i-Conが当たり前になった時、建設産業はどうなっているのだろうか |
最初は疑心暗鬼だった。「また東京が変なことを始めた」。無理難題を押し付けられた。そう感じたのは自分だけではないはず…。それが本音だった。ICT(情報通信技術)を活用して建設現場の生産性を高める「i-Construction」のことだ。
中野広志さん(仮名)は長年、行政の立場から公共工事に携わってきた。毎年、さまざまな方針が掲げられるが、中には首をかしげざるを得ないものもある。
「生産性革命元年」-。昨年春、新聞に踊った大きな見出しを執務室で見つめていた。端から見ると、きっと苦虫をかみつぶしたような表情だったに違いない。
組織人として働く以上、決められたことには必死に取り組むほかない。所管する仕事にたまたまICT土工に適した案件があったので、無人航空機(UAV)を飛ばしたり、マシンコントロール(MC)を搭載した重機で堤防の整備に取り組んだりと、徐々に始めていった。受発注者の双方が手探りの状態。最初の頃は「本当に現場が変わるの?」という半信半疑が両者を覆っていた。
1年近くi-Constructionに取り組んでみて、印象は完全に変わった。後ろ向きな疑いが、いつの間にか前向きな確信へと逆転していた。
導入した各現場とも作業は順調に進み、効率化や省力化が図られたという報告がどんどん上がってきた。慣れるまでは3次元データの扱いが難しいことや、ICT建機などのコストがまだ高いなど課題はもちろんある。小規模工事への適用も先の話だ。だが、丁張り作業が不要になり、重機の近くに人を配置せずに済むため、現場の安全性も向上する。「i-Constructionでこんなに便利になるのなら、どんどんやった方がいい」と今では笑顔で話す。
ある元請企業が、会社の女性職員にICT土工の講習を受けさせていた。その姿を見た時に、建設産業の進化の兆しのようなものを感じた。
ICT建機などがどんどん進化すれば、現場で活躍できる人材の幅が格段に広がるのではないか。極端に言えば、普段は事務の仕事をしている女性社員が、繁忙期には重機オペレーターとして働くような世界が見えてくるかもしれない。より大きな意味での多能工化とも言えるだろう。そうすれば、下請企業に外注していた作業を元請企業が内製化することにもつながる。
ICT土工で、こうしたことが仮に実現したとしても、現場作業全体からすれば、ごく一部に過ぎない。もちろん、そうなのだが、建設産業で働く人たちの処遇の改善や安定化、行き過ぎた重層下請構造の改善などを含めて、大きな変革への萌芽(ほうが)になるような気もしている。
今は、そういう場面に居合わせていることを面白がっている自分がいる。これからの現場の姿を、しっかりと見届けていこうと思っている。
0 comments :
コメントを投稿