2017年4月10日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・164

中小建設会社の経営は安泰とは言えない…
 ◇「建設会社を支える会社」で貢献◇

 「いるのは奥さんと子ども。寝込んでしまった奥さんもいた…」。

 建設会社向けに金融サービスを行っている会社で働く樋口雄太さん(仮名)が、用立てた資金を倒産した企業に回収しにいくと、経営者の夫はおらず、家族だけが残っていたことが何度かあった。「素行が良い経営者で、親身になれた会社が倒産すると、いたたまれない気持ちになる」。お金を扱う仕事柄、つらい場面に立ち会うことも少なくない。

 経営者の夫が現場にも出て、妻が経理を担当し、技術者と直接雇用している数人の職人で切り盛りしている建設会社は無数にある。「小さな会社ほど悪く言えば経営はどんぶり勘定。遠からず立ち行かなくなる」。受注工事の工程表を見せてもらい、資金を投じるタイミングを確認し、金融面から会社の経営をサポートしたこともあった。こうした対応は社歴の浅い建設会社の経営者に感謝され、その家族の顔はいまだに忘れられない。

 公共投資の削減が続いていた時は、資金繰りに窮する建設会社が多く、厳しい状況の顧客と向き合うこともあった。用途が定められている資金があり、背に腹は変えられない状況の中で、「自分の金をどうして自由に使えないのか」と憤られたことも。中小の建設会社には、信用や担保の面で必要な融資が受けられない企業も少なくない。

 「押したり、引いたり、なだめたり、時には指摘したり。金融の敏腕ブローカーのような先輩に憧れた」。顧客が置かれた状況は承知していても、株式会社である以上、顧客の財務資料に見え隠れする不備は問いたださなければならない。資金の使途の是正を求めることも、弁護士と一緒に資金を回収に向かうこともある。

 「何かを新しく作ったり、壊れた製品を直したりするのとも違う。信用や保証という目に見えないものを人対人の付き合いの中で扱う職業」と認識している。これまでを振り返るなら「どちらかと言えば、トラブルのほうが多い」。その中でも、相手の懐に入るのがうまい先輩や、断り方が見事な上司の姿を見ながら、人付き合いの難しさと人としての懐の深さの大切さを学べたと思う。

 金融関係の仕事をしていた身内がいたことが今の職業を選んだ理由の一つ。「金融面から防災やインフラの整備に貢献したい」との思いもあった。大型補正予算で建設需要がやや盛り返し、低金利も続いて中小建設会社の資金繰りは以前に比べれば改善されたように感じる。しかし工事量の地域格差や経営規模の格差が顕在化し、「中小建設会社の経営は安泰とは言えない」と強く意識している。

 転勤を伴う出向も経験し、「自分の会社にいるだけでは分からなかった視点」で顧客や産業の実態を捉えたり、顧客が自分たちをどう見ているのかを意識したりできるようになった。4月に新しい部署に異動した。積み増した経験を生かし、これからも「建設会社を支える会社」に貢献するつもりだ。

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