2020年1月28日火曜日

【駆け出しのころ】ケミカルグラウト常務技術本部副本部長・多田信一郎氏

 ◇好奇心持ち仕事を楽しむ◇

 高校時代は山岳部に所属し、身近に山がありました。大学院を修了し、入社後は街中の現場を希望しましたが、山深い現場勤務が続きました。

 新人研修の最終日に、青森のダム現場への配属が伝えられ、片道の航空券を渡されました。翌日、悪天候で飛行機が飛ばないことを上司に告げると、「万難を排して目的地に行くように」との指示を受け、その日の夜行列車で現地に向かいました。4月半ばでしたがまだ雪深く、「すごいところに来てしまった」と感じたのを今でも覚えています。

 青森のダム現場では、元請JVの一員という立場で働きました。いきなりの大現場で仕事のイロハも分からず、早朝の朝礼から始まり、昼間は現場の追いまわし、夕礼後、事務所に戻って日報整理の毎日でした。タヌキやウサギの出る現場宿舎での暮らしも含め、最初は大変な現場だと思いましたが、先輩上司をはじめ食堂のおばちゃんからも温かく受け入れてもらい、そんな日々を楽しく思えるようになりました。

 入社1年目の新人技術者ということもあり、JVの現場所長をはじめ、現場の皆さんから、担当のグラウト工事以外の測量や土工事、埋設計器など、いろいろ教わりました。当時、鹿島が全社で取り組んでいた品質管理のTQC活動を通じ現場作業も細かく見直され、大変勉強になりました。

 現場で発生する問題に対し、コンサル以外に施工者側からも、対応策を提案し、その中で最良の案が採用される現場でしたが、私の提案は連戦連敗。知識が無いのが大変悔しくて、お盆の休暇中、国立国会図書館へ通いダムグラウト関係の資料や、過去の論文や文献などを参考に、一から勉強を始め、自分の提案が採用された時は大変うれしかったです。

 10年を過ぎ、大規模なダム現場から、市中の小規模なアンカー工事の現場を任されました。入社から元請側の仕事を長く務めていたため、頭でっかちな技術者となっていたことを痛感しました。知識や技術だけではなく、元請や他工種の職長さんとの調整をうまく行い、職人さんたちが気持ち良く仕事ができる環境をつくること。結果として効率良く出来高が上がること。現場技術者の基本を改めて気付かされました。

 若い人たちには常に好奇心を持ち、仕事に当たってほしいと思います。目の前の仕事だけでなく、他社の工事や前後の工程にも関心を持ち、工事全体を知ることで自分の仕事の目的や求められる品質も見えてきます。 受け身にならず、いろいろな問題に対し自分なりの解釈や判断を積み重ねることも大切と思います。

 いっぱい失敗をした自分を受け止めてくれた先輩たちには、感謝の気持ちしかありません。

入社1年目の冬、青森のダム工事現場で
(ただ・しんいちろう)1982年日本大学大学院生産工学研究科土木工学専攻修了、ケミカルグラウト入社。西日本支社副支社長兼九州支店長、関西支店長などを経て2019年6月から現職。神奈川県出身、62歳。

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