2017年4月5日水曜日

【現場を担う】施工管理者×職長 「育成と成長へ思いは一つ」

 ◇西品川一丁目地区再開発(B街区-住宅工区)/施工は前田建設◇

 「自分の持っている技術、経験のすべてを伝えたい」。東京都品川区で進む西品川一丁目地区第一種市街地再開発事業のB街区で鉄筋工事に携わる大山工業の高橋誠二工事長(53)。高橋氏の言葉の相手は、同じ鉄筋工ではなく、施工管理を担う前田建設の大坪史人氏(30)だ。元請・下請を問わず、現場の担い手不足が課題となる中、若手を育てたいベテラン、成長したい若手、現場を円滑に回したい両者の思いは、年齢、職域を越えて一つに重なっている。

 JR大崎駅周辺で2棟の超高層ビルを建設する西品川一丁目地区第一種市街地再開発事業。品川区西品川の東海道新幹線と湘南新宿ラインに囲まれた敷地の西側に位置するB街区では、地上22階建ての大規模タワーマンションを建設する。躯体工事が最盛期を迎える現場で二人は共に仕事をしている。
前田建設・大坪史人氏
最近の建築工事は、建物の構造やデザインが高度化し、それに伴い現場の業務も複雑化している。加えて深刻化する担い手不足も重なり、現場従事者一人一人にかかる負担も大きい。その傾向は現場が大きくなるほど顕著になる。大坪氏も例外ではなく、現場での安全・品質・工程管理や事務所での設計、労務管理、記録書類作成など、一人で何役もこなさなければならない。多忙な中、細かな調整まで手が回らない時に助けてくれるのが現場経験が豊富な高橋氏だ。

 大坪氏は「高橋さんは前後の工程との関わりまで考えている。これだけ計画的に仕事をする鉄筋工の方は珍しい」と話す。専門性にたけている分、自らの工種の仕事に専念する職人が多い中、他職種との作業の調整までをこなす高橋氏は特異な存在だ。

 大坪氏は工業高等専門学校を卒業して入社10年目。これまで五つの現場を経験してきたが、今回の現場が最も規模が大きい。「これまでの10年で少しは成長していると思うが、まだまだ。高橋さんは、ミリ単位の細かい鉄筋の納まりを計算しながら、工事全体の流れまでを事前に把握して緻密な作業計画を立てている。学ぶべきところが多い」と全幅の信頼を置く。

高橋氏が鉄筋工になったのは24歳の時。自動車関連の仕事から転職してこの道に入った。「職人の仕事は、体力勝負の3Kのイメージで、長く続けるつもりはなかった」というが、「やってみると、仕事ができる人は皆、頭を使っていて、鉄筋工の奥深さを知った」。3年目で施工図を描くようになり、以来、30年近くの間、現場作業もできて、図面も見られる職長として現場で活躍してきた。

 その高橋氏が最も気に掛けるのが現場の担い手不足。自らの仕事を引き継ぐ次の職長の育成が課題だ。「自分の時は右も左も分からない状態で現場に出されて、失敗しながらいろんな事を覚えてきた」。でも今の現場は違う。「効率性も重視するので、失敗しづらい環境になっている。求められる品質も高く、作業も複雑化している中で、中堅世代の人材も足りず、若手の負担は大きい」。
大山工業・高橋誠二氏
バブル崩壊後に建設市場が縮小した影響で、30代後半から40代の中堅世代の人材不足は、ゼネコン、専門工事業を問わず深刻だ。その中で後継者の育成に苦労する高橋氏には、若い大坪氏の苦労も分かる。だからこそ、職種は違っても成長しようと頑張っている大坪氏を見て「自分が持っているすべてのことを伝えたい」という思いが湧いてくる。

 高橋氏は続ける。「長年現場でやってきた自分には、他の工種も含めて顔見知りが多い。だから自分が工程の調整を買って出る」。多くの職種の人間が関わり、一つの建物を造る建築現場では、チームワークが欠かせない。そのことを身をもって知らせている。そして「自分たちは計画する方なので、実際に作業する職人さんの情報が重要。職人さんあっての現場」という大坪氏だからこそ、高橋氏のすごさを理解し、学ぼうとしている。

 高橋氏は「現場で大事なのは信頼関係。いつか大坪さんが所長になった時に、『俺が鉄筋を組んでやる』と言える関係を続けていきたい」と話す。

 《工事概要》

 □工事名=西品川一丁目地区第一種市街地再開発事業(B街区-住宅工区)施設建築物新築工事及び公共施設工事
 □事業主=西品川一丁目市街地再開発組合
 □設計・監理者=日建設計
 □施工者=前田建設東京建築支店
 □工事場所=東京都品川区西品川1の7の1
 □構造・規模=RC造地下2階地上22階塔屋1階建て延べ3万8300m2
 □工期=2016年1月4日~18年8月31日

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