映画で取り上げられた女性技術たち (写真提供:ロリアン・バーロウ氏) |
◇高まる担い手不足への危機感◇
労働省統計局は13年末に発表した長期雇用見通しで、12~22年の間に建設業で162万人の雇用が追加され、年平均増加率は主要産業で最大の2・6%と予測した。同時に発表した生産高予測も、建設業は12年から毎年平均4・1%増加し、22年には1兆1601億ドルに拡大すると予想。これも主要産業で最大の増加率だ。
担い手不足への危機感は、市場拡大による雇用増に加え、現在主力となっているベビーブーマーの引退が始まっていることも背景にある。各地の支部に2万6000社以上の会員を抱える全米建設業協会(AGC)が14年に行ったアンケートでは、8割以上の企業が技能労働者の確保に苦労していることが分かった。
AGCは昨年、「次世代の熟練技能者確保に向けて 21世紀の担い手育成策」と題した提言を発表。女性などこれまで建設業に少なかった労働力の入職を増やすため、「人材パイプライン」を強化すると宣言した。高校などと連携して「見習い制度」を拡充する策を中心に提言をまとめ、連邦・各州政府に補助金の充実などを要望している。
◇建設業界の人材確保、政府が強力後押し◇
「女性はそもそも、建設技能職がどういう仕事か知らないことが多い」(AGC幹部)として、AGCは広報活動にも力を入れる。「Go Build America」と名付けた建設業の魅力をアピールするホームページを作成し、その中で女性の活躍を紹介する動画を公開した。女性向け就職説明会など各支部独自の取り組みも増えているという。
オバマ政権は別の角度からこの問題に視線を向ける。大統領がかねて注力する「働く中間層への支援」だ。調査機関ピューリサーチセンターによると、18歳以下の子どもがいる世帯の約4割で母親が単独もしくは主要な稼ぎ手。その多くがシングルマザーで、全世帯の約4分の1を占める。貧困に陥りがちなシングルマザー世帯の所得を引き上げる方策として、政府は建設業などこれまで男性中心だった業界への女性の進出を促している。
建設技能職は健康保険や福利厚生も充実していることが多く、米国では家族を養える典型的な中間層の仕事と考えられている。労働省のデータを見ると、伝統的に女性が多い事務職や保育士といった職種よりも給与水準が高いことは明らかだ。米国では、大学進学のために多くの学生が多額の借金を抱えることが問題になっている。高卒程度でも技能を身に付ける機会さえあれば、女性も十分な所得を得られる建設職種に政府も期待をかける。
オバマ大統領は14年の所信表明演説で、「見習い制度に登録して働く人を5年間で倍に増やす」と宣言。制度拡充のために総額1億ドルの補助金を創設した。女性や退役軍人などを見習い制度に呼び込む活動などを支援する。見習い期間中の託児サービスなど女性の定着を狙った取り組みへの支援も含まれる。
業界も政府の動きを歓迎している。AGCのブライアン・ターメイル氏は、「建設業の担い手を増やす手段として、見習い制度の充実を決めた大統領の方針は正しい」と評価。同時に、労働組合以外の団体や企業が運営するプログラムが政府の補助金を受けられない仕組みには改善の余地があると注文も付けた。
女性を支援する団体からは、差別をなくして女性が長く働ける環境整備を訴える声も出ている。労働省の調査では、性的嫌がらせ(セクハラ)を受けたことがあると答えた女性建設労働者は88%に上る。
◇長編ドキュメンタリー映画で支援も◇
女性の労働問題などに取り組む研究機関「ナショナルウィメンズローセンター」は昨年、女性建設技能者を取り巻く環境に関する報告書を発表。業界の女性比率と女性の定着率がともに低い現状を分析し、連邦政府各部局に対応強化を促した。連邦政府と契約する企業が人種や性別による雇用差別を禁止した法令を順守しているか監督する労働省連邦契約コンプライアンス局には、各社が「セクハラは違法な性差別」とする態度を明確にし、防止策を設けることを義務付けるよう求めた。
映画監督のロリアン・バーロウ氏は、社会のジェンダーステレオタイプ(性別による固定観念)に風穴を開けたいとの思いから、建設業で働く女性をテーマにした長編ドキュメンタリー映画「Hard Hatted Woman(ヘルメットの女性)」の制作を進めている。女性建設技能者を取り上げた映画は米国初という。
「もの作りの喜びと仕事に対する誇りを語った女性とび工の言葉が忘れられない」とバーロウ氏。「困難に立ち向かっているのはあなただけじゃないと伝え、現場で活躍する女性たちに力を与えたい。映画を見て建設業をキャリアの選択肢に加える若い女性が増えてほしい」と話している。
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