2015年10月5日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・112

家を引っ越し、生活にゆとりが生まれることも…
◇仕事で自分の時間を削れますか?◇

 建設コンサルタント会社で働く技術者の畑山貢さん(仮名)。設計や調査などコンサルタントの仕事はとにかく忙しく、「自分の時間を削らなくてはいけないこともある」と、ある程度は覚悟して入社したつもりだった。

 だが、今でこそ長時間労働を減らそうと、業界では「働き方改革」への機運が高まっているものの、入社してしばらくは在社時間の長さに嫌気がさすことも少なくなかった。

 「誰だって良いものは造りたい。でも、予算と時間は限られ、当然に会社の利益確保も求められる。一つの仕事に突き詰めて取り組むほど、会社にいる時間だけでは終わらない」。残業しても終わらない日は、仕事を家に持ち帰る。いつからかそれに疑問も抱かず、当たり前のようにこなす自分がいた。

 受注した業務を、決められた期日までに間に合わせるためであれば、どんなに忙しくてもまだ割り切れる。しかし、「これは契約の範囲内なのか」と疑問符が付く業務は別だ。金曜日の夕方、発注者から突然に「来週月曜の朝一番に持ってきて」と説明用の資料づくりなどを指示されることも珍しくない。

 「すべては発注者からの信頼を得るため」と土日の休みを返上して対応するが、「少しは考えてください」と本音をぶつけたくなるのを何度もこらえてきた。

 転機は十数年前。畑山さんは別の建設コンサルタント会社に転職した。忙しい日々から逃れたかったわけではない。「技術者としての幅をもっと広げられる会社で挑戦してみたい」という思いが日増しに強くなっていたからだった。

 会社に退職を願い出ると、入社当時からいろいろなことを教えてくれた社長をはじめ、上司や先輩から強く引き留められたが、それ以上に決意は固かった。

 現在、畑山さんは転職先の会社で、少人数とはいえ一つの設計グループを率いている。忙しさは相変わらずだが、会社から受注目標の達成と利益の確保がよりシビアに求められる立場になった。プロジェクトの採算性をどう改善していくか。このことに頭を悩ませない日はない。

 公共事業で設計業務の技術者単価が引き上げられるのは歓迎だが、現行の「設計業務等標準積算基準書」に基づく積算では「発注者の意向で検討を重ねなければならない案件などではどうしても採算が合わなくなってしまう」と指摘する。

 畑山さんは数年前、会社とは自転車で通えるほど近い街に家族と移り住んだ。「セキュリティーの関係で仕事のデータを家に持って帰れなくなったことも、在社時間の長さにつながっていた」。それならと踏み切ったのが、今回の引っ越しだった。

 今も在社時間をなかなか減らせないでいるが、生活に少しだけゆとりを持てるようになった気がしている。社会人になってから始めたものの、忙しさで縁遠くなっていた趣味を再び楽しもうと考えるようになったのも、そんな変化の表れかもしれない。プライベートな時間を削りながら仕事をするのが当たり前の時代ではない。20代の若い後輩たちと接し、畑山さんはつくづくそう感じている。

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