2017年5月22日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・168

職場で日々成長が感じられるのは幸せなこと…
 ◇頭と体を使う充実感得られた◇

 ものづくりの世界に興味を抱き、大学で建築分野を専攻した兵藤幸音さん(仮名)。就職活動をした10年ほど前は、建設産業は市場の縮小傾向が続いていた。女性が就労するための環境も、今と違って十分には整っておらず、周囲からは他分野への就職を勧められた。

 大学の友人たちを見ても建設会社を志望する人は少なく、自身も建築分野とは全く関係のない小売業の会社に就職した。事務や営業関係の業務を任された。上司や先輩たちにも親切な人が多く、特に不満もなかった。だが、数年が過ぎた頃、ルーティンワークを繰り返す日常に疑問が湧き、手に職が付かない将来に不安を感じるようになった。

 日々の仕事の中で技能を身に付け、自分の成長を実感する。それができない現状へのいら立ちが募り、次の行き先を見つける前に退社を決断。とにかく現場に出られる企業を探し、最終的に設備工事関係の専門会社に転職した。

 今、サブコンの技術職員として現場管理を任されている。職人に代わって玉掛け作業を手伝ったり、現地で設備の据え付けを行ったりすることもある。ものづくりを通して日々いろいろなことを経験し、知識を吸収できることに喜びと生きがいを感じる。「現場勤務は体力的に厳しいと思う時もあるけれど、それ以上に頭と体を使って働く日々の充実感は、以前の職場では得られなかった」。

 大学で建築を勉強しただけに、将来は設計部門に異動して図面作成に携わりたいと考えている。そのためにも今、現場を経験することは自分にとってプラスになると思う。個人の感性によるところが大きい意匠関係の設計などと違い、設備関係の図面は現場を深く理解することが求められる。

 「配管などの設備の納まりが現場と合っていないひどい図面もあり、職人から怒鳴りつけられることもある。現場のことをろくに知らず、空調の効いた室内で描いた図面がよい図面であるはずがない。社歴がいくら長くても、現場経験のない設計担当者ではものづくりの本質を理解するのは難しいだろう」

 今は現場の経験知を高めることに没頭する毎日だ。玉掛け作業は、職人の動作を見よう見まねで自己流でやっていたため、講習会を受けて正しいやり方を頭と体にたたき込んだ。現場の安心・安全を確保し、作業効率を高めるには、横着せずに正しいやり方を実践することが第一。基本を身に付けているからこそ、応用してより高度な技能を必要とする作業が行えると信じている。

 女性技術者として現場に出て5年以上たつ。一人前にはまだまだ遠いが、この業界で働き続ける自信と体力は付いてきた。周囲からはまだ心配する声も聞こえてくるが、仕事に打ち込む姿を見て応援してくれる。

 一方で、両親からは「結婚」というプレッシャーが強まりつつある。特に「婚活」は意識していない。ものづくりの仕事のやりがいと喜びに共感し、理解してくれる伴侶が見つかるまで、自然の流れに任せようと思っている。

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