2017年4月20日木曜日

【長大グループ、東大と共同開発】乗り合いバス、スマホでかんたん予約

 ◇ルート選定・配車管理が完全自動◇

 長大グループの順風路(東京都豊島区、吉富広三社長)と東京大学が共同開発したオンデマンド交通システム「コンビニクル」。利用者が乗りたい時にスマートフォンで時間と場所を予約するだけで車が迎えにくるという手軽さから、高齢化が進む地域を中心に採用が広がっている。

 複数の利用者を目的地に運ぶ際の最適な運行ルートの選定と配車の管理は完全自動。初期費用もシステム一式で約50万円と安く、最近は大型バスが走れない細街路の多い都市部からも問い合わせが増えているという。

 オンデマンド交通とは、利用者の予約があった時にだけ運行する乗り合い交通機関。生活の足となるバス路線が廃止・縮小した地域の新たな交通機関として、全国300カ所で地方自治体が小型バスなどを運行している。自治体が費用のすべてを賄う無料運行と、300~500円の料金を一回ごとに徴収する有料運行がある。有料運行でも年間に要する費用の8~9割は自治体の負担になる。

 最近は高齢ドライバーによる事故の多発で免許返納の機運が高まり、返納後の代替交通手段として導入を検討する自治体が増えているが、課題は自治体が負担する導入・運行費用の抑制と運行管理者の確保だ。

 運行には、車両と配車を管理するオペレーターやドライバーが必要で、1台当たり年間600万~700万円の費用がかかるとされる。3~5台を運行すると数千万円のコストになる。最適な運行と配車ができるベテランのオペレーターの数も限られるため、人件費がかさむ。財政状況が厳しい自治体にとっては、導入をためらう要因になる。

 □熟練オペに頼らず□

 こうした問題を解決しようと、順風路と東大が9年前に自治体向けに開発したのが「コンビニクル」と名付けたシステムだ。09年に埼玉県鳩山町、北本町など3自治体で採用が決まり、現在は関東、中部、九州、東北など42カ所で稼働中だ。利用者数は平均で1カ月当たり6万5000人。累積利用人数は270万人に達しているという。

 コンビニクルは、利用者の希望に運行(時間・場所)を合わせる「フルデマンド運行」と、運行時間・場所に合わせて利用者を集める「セミデマンド運行」の二つに対応する。

 利用者はまず、スマートフォンで専用サイトにアクセスし、名前、乗りたい時間と乗降場所、利用人数を入力。すると、先に入っている他の予約者の時間や場所、複数のバスの運行状況などから瞬時に複数の予約候補(時間など)が表示される。予約候補から選択すると、ドライバーにルートがリアルタイムで指示され、車が迎えにくる。

 レベルの高い配車管理と運行計画の作成は従来、経験豊富な熟練オペレーターが頼りで、ノウハウの共有やマニュアル化が難しく、人材確保に悩む自治体も少なくない。コンビニクルは、スマートフォンを使いこなせない高齢者でも利用できるよう、電話で予約を受け付けてオペレーターがシステムに入力する方法も併用しているが、リアルタイム運行計画の完全自動生成によってオペレーターの配車管理の負荷が減り、人数も最低限に絞り込める。運行データの蓄積によって需要予測や運行車両の台数調整も可能になり、熟練オペレーターを必要としない。

 初期費用はデータベースの設定や車載器設定などを含め約50万円。1カ月当たりサーバー運営費(4万8000円)と車載器レンタル費が別にかかる。車載器はアンドロイド端末、業務用PDA、カーナビ連動の3種類から選択でき、アンドロイド端末が3000円、業務用PDAが1万4000円と2万円、カーナビ連動が1万7000円。

 □地域経済にも効果□

 開発当初は、バス路線がない高齢者の多い地域を抱える自治体で採用されるケースがほとんどだったが、バスが通れない細街路の多い地域や交通空白の不便地域を抱える東京、神奈川などの都市部の自治体でも徐々に採用が広がりつつある。

 最近は、高齢ドライバーを対象に免許返納予定のアンケートを行っている自治体もあり、代替交通の候補として問い合わせが増えているという。順風路は、住民の生活の足の確保に悩む自治体でコンビニクルの採用を働き掛ける一方、2020年東京五輪で国内外から訪れる観客の施設間輸送や、観光振興を考える地域向けに観光客の移動支援のツールとしても積極的に提案していく方針だ。

 地方の運送業者の新たな収入源の確保につながるなど地域経済の活性化の効果も期待できるだけに、幅広い層に利用されていることや、多様な用途があることを広くPRしていく考えだ。

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