公園エコパスタジアム(静岡県袋井市)を所有する静岡県は、16年度12月補正予算に債務負担行為で人工芝整備などW杯開催推進費を計上。御崎公園球技場(ノエビアスタジアム神戸)を所有する神戸市の久元喜造市長は、2月の記者会見で「ノエビアスタジアムにハイブリッド芝を敷設する」との方針を表明し、17年度予算に9億15百万円の改修費用を盛り込んだ。

 大会まであと2年余。ハイブリッド芝導入を明らかにしているのは現時点では神戸市など限られるが、今後、施設整備計画が固まっていく段階で導入を表明するケースが増える可能性もある。

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