2016年6月6日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設・139

大事な社員を守り抜く。その思いが案外、力になっていく
 ◇「ズタボロ」時代に戻らぬために◇

 建設業は上昇気流に乗っていると思う。だが、これから本当に大丈夫なのだろうか。でも、自分ができることをやらなければ-。地場の建設会社を父親から引き継いだ若林紀彦さん(仮名)は今、そうした揺らぎの中にいる。

 長く続いた不遇の時代には、予定価格の3分の2で応札しなければ、仕事が取れなかった。過当競争でもみくちゃにされ、不安を覚える余裕すらなかった。多くの仲間や同業他社が、業界を去っていった。

 当時のことで思い返すのは、自ら手掛けたリストラだ。無駄な部分をできるだけそぎ落とし、身軽にした。社内の部門を統合・再編し、社長の運転手にも辞めてもらった。町の中心部にあった本社は売却し、資材センターの場所へ移った。

 「リストラは本当につらかった。もう二度とやりたくない。生き残った方もズタボロ(ズタズタでボロボロ)。会社の体をなしていないと思ったこともある」。この先、どうなっていくのだろう…。そんな思いが四六時中頭を駆け回っていた。

 近年は大規模な災害が相次ぎ、国土強靱(きょうじん)化の重要性が徐々に浸透してきた。公共工事品質確保促進法(公共工事品確法)が改正され、建設業を取り巻く環境は一時期に比べて格段に良くなった。担い手不足で現場運営に頭を悩ますことも多いが、建設産業の人材確保の重要性が認識され、公共工事設計労務単価も改善が進む。ズタボロのころには想像できなかった状況だ。

 だが、どこの現場でも少ない人数での仕事を余儀なくされており、決して楽ではない。上昇気流に乗っている今でさえ、それが現実だ。

 競争のあり方も変わった。入札は総合評価方式での勝負。自らの会社をいかに磨き上げていくかが問われる。受け身では利益など出てこない。

 一方で、「足りない部分や悪い部分を客観的に直視し、見直していくチャンス」とも思っている。清掃活動などの地域貢献を盛んに行うようになり、自分たちの産業がいかに認識されていないかを痛感した。「自分たちの存在意義を分かってほしいのであれば、いろいろと知恵を絞って社会に出て行かなければ駄目だ」。そうした試行錯誤を続けることで、今までの建設業とは違う新しい形が見えてくるような気がしている。

 とても期待している30代半ばの社員がいる。工事を任せるたびに優良現場に選ばれており、今は大きな現場を任せている。中途採用で、今が3社目。以前に働いていた会社は2社とも倒産し、転職を余儀なくされたという。現場に顔を見に行き、「大丈夫か?」と聞くと、「プレッシャーはすごいです。でも、働いた会社が二度もつぶれてすごく不安な思いをしたので…。だから頑張るんです」。

 せっかく入ってきてくれた社員に不安な思いをさせたくない。追い風でも向かい風でも、針路を決めて進むのが自分の役目だ。

 安定して経営ができるようにする手段は、企業によって三者三様のはず。残念ながら、まだその手段を見つけ切れていない。だが、必ず探してみせる。社員の熱い思いにしっかりと応えるためにも。

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