変わり続ける時代の中で都市はどうあるべきか-。森ビルが長年考えてきた問いへの答えの一つが、戦略エリアの東京都港区で進む都市再生事業「虎ノ門・麻布台プロジェクト」。過去のヒルズ開発で培ったすべてを注ぎ込んだ「ヒルズの未来形」と位置付ける。同社にとって最大規模の開発案件を始動するに当たり、辻慎吾社長は「圧倒的なスケールでこれまでにない街を創出し、多くの人を引きつける東京の新たなランドマークとなる」と力を込める。
虎ノ門・麻布台プロジェクトでは1989年に街づくり協議会が発足し、約30年かけて事業化を推進してきた。第1種市街地再開発事業として2017年、国家戦略特区法に基づき都市計画決定され23年3月末の竣工を目指して先月起工した。
東西に細長く、T字のような形の敷地約6・4ヘクタール(施行区域約8・1ヘクタール)に、事業費約5800億円を投じて高さ約330メートルのメインタワーをはじめ、超高層2棟(東棟、西棟)と低層棟などを整備する。総延べ床面積は約86万平方メートル。オフィス貸室面積約21・4万平方メートル、住戸数約1400戸を創出する。就業者数約2万人、居住者数約3500人、年間来街者数約2500万~3000万人を見込む。
複数の街区で建設する再開発ビルは清水建設(A、B-2街区)、三井住友建設(B-1街区)、大林組(C-1~4街区)らが施工を担当。全街区で森ビルが設計に携わった。
低層部のユニークな建築とランドスケープのデザインなどは英国のトーマス・ヘザウィック氏が手掛け、3棟の超高層タワーの外観デザインを米ペリ・クラーク・ペリ・アーキテクツ、メインタワーの商業空間デザインを藤本壮介氏らが担う。
辻社長は「それぞれの分野で超一流の才能が結集しており、森ビルが強いリーダーシップを発揮し、多様ながら一体感のある街にしていく」と意気込む。
不整形で高台と谷地が入り組み、高低差の大きい開発対象地の計画検討では、建物の配置後に空きスペースを緑化する従来手法とは逆の発想を取り入れた。まず人の流れや集まる場所などを考え、シームレスなランドスケープを固めた。高低差のある地形を生かして低層部の屋上を含む敷地全体を緑化し、約6000平方メートルの中央広場など約2・4万平方メートルの緑地を確保する。
「広大な緑地を確保するために高さ330メートルの超高層が必要だった」と辻社長。細分化された土地を取りまとめ、超高層タワーを建てることで足元に緑豊かなオープンスペースを生み出す「ヴァーティカル・ガーデン・シティ」は森ビルが長年こだわってきた都市づくりの手法だ。
「都市の本質は、そこに生きる人にある」と考える同社は都市の在り方をゼロベースで再考し、「緑に包まれ、人と人をつなぐ『広場』のような街」といった開発コンセプト「Modern Urban Village」の体現に取り組む。
虎ノ門・麻布台プロジェクトで掲げる二つのキーワードのうち、「Green」では広範囲の緑化に加え、環境への負荷低減の一環で再生可能エネルギーによる電力を100%供給する計画。「Wellness」では医療施設を核に、スパやフィットネスクラブ、レストランやフードマーケット、広場、菜園などを一つのメンバーシッププログラムでつなぎ、生活のさまざまな場面で心と体の健康をサポートする仕組みを構築する。
都心最大級のインターナショナルスクールや日本初進出のラグジュアリーホテル、商業・文化施設なども設ける。辻社長は「いろいろな機能がコンパクトかつ高度に組み合わさった街づくりが都市力につながる」と強調する。
新しいものにチャレンジしないと世の中は変わっていかない-。森ビル前社長の森稔氏が生前よく口にしていたとされるこの言葉は、同社がプロジェクトを進める上での原動力となっている。
辻社長は「虎ノ門・麻布台プロジェクトも(森前社長の)思想を受け継いでおり、こうしたヒルズの考え方はこれからの東京に必要だと思っている」と話す。
先月22日に同プロジェクトの記者説明会が行われた東京・六本木の「森ビルアーバンラボ」には大型スクリーンや都市模型などを配備し、都市づくりのプレゼンテーションなどの発信拠点として活用する計画。「国内外の多くの方々と東京、都市の今後について議論する場にしたい」と辻社長。六本木や虎ノ門など森ビルの戦略エリアを中心に、これからも人や企業を引きつける街の磁力を高めていく。
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