2020年1月24日金曜日

【どうなる施設更新、建築界から保存・活用求める声】葛西臨海水族園更新、機能移設ありきの計画に異論

 東京都が検討している「葛西臨海水族園」(江戸川区、1989年竣工)の施設更新を巡って、建築界から異論が出ている。

 都は既存施設の隣接地に新施設を建設し、水族園機能をすべて移設することを想定。建築家の谷口吉生氏が設計を手掛けた既存施設は従来の用途を失うことになり「取り壊しも示唆する内容だ」と反発が起きている。既存施設の保存・活用は現時点で検討の俎上(そじょう)にも載っておらず、今後、都の対応が求められる。

 昨年12月、日本建築学会(竹脇出会長)の主催で既存施設の長寿命化をテーマに緊急シンポジウムが開かれた。基調講演を引き受けた建築家の槇文彦氏は、自身が設計した「沖縄国際海洋博覧会・海洋生物園」(沖縄県本部町、1975年竣工)が「一切われわれには言わないで」取り壊された経験を引き合いに出しながら、既存施設がつくる景観の保存を繰り返し訴えた。

 槇氏は林立した建物が連なる臨海部にあって、東京湾や公園全域と一体化した景色の希少性を強調。さまざまな場面で重層的な風景が味わえると魅力を語り、「東京に欠くべからざる景観であると強く認識している」と力を込めた。

 都は数年前から、躯体や設備の老朽化を受け水族園の将来像の検討を開始。昨年1月に公表した施設更新の基本構想で新施設の建設方針を打ち出し、既存施設は「水族園機能を移設後、施設状態などを調査の上、その在り方を検討」と明記した。

 ところが、続いて設置された新施設の事業計画を検討する有識者会議で、その方針に待ったがかかった。建築分野から参画した安田幸一東京工業大学教授と柳澤要千葉大学教授は、既存施設が将来的に水族園機能を果たさないとされた決定プロセスを疑問視。再三にわたり既存施設の保存・活用を並行して検討するよう求めたが、都は有識者会議が新施設の検討を目的に設置されたことを理由に「既存施設の在り方は検討対象としていない」との説明に終始した。

 既存施設を対象とした検討組織の別途設置について、都の担当者は「可能性を検討している」と否定してはいない。ただ、どのような用途に改修が可能か判断するには「水槽の水を抜いてから調査が必要になる」と説明。機能移設時期に想定している約7年後まで調査は不可能で「その間は後利用について結論は出せない」という。

 建築学会のシンポ後には、小池百合子知事が定例記者会見で「ガラスドームの既存施設はなかなかすてき。ユニークベニューとして結婚式などに使ったらいいのでは」と用途転換の可能性を示唆する場面もあった。新施設の事業計画は素案の段階で都民意見を募集中。このまま策定されれば来年度から事業化手続きが本格化する。既存施設がその役割を終えるのか、それとも新たな役割で息を吹き返すのか。これまで以上にオープンな議論が必要だ。

 □新施設の事業計画検討会委員・柳澤要氏/機能失えば「死に体」に□

水族園は新しくし、既存施設の機能は残さないという都の姿勢はかたくなだ。城郭などの文化財で、機能的に失われても建物の価値を残していく例はある。だが、おそらく水族園のような(特殊な)施設は、機能を失った時点で「死に体」となってしまう。建物だけを残しても、それを生かすことは難しい。既存施設を含めた上で、これからの水族園の整備計画をつくらなければならない。

 新施設の検討をリセットするよう主張しているわけではない。ただ要求されている機能の中には、既存施設で満たせるものも十分にある。だからこそ新施設と既存施設を別々に考えるのではなく、既存施設をどう有効活用できるかも併せて検討したほうがいい。その検討が今は難しいのなら、別の検討会を設置してほしいとも提案してきた。

 都は水族園機能を移設しなければ既存施設を調査できないとしている。今の段階では躯体状況が分からず、検討にすら入れないという説明は理解に苦しむ。既存施設がどんな状況で、水族園としてあるいは別の形でどう利活用できるのか、少なくとも検討は始めなければならない。

 □20年度以降に事業者選定へ□


 既存施設はSRC造3階建て延べ1万5800m2の規模。マグロが遊泳する全周90m程度のドーナツ型水槽を備える。

 新施設は延べ床面積2万2500m2を想定し、整備手法としてBTO(建設・移管・運営)方式のPFIを採用する方針。年度内の事業計画決定後、2020、21年度を施設要求水準の整理や事業者選定手続きに充て、22年度以降に設計や工事を実施。26年度の開園を見込んでいる。

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