「お客さまは神様です」。ご存じ昭和歌謡界の大スター、三波春夫さんの名せりふである。このせりふ、ビジネスの世界でもしばしば用いられる▼顧客の要求は至上命令、どんな無理難題にも応えなければ-。そんな意味合いが込められていよう。だが、三波さんがこの言葉に込めた真意はどうも違うようである▼「あたかも神前で祈るときのように、雑念を払って澄み切った心にならなければ完璧な芸をお見せすることはできない」。マネジャーを務めた長女の美夕紀さんが、ご本人から生前に聞かされた言葉を三波春夫オフィシャルサイトで紹介している▼お客さまとは聴衆のこと。ステージの演者と客席のオーディエンスの関係を表現したのがあのフレーズで、飲食店の客や営業先のクライアントとは意味が違うと。ご自身も誤解を解くべく折に触れ真意を語っていたそうだ▼昨今の過労死問題や宅配便現場の疲弊などの底流には多かれ少なかれこの言葉があろう。受注産業の建設業も例外ではない。芸を極めるための心構えが独り歩きして過重労働の遠因になっているとしたら、泉下のスターも居心地が悪いに違いない。
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