2019年9月20日金曜日

【どうなる五輪後の施設利用】建築学会全国大会で隈研吾氏らが講演

木材を多用した新国立競技場の完成予想
(大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所JV作成/JSC提供)
 開催まで残り1年を切った2020年東京五輪・パラリンピック。新国立競技場(東京都新宿区)を含む主要施設の工事が追い込みに入っている。日本の文化や魅力を海外にも伝えようと、さまざまな工夫が施されている。大会後に施設をどう運営していくかも大きな関心事。日本建築学会(竹脇出会長)は今月3~6日に石川県内で開いた19年度全国大会で、各施設の設計を担当した建築家による講演会を開き、設計のコンセプトや大規模施設の活用などを議論した。

□長く使われ続ける建築を具現化□


 「大規模イベント後の大空間施設の活用」をテーマとする講演会は、金沢工業大学(石川県野々市市)で3日に行われた。恒久利用する「新国立競技場」と「有明アリーナ」(東京都江東区)、仮設となる「有明体操競技場」(同)の3施設を対象に、設計者がプロジェクト内容を解説。設計を担った河合正理(久米設計)、江坂佳賢(日建設計)、隈研吾(隈研吾建築都市設計事務所主宰、東京大学教授)の3氏が登壇した。

 設計案の見直しなどを乗り越え、16年12月に着工した新国立競技場。設計は大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所JVが担当した。11月末の完成を前に工事は総仕上げに入っている。講演会で設計のポイントを解説した隈氏は「2020年という新しい時代にふさわしい施設づくりを目指した」と明かした。

 前回の東京五輪(1964年)では、取り壊された国立競技場や建築家・丹下健三(1913~2005年)が設計した国立代々木競技場(東京都渋谷区)などが建設された。新国立競技場の建設地は以前の国立競技場とほぼ同じ位置。来夏の五輪でも使用される大規模なスポーツ施設やアリーナが集積する明治神宮外苑エリアについて、隈氏は「東京の将来にとって、重要な役割を果たす」と持論を述べた。

 設計コンペの当初から「木のぬくもりを表現したかった」と振り返った隈氏。国産のスギ材を積極的に利用するだけでなく、部材となる木材の寸法を小さくし「軽やかな印象を与える」ことに心を砕いた。世界最古の木造建築とされる法隆寺(奈良県斑鳩町)の五重塔をモチーフに、大屋根は複数の庇(ひさし)が重なるようデザインした。

 庇の軒下に位置するルーバーは105ミリ角のスギ材を使用した上で、ルーバーの角度を微妙に変化させた。これにより、「日本特有の木の伝統美を現代によみがえらせた」と意図を語った。建物の長寿命化を目指し、主要な構造体は大規模修繕も不要。仕上げ材も耐久性の高い材料を組み合わせ、維持管理のしやすさを追求するなど「長く使われ続ける施設を具現化できた」と手応えを語った。

五輪後にコンサートなど多目的な利用を想定する有明アリーナ
 続いて河合氏は、有明アリーナのデザインコンセプトを語った。有明アリーナは東京都がプロポーザルで発注した基本設計を久米設計が受託。実施設計と施工を竹中工務店・東光電気工事・朝日工業社・高砂熱学工業JVが担っている。実施設計に入ったのは16年4月。建設工事は終盤を迎えており、12月に完成する予定だ。五輪でバレーボール、パラリンピックではバスケットボールの競技会場になる。

 大会終了後はコンセッション(公共施設等運営権)方式で運営を民間に任せる。国内外のスポーツイベントや音楽コンサートなどに利用する計画だ。基本設計に当たっては地域に開かれた空間を目指した。高さ約37メートルの施設は横から見ると「凹レンズ」に似た特徴ある形状を持つ。周辺環境への圧迫感の軽減を狙った。

 天井材はアリーナ施設などに使う金属屋根ではなく、ALC(軽量気泡コンクリート)を採用。後に音楽イベントとして利用されることを考慮し、遮音性能を高めた。上部となる屋根架構と下部のスタンド架構を同時進行で施工。延べ4万平方メートルを超える大規模施設を33カ月という短工期で完成にこぎ着けるため、腐心したとも語った。

□維持管理、機能転換しやすく□


アスリートファーストとサステナビリティを追求した有明体操競技場
 「アスリートファーストとサステナビリティ(持続可能性)をキーワードに設計した」と語るのは江坂氏。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会が発注した有明体操競技場は、基本設計と実施設計監修、設計監理を日建設計が担った。実施設計と施工は清水建設が手掛けている。施設は3階建て延べ3万9300平方メートルの規模。座席数は約1万2000席で、期間中は体操競技場、大会後は展示場に転用されるという。

 屋根は世界最大クラスとなる長さ約88メートル。主要な構造部材に木材を利用したのは「貯木場があった有明地区の特性を生かしたかった」からだ。利用者にとって親しみを感じるポイントと胸を張った。

 仮設という点を踏まえ、観客席や競技エリア周辺の施設は改修が容易に行えるようにした。メインアプローチである「エントランススロープ」などに使う支持部材の鉄骨をリースで対応し「速やかに機能転換できるように心掛けた」と話した。

 設計作業を振り返った江坂氏は「環境負荷の少ない木材利用の促進、サステナブルな建築を両立することが試された」と強調。五輪を契機に「さまざまな技術が次世代に引き継がれれば」と期待を寄せた。

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