2019年9月19日木曜日

【プロジェクト・アイ】川俣ダム補強工事(栃木県日光市)/施工は大林組、ダイナミックな足場も話題に

 ◇大口径・長尺アンカーで機能維持◇

 栃木県日光市にある川俣ダムで、岩盤をアンカーで補強するダイナミックな工事が行われている。国内で他に類を見ない大口径で長尺なアンカーを岩盤に打ち込むプロジェクトは、試験施工を経て工事が本格化している。

 過去に整備したインフラ構造物の老朽化対策は、多くの公共発注機関が直面する課題。川俣ダムでの工事は、同様の対応が必要になるケースでの技術的な試金石といえる。険しい岩盤に張り付くように設置した足場は、写真映えするとSNS(インターネット交流サイト)などで話題になっている。

 実施されているのは、国土交通省関東地方整備局による「H28川俣ダム周辺部補強工事」。川俣ダムえん堤改良の一環として計画され、設計はダム技術センター・日本工営JVが担当。施工を大林組が手掛けている。

 鬼怒川の最上流に位置する同ダム。洪水調節や農業用水の供給、発電を目的に建設された。1966年に完成し、アーチ式コンクリートダムの先駆けといわれる。堤高117メートル、堤長131メートルで、堤体積は16万7500立方メートル、総貯水容量は8760万立方メートル。アーチ式ダムでは、ダム湖の水圧を受ける岩盤をアンカーで補強して安全性を確保している。完成から半世紀以上が経過したため、予防保全の観点から既存アンカーの間に更新アンカーを打ち込み、岩盤を補強する。

 急傾斜の岩盤に張り付くように足場を設置してからアンカーを打設する。大林組の北村広志所長は「急勾配な場所に足場をどう設置するかが非常に難しかった」と説明する。右岸側の足場は高さ約100メートル。左岸側は洪水水位よりも上の部分に足場を設ける必要があるため、ブラケットの構台を取り付けてから足場を立ち上げていった。

 大規模なアンカー工事も特徴的だ。実施している「岩盤PS工法」では、岩盤内にPC鋼より線のアンカーを挿入して、アンカーと緊張することで岩盤と一体化させて地盤の安定性を高めている。アンカーは、直径15・2ミリのPC鋼線を14本束ねており、削孔直径は216ミリになる。

 両岸が切り立つ峡谷の特徴を反映して、上部になるにつれ支持層までの距離が伸びていくため、アンカー長は右岸では最長約50メートル、左岸では最長70メートルを超えるという。1次下請としてアンカー施工を手掛ける日特建設の関真一職長は「この太さや長さのアンカーは今まで経験したことがない」と話す。

 施工はまず岩盤を削孔して、孔内カメラで亀裂の有無を調べる。亀裂などがある場合は、セメントミルクの充てんなど必要な対策を講じた上で再削孔することで、品質を確保している。

 アンカーは現場で加工して作業箇所に運搬している。部材は長尺で、そのまま運ぼうとすると地面に引きずり、傷つけてしまう恐れがある。つり上げ時に折れ曲がっても悪影響を与えるため、運搬にも細心の注意を払っている。

 大林組はW形状の治具を用いてケーブルクレーンでつり上げて、施工箇所に運搬している。「アンカー体がよれないように運搬方法や挿入方法を現場で検討してやってきた」と北村所長は話す。

 アンカー挿入後は、まず先端部を固定する。定着層端部にあるエアパッカーをふくらませて、定着層側だけにセメントミルクを注入。定着層が固まった後に、2400キロニュートン(N)で緊張し、アンカーが戻ろうとする力により岩盤と結合させる。それから、残りの部分にセメントミルクを注入する流れだ。現場では昼夜の2交代で施工を進めているが、削孔から定着まで1本当たり半月程度かかるという。1台の削孔機で施工してきたが、ピーク時には3台体制になる予定だ。

 8月2日には、日本アンカー協会関東支部(支部長・上直人日特建設常務執行役員東京支店長)が現場見学会を行った。上支部長はダム老朽化が課題となっている中で、こうした対応が増えてくる可能性があると見ており、「しっかりとノウハウを蓄積していく必要がある」と指摘する。

 「技術提案もしていたが、実際にやってみるといろいろ改善する点があり、悩みながらここまで進めてきた」と北村所長。現時点の工期は2020年9月30日で、これから最盛期に入る。無事故・無災害で工事は進展しており、安全に細心の注意を払いながら、早期完成を目指す。

1 件のコメント :

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