大手を中心に建設コンサルタント各社はここ数年、海外事業の拡大を経営課題の一つに位置付けてきた。これまで培ってきた技術力を生かし、アジア地域などに対し官民一体でインフラ輸出を進める動きも続く。高水準で推移してきた国内の受注環境について、「峠は越えた」と見るトップは多く、業績を下支えする分野として海外を重視する傾向は、今後ますます強くなるとみられる。日本のコンサル企業の海外事業拡大には何が必要なのか。
◇競争力強化へ抜本改革必要◇
建設コンサルタンツ協会(建コン協、長谷川伸一会長)など建設コンサル関係5団体が毎年集計している受注実績によると、会員会社の海外受注は2005年の500社・128億円から、06年は484社・268億円、07年は438社・313億円と推移。11年は391社・469億円、12年・387社で357億円となった=グラフ参照。
ただ、この数字には国際協力機構(JICA)などが国内で発注する調査、計画立案といった業務が多く含まれ、海外の政府機関や現地企業などから業務を直接受注するケースは依然として少ない。
建コン協は昨年4月に公表した中期ビジョンで、「日系建設コンサルの国際市場における現状の競争力はきわめてぜい弱だ」と現状を分析。海外受注は「日本の援助案件がほとんどで、実質的に国内市場の延長といわざるを得ない」と厳しい見方を示している。
◇非ODA市場の開拓がカギ◇
11年3月の東日本大震災の発生前後で、建設コンサルを取り巻く環境は一変した。震災復興関連の事業で国内市場は需要が急増。ここ数年は、受注した業務を消化するだけで手一杯という状況が続いている。各社の最前線では、抱えきれないほどの仕事に追われ、これまでくすぶってきた長時間労働など職場環境の問題や、人材確保・育成の課題が一気に表面化。結果として、海外事業の拡大を志向しながら、対応が後手に回るケースも少なくなかった。
海外への進出と事業規模・領域の拡大は、欧米勢に比べると後発となった日本の建設コンサルにとっては極めて困難な課題といえる。国家戦略として海外事業に取り組む中国・韓国勢の存在もあり、個々の企業の努力だけでは状況を大きく変えるのは難しいとみられている。
安倍政権は鉄道や上下水道、電力といった基礎インフラをターゲットに、官民連携によるインフラ輸出を推進している。首相や閣僚、各省の幹部らが民間企業の幹部と共に外国を訪問し、トップセールスを行う取り組みも増えてきた。ソリューションビジネスともいえる海外PPP事業を志向する上で、建設コンサルは単なる技術に詳しい専門家にとどまらず、ニーズに即した提案やプロジェクトの方向性を指し示すことなど、多種多様な役割を求められる。
計画立案や設計、施工管理という技術を核とした建設分野の仕事はもちろん、ファイナンスや法律、専門知識を持った人材の招聘(しょうへい)などプロジェクトを成功に導くためのさまざまな業務も果たす必要がある。
◇新機軸探る動きも◇
建コン協のビジョンでは、欧米のコンサル企業に在籍する技術者について「科学技術を総合的に応用したトータルエンジニアとして認識されている」と指摘。日本のコンサル企業ついて、需要拡大が見込めるアジア地域の新興国で仕事をしていくには、「企業形態や生産システム、コスト、人材確保・育成などすべてにおいて白紙に立ち戻り、抜本的な再構築が必要だ」と強調している。
これまで土木が中心だった事業領域に建築を加えたり、鉄道開発などで攻勢に出たりする企業、経済成長が見込める新興国の中でもエリアを絞り、投資を含めて地域開発に乗りだす企業など、建設コンサル業界でも海外事業に新機軸を組み込もうとする動きが出始めている。
しっかりとした目標設定と、それを達成するための経営戦略・戦術を立てて実行することが、競争の激しい海外市場で日本企業の存在感を高める最善策といえる。
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