2019年9月27日金曜日

【回転窓】職業教育の「○○往来」を考える

伝統技法などを紹介するテレビ番組で「今、この技法を扱えるのは、町で1人だけ」といった類いの表現を耳にすることがある。無形文化財的に残る技法ゆえ、技を身に付けた職人の手で作られたモノには希少価値がある▼かつて職人の技は、仕事の中で師匠から弟子へと伝えられてきた。門外不出、経験や勘に基づく暗黙知のイメージだが昔からそうだったのか▼江戸時代に〈読み書きそろばん〉を教えた全国の寺子屋は職業教育の場でもあったといわれる。地域の産業に合わせ特色ある教育が行われていたそうだ。寺子屋教育の中で使用されたのが職業名を冠した「○○往来」というテキスト。書簡形式の今でいうQ&A集だ。江戸の花形職業とされる大工や左官のような職人の教育でも往来物が存在する▼明治維新以降の近代化の中で、いわゆる教育と職業教育は分離した。職人の世界に共通テキストやマニュアルが不在とされるのは、近代化を目指した教育改革にあるとも考えられる▼職人の技を暗黙知から形式知へ。担い手不足で課題とされる技能伝承のために、往来物を見直し現代版へと作り替えてみるのはどうだろうか。

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