2015年5月18日月曜日

【中堅世代】それぞれの建設業・94

コミュニティーの維持・再生もまちづくりの課題に・・・
◇多くの人との関わりを成長の糧に◇
 
  下町の木造密集地でネクタイを締め、スーツ姿で仕事をしていたら、誰からも信用されない-。
 公共機関の防災街づくり部門で働く平伸一さん(仮名)は、老朽化した木造住宅が密集するエリアで共同建て替え事業などによる不燃化の促進に取り組んでいる。敷地の集約に向けた用地買収交渉では、常に作業着姿で地権者宅を訪ねる。移動にも車などは使わず、地図を広げながら自転車で一軒ずつ地道に回る。
 こうしたちょっとした立ち居振る舞いが相手に親近感を与え、こちらの説明にも耳を傾けてもらえると考える。最近は仲良くなった住民らとざっくばらんな会話もできるようになった。
 子どものころから地図を見るのが好きだった。学生時代は列車に乗って知らない街を訪ね、そこで好物のラーメンを食べ歩いた。いろいろな街を見て回るうち、「その街で暮らし、働き、学び、遊ぶ人たちを幸せにする仕事に携わりたい」と思うようになった。
 今の仕事にはやりがいを感じているが、街づくりの難しさも痛感する。
 防災街づくりや再開発は、古くからの街並みを変えようとする行為でもある。そこで長年暮らしてきた人たちからすれば、簡単に受け入れるのは難しい。特に高齢の地権者の多くは「人生の大半を過ごした今の家で最後を迎えたい」と口をそろえる。それでも住民たちが「街づくりに協力したい」と言ってくれた時には、うれしい半面、責任の重さを感じる。
 単に建物の耐震性や耐火性を高めるだけでなく、そこで長年暮らしてきた人たちの思いやコミュニティーを維持することも重要だとあらためて気付かされる。
 再開発では、安全で快適な街の創出を目指す意志と同時に、事業の採算を確保することも重要だ。特に民間の開発事業者は慈善事業をするわけではないので、営利追求は当然のこと。しかし、そうした姿勢が前に出過ぎると、地権者らに不信感を抱かせ、合意形成が進まなくなる。
 都心部ではマンションの建設ラッシュが続いている。それがその街にとって本当に良いことなのか。「その街に住み続けたいと考える人たちのために、より良い暮らしの場を提供する。常にそれが事業の根っこになければならない」と思う。
 地域の防災力を高めるには、建物の不燃化・耐震化などのハード対策とともに、住民間の共助といったソフト面の対応強化も欠かせない。下町に残る住民同士のつながりやコミュニティーの強さは、防災活動でも大きな強みになると考えている。
 本格的な少子高齢化時代の到来で、コミュニティーの維持・再生は街づくりの大きな課題の一つだ。「下町の人情をくみ取れるバランスのいい防災街づくりを進めたい」。
 将来は日本だけでなく、世界中で街づくりを手伝いたいとの夢も描いている。夢の実現のため、今の仕事には直接役には立たないが、休日には異業種の人たちとの交流も兼ねて、英語でのグループワークのレッスンに通う。仕事でも、プライベートでも、多くの人と関わりながら、自己研さんに励む毎日だ。

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