経済産業省とスポーツ庁は、多機能・複合型のスタジアム・アリーナ整備を後押しするための「資金調達手法・民間資金活用プロセスガイド」をまとめた。
行政機関に頼ったこれまでの方法から脱却し、より魅力的で高い事業採算を可能にする施設整備の方向性を具体的に示した。プロジェクトの構想段階から建設や運営など多岐にわたる業務・事業を精緻(せいち)に分解・分析して、公共の役割や民間事業の可能性を明確化する必要があると指摘。官民連携プロジェクトとして位置付けを明らかにした上で、民間企業が事業の上流段階から主体的に参画することで、これまでとは一線を画したスタジアム・アリーナが実現できるとしている。
これまでのスポーツ施設は建設、運営ともに行政機関が主導し、プロジェクトに伴うリスクやコストを行政機関が負ってきた。プロセスガイドでは構想段階から官民がパートナーシップを組み、検討を重ねることでスタジアム・アリーナ整備の経済波及効果や収益性、地域への貢献などで官民双方の均衡点(ベストミックス)が追求できるとしている。その上で施設特性や地域事情、施設の収益構造に対する認識をプロジェクトの関係者が共有。民間事業者が施設収入を最大化するための方策を検討・具体化すれば、公共の財政負担を軽減しながら収益を生み出す、新しい形のスタジアム・アリーナ整備が可能になる。
プロジェクトを具体化・進行する上での留意点として、プロセスガイドでは①ステークホルダーの確認と検討体制の整備②顧客の把握と情報提供③顧客経験値の向上④多様な利用シーンの実現⑤まちづくりの中核となる施設⑥収益モデルの確立とプロフィットセンターへの変革⑦収益性の検証と設計などへの反映⑧民間活力を導入する事業方式と多様な資金調達⑨顧客経験値向上ためのインフラ整備-などを列挙。「多様な資金調達」では地方財政や国費に頼ったこれまでの手法を、民間資金を組み合わせた資金調達に転換するべきだと提言している。
海外での成功事例としてヤンキー・スタジアム(米国ニューヨーク州)、ステイプル・センター(同カリフォルニア州)、ウェンブリー・スタジアム(英国ロンドン市)などを紹介。2007年に竣工したウェンブリー・スタジアムはアリーナとともに、オリンピックレガシーを活用したロンドン最大規模の都市整備・再開発プロジェクトの中核施設として、ブレント特別区のまちづくりに大きく貢献しているという。
スタジアム・アリーナの収益性を高めるには快適性と先進性、地域環境、効率活用、複合性の5項目を織り込むことが必要だと強調。効率活用では施設の主目的である競技実施に加え、コンサートやコンベンションなど従目的のため、特にスタジアムではハイブリッド芝の導入などが必要だとした。
国内のスタジアム・アリーナ整備の資金調達は現在、行政や大企業・運営事業者のコーポレートファイナンスが中心となっている。一方海外ではプロジェクトそのものの収益性に基づくプロジェクトファイナンスが多く活用されている。
資金の返済原資が主に施設収益となるプロジェクトファイナンスの方が、事業そのものの収益性やキャッシュフローを厳しくチェックされる傾向にある。構想段階から緻密な検討が不可欠になり、無駄な投資が抑えられる効果が期待できる。また施設の主利用者になるプロスポーツチームなどには高い経営能力が求められようになる。
政府は地域の交流拠点となるスタジアム・アリーナを2025年までに20カ所整備する目標を設定している。スポーツ庁らは昨年7月に立ち上げた「スタジアム・アリーナ推進官民連携協議会」を中核組織にして、専門家派遣やガイドライン策定などにより、先進的なプロジェクト形成を支援する考えだ。
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