2017年5月8日月曜日

【駆け出しのころ】大林組執行役員設計本部長・山本朋生氏

 ◇とらわれ過ぎず帆船のように◇

 大学で建築デザインを学んでいた頃、大好きな建築家のお一人が安藤忠雄さんでした。コンクリートで造る美しい建築に憧れたものです。大林組に就職したのは、何人かの先輩からお話を伺い、実直で誠実な社風が自分に合っていると思ったからですが、安藤さんの作品を大林組が施工していたのも、志望理由の一つだったかもしれません。

 入社して1年間は神戸市内にある大規模集合住宅の建築現場で施工管理を経験し、2年目に設計本部に配属されました。設計本部にはユニークな上司や先輩が多く、若い頃に聞いた言葉の中には、印象に残っているものがいくつもあります。

 その一つが、建築プロジェクトの進め方を操船に例えたもので、「大規模プロジェクトというのは大型客船やタンカーと同じ」という言葉です。大きな船はモーターボートなどの小型船と違い、舵(かじ)を切ってもすぐには方向を変えられず、ブレーキをかけてもすぐには止まれない。だから、そうしたことを「よく分かった上で運転しなさい」との教えでした。当時、実際に大規模プロジェクトを一緒に担当していた上司から聞いた言葉だったため、今でも鮮明に覚えています。

 他の大先輩からは「意匠設計者は男芸者みたいなもので、お客さまと一緒に踊ってなんぼの仕事なんだよ」と伺いました。顧客と気持ちを合わせ、一緒に盛り上げるということですが、これを聞いて「なるほど」と思ったものです。こうして振り返ると、私は上司や先輩方からその時々に多くのありがたい言葉を頂いてきたと思います。

 設計者というのは、どうしてもこだわりが過度に強くなりがちで、周囲からすると、それが単なる思い込みにしか見えない場合があります。何かが違うと思ったら、冷静になって「とらわれ過ぎずに」一度自ら離れてみることが大切なんですが、伝えたいのは「帆船のように進もう」ということです。潮や風の流れ、空模様、岸辺の地形など周囲をよく観察し、さまざまなことを自分の肌で感じながら、そのことを楽しみながら、力技に頼らず前に進んでいきたいものです。

 私はこれまで建築設計一筋で歩んできたわけではなく、営業も担当するなど少し風変わりな経歴です。若い人たちにはなるべくならこうした寄り道を勧めたいと思っています。一直線もいいけれど、さまざまな寄り道は自分を成長させてくれます。そうしたところから、実は自分の道が見えてくるのではないでしょうか。いろいろと経験すれば必ず幅を広げることができます。寄り道のチャンスが巡ってきたら、それをぜひ楽しんでほしいと思っています。

 (やまもと・ともお)1984年東大工学部建築学科卒、大林組入社。ペンシルベニア大大学院留学、東京本社設計本部設計第四部設計課担当課長、同東京建築事業部営業第一部営業部長、本社設計本部建築設計第二部長、同設計本部本部長室長などを経て、2017年4月から現職。東京都出身、57歳。
入社1年目は建築現場で施工管理を担当した。
仕事の合間に班長と肩を組んで(本人は左)

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