2016年6月7日火曜日

【創業天正14年、建設一筋4世紀】松井建設・松井隆弘社長が語る次の一手

 ◇喜ばれる仕事で「信用日本一」へ◇

 松井建設が今年、創業430周年を迎えた。松井隆弘社長は、社是である「信用日本一」を達成するため、「人・仕事・会社を磨き続け、建設事業を通じて、社会に貢献する」との企業理念を新たに掲げた。顧客にとっての良い仕事をあらためて心掛け、選ばれ続ける企業を目指して新たな歴史を積み重ねていく方針だ。松井社長に話を聞いた。

 --長い歴史を歩んできた。

 「1586(天正14)年に、初代松井角右衛門が加賀藩第二代藩主前田利長公の命を受け、越中守山城(富山県高岡市)の普請に従事したのが松井建設の始まりだ。その後、社寺建築一筋で歩んできたが、1923年に発生した関東大震災の復興支援で東京に進出したのが大きな転機となった。以降、社寺建築のみならず、一般建築に業容を拡大し、総合建設業としての基盤を築いていった」

 --数ある社寺建築の中で、社業の発展に寄与した実績は。

 「1934年竣工の築地本願寺本堂(東京都中央区)だろう。関東大震災で発生した火災で焼失し、仮本堂は当社の前身である松井組の手によって建設された。再建工事の話が持ち上がった際には、設計を担当した東京帝国大学工学部の名誉教授である伊東忠太先生から指名を受け、当時は法人にもなっていなかった当社が携わることになった。『社寺の松井』として社寺建築界で地位を築くきっかけとなったのは間違いない」

 --事業環境をどう見ている。

 「ここ10年だけを見ても変化が激しい。2008年に発生したリーマンショックでは、当社も大きな影響を受けた。11年の東日本大震災では、東北地方を中心に未曽有の被害となり、被災地の復旧・復興支援に奔走した。震災後は、全国的に職人不足の問題が顕在化し、工期や品質の確保の面で苦労が絶えない事態が今も続いている。最近では熊本地震が発生するなど、まさに何が起きてもおかしくない『無常の時代』という印象だ」

東長寺五重塔(福岡市博多区)
 --創業430周年を機に取り組んでいることは。

 「今年、創業430周年を迎えたのを機に企業理念を改定した。社是である『信用日本一』を達成するため、規模を追うのではなく、信用で日本一になろう、お客さまに喜ばれる仕事をしようという意味を込め、『人・仕事・会社を磨き続け、建設事業を通じて、社会に貢献する』とした」

 「16年度にスタートした経営3カ年計画でも、あえて売上高や受注高の目標数値は設定していない。以前に比べて営業環境は好転しているため、受注高を増やすことはできるだろうが、その結果人員がひっ迫し、品質を落としては何の意味もない。今後、2020年東京五輪関連の工事が最盛期を迎えれば、技術者・技能者不足はさらに顕著な影響を及ぼすことになるだろう。身の丈に合った経営を心掛けたい」

 ◇人・仕事・会社磨き社会に貢献◇
 
 --人材はどう磨く。

 「技術面では、現場を任される工事課員全員の施工図作成やチェックのスキルを向上させる取り組みを行っている。品質やコスト、工期の順守に加え、トラブルの予兆を事前に見抜いたり、職人への指示を的確に行えたりとメリットは大きい。2月から『技術教育課』という部署を新たに設置した。若手のうちからの教育を徹底していく」

 「言動や気配りといった面の教育もしっかりと施す。お客さまの信頼と要求に応えるのはもちろんだが、仕事をするのは人と人。『松井建設と仕事をするのは気持ちが良い』と言われるくらいを目指していきたい」
築地本願寺本堂(東京都中央区)
 --企業として意識を変える点は。

 「世間や社会のコンプライアンス(法令順守)に対する考え方が大きく変容している。社会変化を認識し、意識を大きく変えていかなければ足をすくわれることになりかねない。『何が起きても不思議ではない』ということを念頭に置き、細心の注意を払って経営に臨む必要があるだろう」

 --CSR(企業の社会的責任)で取り組んでいることは。

 「松井角平会長の発意の下、15年10月に松井角平記念財団を設立し、16年2月に公益財団法人に移行した。社寺建築や歴史的建造物の保存・修復に関する学術研究を支援するのが目的だ。当社が携わってきた社寺建築を後世に引き継ぎ、社会に還元していきたい」。

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