高齢者が自分らしくいられる場所をつくるー。 試行錯誤の日々を過ごす |
◇高齢社会研究の原点は建築学◇
「実は建築に深い思い入れがあっての入学ではありませんでした」。こう打ち明ける安倍弥生さん(仮名)は、大学での学生生活を「何かさまよっていた」と振り返る。自分らしく生きるために何かしたいと思いながらも、同級生が徹夜で課題に打ち込む姿や、先輩たちの建築に対する熱い思いについていけなかった。
大学入試の時に「建築って楽しいよ」と心から楽しそうに語る面接官の教授との出会いが、「私の運命を決めたように感じる」という。面接官の言葉と笑顔が頭から離れず、その教授が担当する「都市計画」の授業だけは一生懸命に聴講していた。卒業論文は、完成から年数が経過したニュータウンに住む高齢者をテーマにした。
現地に通い、居住する高齢者がどのような外出行動を取るのかひたすら観察。会いたい、つながりたい、知りたい、食べたいなど“何かをしたい”という思いがある限り、例え身体が不自由でも外出することが見えてきた。同時に高齢者が抱く“何かをしたい”をサポートするため、外部環境の在り方について興味がわいてきた。
遅まきながら本当の意味で学生生活が始まった。教授の勧めで進学した大学院では、これまでの勉強不足を埋めながら、社会学や老年学といった知識を得るため、生まれて初めてといえるほど「猛勉強の日々」を過ごした。核家族で育ったこともあり高齢者のことをほとんど知らないという焦りもあった。
有料老人ホームやケア付き集合住宅などにボランティアとして通った。そんな中で、転居しても活動や交流が縮小しない高齢者がいることに気が付いた。博士論文では、転居先の居住形態による高齢者の行動を比較研究することにした。
高齢社会をテーマに研究活動を始めてからこの春で15年目を迎える。高齢者が意思を持ち続ける限り可能性が継続できる地域社会、居場所の在り方について研究を続けている。学会や研究会などのさまざまな場で話す機会にも恵まれ、「一般的な社会学や福祉学、心理学の出身者とは違う広い視野を知ることができた」といったコメントをもらうことも。「さまざまな分野を吸収しつつも、私の原点は建築学なんだ」と実感している。
高齢化社会が進展し、気が付くと親世代も高齢期を迎えた。「まだ介護が必要というほどではないが、やっぱり足腰は弱くなっている」。そんな姿を目の当たりにし、身体が不自由でも「何かをしたい」と外出したり、社会とつながり続けたりする手段として、ICT(情報通信技術)の活用に大きな可能性を感じる。
「都市に住む高齢者の仲間や知り合いとの緩やかなつながり」や「家庭、職場に続く居心地の良い場の形成」など、研究テーマは尽きない。充実した毎日を送っているが、「研究の面白さを後進にどう伝えていけばいいのか」と悩むことも。「教授を見習って『研究って楽しいよ』と心から楽しそうに語っていきたい」。
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