2021年7月30日金曜日

【熱海土石流、発生からまもなく1カ月】静岡県が逢初川下流域復旧・復興チーム設立

  静岡県熱海市伊豆山地区の逢初川流域で発生した大規模土石流災害からまもなく1カ月。静岡県は復旧・復興を早急、確実に進めるため、29日に「逢初川下流域復旧・復興チーム」を立ち上げた。

 県庁内で行われた発足式で川勝平太知事が訓示し、その後に開いた初会合で現状や今後の取り組み方針を確認した。

 交通基盤部の関係課と熱海土木事務所を中心に4チームが発足した。直轄砂防災害関連緊急事業を実施する国との調整を担う砂防上流部チーム、逢初川下流部の河川工事を行う河川下流部チーム、港に流入した土砂に対応する伊豆山港チーム、土砂撤去など緊急応急事業チームで構成する。

 初会合ではチーム全体の活動方針や体制を確認。各チームからの現状報告を行い、現地着手など今後の対応などを協議した。会議は非公開で行った。

【写真を通じ時代の断面記録】バブルが生んだ「空き地」-写真家・浜昇氏と建築史家・中谷礼仁氏がたどる

  バブル景気まっただ中の1988~90年、東京の新宿や神田で撮影した「空き地」の写真を953点収録した写真集がある。かつて立っていただろう建築物が取り壊され、ぽっかりと空いた殺風景な写真は、地上げが横行した当時を象徴的に映し出す。

 空き地を撮影した写真家の浜昇氏が、早稲田大学教授で建築史家の中谷礼仁氏と共に空き地だった場所を再訪し、バブル以降の都市の変遷や当時の人々にもたらした影響を語り合った。

 ◇開発で一変、かつての「空き地」たどる◇

 超高層ビルが広範囲に林立する西新宿エリア。浜氏によると「最も典型的に古い街が壊された」。約30年前の地図を見ると、小規模な民家や商店の密集地が広がっていた。虫食い状の空き地が連なっていた場所は再開発で建てられた巨大なビルに様変わりした。

 ビルの周囲を歩くと、敷地は不整形で高低差も激しい。「もともと都市近郊の農村で土地の形がいびつ。近代建築的なビルを建てるのに適していない」と中谷氏。再開発後のビルの配置や形状に設計者の苦労が見て取れるという。

 中谷氏は西新宿に代表される東京のビル群を「渓谷」と表現する。格子状に整理された区画にビルが並ぶ米国のニューヨークなどと異なり、「都市のゲリラ的再開発が進む東京では敷地の角度が乱雑になる」。

 するとビルが複雑に重なり視界が開けにくくなり、巨大な壁に四方を取り囲まれた奇妙な感覚に陥る。中谷氏は「東京らしさ」の魅力にもつながっている都市開発の始まりをバブル期に見る。

 神田エリアは地上げの象徴的な場所とされ、投機的な土地転売が繰り広げられた。空き地が点在した場所を訪れると、西新宿のように大規模に再開発された場所もあるが、ほぼ当時のままの敷地で建て替えられた場所も予想以上に多かった。

 江戸時代の町人地として短冊状の区画が並び、開発する地理的な条件にも恵まれている。ただ歴史ある土地柄だけに街区再編を伴う大規模開発が進まなかったのでは、と中谷氏は推測する。当時の写真や資料に当たらなければ、ここで暗躍していた人々の姿を想像するのは難しい。

 自らが暮らす街の路地を歩き回り、しらみつぶしに撮影する行動に駆り立てたものを、浜氏は「義務感と怒り」と言う。

 戦後を乗り越えてきた親世代が、子世代に財産を引き継ごうかという時期にバブル景気の地価高騰に襲われた。「築き上げたものを相続という形で収奪されるおかしさに憤怒を抱えていた」。その頃、次々と増えていく空き地にショックを受けた。

 撮影した写真はすべて、空き地を真正面から捉えたモノクロのスナップ写真だ。写真集には全953点の位置を詳細に示す地図と、撮影日を付記した。写真を通じ一つの時代の断面を記録することに徹底してこだわった。

 その後のバブル崩壊による地価暴落は、浜氏の周囲でさらに悲惨な状況を生んだ。借金返済に追われ、土地や住まいを手放さざるを得ない知人が多くいた。浜氏は「バブル崩壊の後遺症はいまだに続いている。この写真は、今でも現場の生の写真だと思っている」と話す。

 中谷氏も写真を眺めつつ「意味の無い空き地は無い」と同意する。写真には古い街の面影が自然に写り込む。空き地は、そこに存在したものが根こそぎ剥ぎ取られた傷跡のようにも見える。

 都市開発が活況な現在の東京で、バブル期と同じような事態が再び起こることを否定はできない。中谷氏はかつて空き地だった場所を巡りながら、周辺環境がどう再生されているかにも着目した。人間の幸福を第一に考える都市計画であるか、土地に住んでいた人々が再開発後も暮らそうと思えるかーー。根底にある考え方の違いで開発の良しあしが明白に出ると指摘した上で、「ちゃんとしていないものを改善していくという方法で解決していく道筋はある」と語った。

【2021年暑中号ー建設・脱炭素宣言~カーボンニュートラルへの挑戦】環境戦略最前線、日清食品HDの取り組み

取材は横浜市中区にあるカップヌードルミュージアムで。
「子どもたちの『創造的思考』を豊かに育む体験型食育ミュージアムです」と花本室長

  ◇「食」の楽しみ・喜びで社会に貢献◇ 

 9月18日に発売50周年を迎える「カップヌードル」。世界初のカップ麺は新しい「食」を創造し、世界の食文化を変えた。おいしさだけでなく、環境や防災などさまざまな課題に向き合い、今も進化を続けている。持続的成長に向け日清食品ホールディングス(HD)は2020年度に環境戦略を策定。気候変動に対する取り組みや資源の有効活用に関する目標を定め、具体的に活動している。食品メーカーの挑戦とは--。広報部サステナビリティ推進室の花本和弦(かなで)室長に話を聞いた。

 創業者の安藤百福が掲げた「食足世平(しょくそくせへい)」「食創為世(しょくそういせい)」「美健賢食(びけんけんしょく)」「食為聖職(しょくいせいしょく)」という四つの言葉はグループ理念の基であり、変わることのない創業の価値観と位置付けています。グループビジョンの「EARTH FOOD CREATOR」には、人類を「食」の楽しみや喜びで満たすことを通じて、社会や地球に貢献するという思いが込められています。その実現にはESG(環境・社会・企業統治)経営やSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みが大事で、それが持続的な成長の原動力になると捉えています。

 □食品メーカーとして「食品ロス」に向き合う□

 気候変動や環境など課題はたくさんあり、部署を超え全社一丸となって取り組まなければいけません。グループの具体的なリスクや機会を特定するため、19年に気候変動のシナリオ分析に着手し、20年4月に30年までの環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」を策定しました。

 地球資源を取り巻く環境保護や資源の有効活用に挑戦しています。例えば、インスタントラーメンはパーム油で揚げて作ります。味やおいしさに影響を与えない使い勝手の良い油ですが、森林破壊や農園労働者の人権侵害などが散見され、問題になっている原材料です。環境や人権に配慮された持続可能なパーム油の調達比率100%を目指しています。水資源の節約にも挑んでいます。グループ全体で売上高100万円当たりの水使用量12・3立方メートルを目指すとともに、水の再利用に取り組んでいます。

 廃棄物の目標も設定しています。食品メーカーとして「食品ロス」という社会的な問題にきちんと向き合わなければいけません。販売・流通過程の廃棄物総量を15年度と比べて半減させる目標を掲げました。しかし食品メーカーの努力だけでは達成できません。流通業界と一緒に取り組むことや、消費者に理解いただくことが重要です。製造過程で発生する廃棄物の再資源化も進み、99・6%をリサイクルできています。

 □原材料生産から廃棄までが責任□

 気候変動問題への取り組みでは、二酸化炭素(CO2)排出量の削減を重要課題に位置付けています。スコープ1(自社による温室効果ガスの直接排出)とスコープ2(他社から供給された電気や蒸気の使用に伴う間接排出)だけでなく、スコープ3(事業活動に関連する他社の排出)も企業の責任になってきています。カップヌードルの原材料を作るところから、お客さまが食べ終わり廃棄するところまでが責任の範囲ということです。30年度のCO2排出量を18年度比でスコープ1と2が30%削減、スコープ3が15%削減という目標を立て、取り組みを始めています。

 スコープ1と2については、CO2排出量の多い自社工場を対象に省エネルギー活動を積み重ねつつ、再生可能エネルギーへの切り替えも進めていきます。食べ終えた後の油汚れなどが付いたインスタントラーメンの容器はリサイクルが難しく、一般的には可燃ごみとして焼却処分されています。そこで焼却時に出る熱を利用して発電する「ごみ発電電力」を東京本社で使用しています。月平均で本社ビルの電力を100%賄える月もあれば、最も低くて50%を賄う月もあります。エネルギーを循環させていこうという試みです。

 スコープ3への取り組みとしてカップヌードルの容器を変えていきます。あまり変わったように見えないと思いますが、実は進化しています。発泡スチロールだったカップが08年、紙を主原料に一部プラスチックを使った「ECOカップ」に変わりました。さらにバイオマスの使用割合が80%以上の環境配慮型容器「バイオマスECOカップ」を開発し、19年12月に切り替えを始めました。21年度中にはすべての切り替えが完了する予定です。これからも容器は進化していきます。

 「謎肉」ってご存じですか。豚肉を若干混ぜていますが、主原料は大豆です。大豆は畜産肉と比べCO2排出量が少ないそうです。環境負荷の高い畜産業由来の食材の代わりとなる植物代替肉の活用を進めています。カップヌードルの小さな容器の中には、持続可能なパーム油やバイオマスのカップ、大豆由来の謎肉など小さな努力、工夫が詰まっています。皆さまが召し上がるものなので、積み重なると大きな成果につながっていきます。

 □商品通じて消費者に良い取り組み広める□

 「カップヌードル DO IT NOW!」プロジェクトはカップヌードルを通して、おいしさだけでなく、食の安全・安心や環境、防災、健康、社会などあらゆる課題に向き合い、地球と人の未来のためにすべきこと、できることを今すぐ取り組んでいくプロジェクトです。その一環として、プラスチック原料の使用量を削減するため「フタ止めシール」を廃止するとともに、新しい形状のフタ「Wタブ」を採用しました。

 シールがないと困るという人たちにプラスチックを減らすためだからと、我慢を強いてはいけません。Wタブという別の方法や、楽しさが必要です。新しい価値を提供し、実はそれが環境問題につながっているということです。カップヌードルはトップブランドなので消費者への影響力が大きい。商品を通して、消費者に良い取り組みを広めていくことが使命だと考えています。

 環境目標の達成に向けてトップ自ら「サステナビリティ委員会」の委員長に就き、国内外の社員を巻き込みながら、グループ一丸となって全力で取り組んでいます。委員会の下に環境や人権、教育などのワーキンググループを置き、部署横断でいろんな人たちを集めました。情報共有や議論の動きが速く、30年度の目標をどうやって達成していくか、みんなで考えています。

 □有事でも商品供給は絶対に止めない□

 温暖化の影響だと思いますが、自然災害が各地で相次いでいます。有事が増える中、商品供給を止めないことが私たちの社会的な責任です。BCP(事業継続計画)を策定して、商品を供給し続けるための生産、物流、販売体制を整えています。東日本大震災の時に調達できなかったかまぼこを抜いて、「どん兵衛」を販売したことがあります。有事の際には、かまぼこがなくてもいいんです。

 普段からの備えも大事です。防災備蓄セットの「ローリングストックセット」には3日分(9食)の食料と水、カセットコンロなどが入っています。サブスクリプションサービスで3カ月ごと自動的に入れ替え用の商品を届けます。賞味期限を気にしたり、買い替えたりする必要がなく、日常的に消費しながら常に一定量の食品を備蓄していただくことができます。こうした商品を、皆さんにもっと伝えていくことも大切だと思っています。

 □フタ止めシール廃止、プラスチック原料年間33t削減□

 カップヌードルのフタの形状が発売50年目にして初めて変更される。近年、廃プラスチックによる環境問題が注目される中、カップヌードルで採用してきたプラスチック製の「フタ止めシール」を廃止。これによってプラスチック原料の使用量を年間で33t削減できるという。シールがなくてもしっかり留められるよう開け口を二つに増やした新形状のフタ「Wタブ」を採用。レギュラーサイズのカップヌードルで順次切り替わっていく。

2021年7月29日木曜日

【早ければ来春開店めざす】コストコホールセールジャパン、栃木県壬生町に新店舗出店へ

 コストコホールセールジャパン(川崎市川崎区、ケン・テリオ社長)と栃木県壬生町は、立地協定を27日に結んだ。協定には同社が地域貢献や災害時の救援などを行うことを盛り込んだ。調印式は福田富一知事が立会人となり、栃木県庁で行った。

 同社は今後10年間で60店舗体制の構築を目指している。栃木県内への出店は初めて。建設地は六美町北部土地区画整理事業(壬生丁、安塚)施行地内。敷地は約5万6200平方メートル。北関東自動車道の壬生ICから約1・6キロ、東武鉄道おもちゃのまち駅から約1・2キロに位置する。

 テリオ社長(写真右)は調印式後の会見で、壬生町進出の理由を「栃木県の中央部に位置し、交通アクセスに恵まれている」などと説明。開業時期は「一日も早くオープンしたい。調整が順調に済めば来春の大型連休あたりにも開店したい」と早期開店に意欲を示した。小菅一弥壬生町長(写真左)は「町のイメージアップにもつながり心から歓迎したい」、福田富一知事は「県としても全力でバックアップしていく」とコメントした。

【1964年完成の旧香川県立体育館】丹下建築、県が民間対象に利活用調査実施

  香川県は、建築家の丹下健三氏が設計を手掛け、老朽化に伴い2014年9月に閉館した「旧香川県立体育館」(高松市福岡町2の18の26)の利活用調査に乗り出す。

 民間事業者と直接対話するサウンディング(対話)型市場調査を実施。建物や立地、周辺環境の特徴を生かした施設の利活用方法や建物の耐震補強、改修の考え方について提案を募る。9月30日まで参加申し込みを受け付ける。

 同体育館はRC造3階(一部半地下)建て延べ4707平方メートルの規模で、1964年に完成した。収容人数は1300人。鉄素材を用いた国内最初期のつり屋根構造の建築で、曲線を描く外観の形状は和船に例えられるが、設計時には日本刀の反りをイメージしてデザインしたという。敷地面積は6631平方メートル。

 耐震性能を満たしていないことから、2013年以降3回にわたり耐震改修工事の入札を行ったが、不調に終わっている。20年度に発注した場合の工事費を約18億円と試算している。

 施設の改修や運営に伴う費用は原則、事業者の負担となる。建物や土地の権利は売却や譲渡、賃貸借など利活用の提案内容に応じ設定する。8月2日~10月21日に提案書を受け付ける。提案者との面談を経て12月に結果を公表する予定だ。


【欲しい人はアンケート回答を!!】土木学会、「どぼくかるた」を先着100人にプレゼント

  土木学会(谷口博昭会長)のコンサルタント委員会市民交流研究小委員会(黒川信子委員長)は、土木用語をかるた形式で学んでもらう「どぼくかるた」のプレゼント企画を始めた。アンケートに回答した先着100人が対象。期間は8月31日までだが、上限に達した時点で終了する。

 どぼくかるたは、44音分の絵札とひらがな表記の読み札で構成され、道路や橋などの土木構造物に加えて、まちづくりや環境、防災など生活に密着したテーマも取り入れている。絵札にはかわいらしいイラストを用いており、遊びを通じて子どもたちに土木と触れてもらう。読み札の裏面には詳細な説明を記載。大人にも土木の意義や技術者精神を伝えることで、親子に土木を親しんでもらう。

 同小委員会は、土木への理解促進や、土木技術の継承者となる子どもたちの育成を狙いに活動を展開している。アンケートは専用フォームで回答する。

2021年7月28日水曜日

【本体施工は大成建設・飛島建設・村上組JV】総貯水容量1056万㎥の椛川ダム(高松市)が竣工


  香川県が高松市塩江町に建設していた「椛川(かばがわ)ダム」が竣工した。建設事業の着手から四半世紀。降雨量が少なく、深刻な水不足に見舞われてきた市内の新しい水源となると同時に、椛川を含む香東川流域の洪水被害を低減する。堤高88・5メートル、堤頂長265・5メートル、堤体積約43万5000立方メートルの重力式コンクリートダムで、総貯水容量は約1056万立方メートル。堤高と貯水容量は県内最大規模となる。本体工事の施工は大成建設・飛島建設・村上組JVが担当した。

 香川県と香川県広域水道企業団は27日、ダム右岸湖畔広場で竣工式を開いた。地元選出の国会議員と県議会議員、市議会議員、施工者、地元関係者ら約60人が出席した。浜田恵造知事は「渇水や洪水に対し県民の皆さまの安全・安心に大きな役割を果たし、末永く多くの人々に親しんでほしい」と述べた。


 大西秀人高松市長は「新型コロナウイルスが全国的に拡大する中、予防対策を徹底し無事工事を完成させてくれた」と工事関係者の労をねぎらった。来賓の丹羽克彦四国地方整備局長は「激甚化・頻発化する自然災害から地域の皆さまの命と暮らしを守るためにはハードとソフトの治水対策、利水対策に取り組むことが必要だ」と国土強靱化の必要性を訴えた。

 香川県の生田幸治高松土木事務所長が工事経過を報告。出席者の代表によるテープカットとくす玉開きで竣工を祝った。

 同ダムは洪水調節や水道水の供給、流水の正常な機能の維持、異常渇水時などの緊急水補給を目的とした多目的ダム。1996年度に建設事業がスタートした。2014年10月に本体工事に着手し、20年7月末にコンクリートの打設が完了した。

 3月から試験湛水を開始した。貯水量は27日時点で約280万立方メートル(貯水率約27%)と順調に湛水が進んでいる。約3年をかけて貯水池の最高水位まで水を入れ、安全性を検証した後、通常運用に移行する。高松市に最大で日量9000立方メートルの水道用水を供給する。総事業費は463億円。

【今秋、滑走路のかさ上げ着手】関空1期空港島災害対策、消波ブロックの設置進む

急ピッチで消波ブロックの設置工事が進む東側護岸

  関西国際空港を運営する関西エアポートは27日、2018年9月の台風21号で大規模な浸水被害を受けた関空1期空港島の災害対策工事の現場を報道関係者に公開した。これまでに護岸のかさ上げが完了し、現在は消波ブロックの設置を急ピッチで進めており、10月末に作業を終える。A滑走路と誘導路のかさ上げ工事に今秋着手し、22年夏ごろにすべての対策が終了する。

 関空の防災機能強化対策費は約540億円。19年度から護岸のかさ上げや防潮壁整備などによる越波防止対策のほか、第1ターミナルビル(T1)の電気設備の地上化など浸水被害防止対策、排水ポンプ制御盤や受配電盤のシェルター化など排水機能確保対策に取り組み、越波防止対策とT1周辺地区の防潮堤の設置など一部を除いてほぼ完了している。

 護岸のかさ上げは南側が約1キロ、東側が約4キロ、北側が約1キロに上り、既に完了。最大で2・7メートルかさ上げした。南側の護岸背後の防潮壁の整備も終え、現在は南側と東側の護岸で消波ブロックの設置作業を続けている。

工事で1・7mかさ上げした東側護岸

 消波ブロック設置工事は二つの工区に分け、施工は南側と東護岸の一部(1工区)を東洋建設・りんかい日産建設JV、残りの東側護岸(2工区)を東亜建設工業・みらい建設工業・本間組JVが担当。2工区合わせて約3万9300個の消波ブロック(12トン×約2万5000個、20トン×約1万4300個)を設置する。当初は23年3月の完成を予定したが、1年半程度前倒しできる見通しで、工事の進捗(しんちょく)率は約8割に達している。

 浸水被害防止対策ではT1の地下にあった電気設備を地上化し、防災設備や重要設備の送電切り替えを完了。建物設備室への水密扉の設置や制御盤のかさ上げなども終えた。現在はT1周辺地区で防潮堤を整備しており、今夏中に作業を終える。排水機能確保対策では電源ルートのループ化も実施した。

 東側護岸のかさ上げに伴うA滑走路・誘導路のかさ上げは今秋着手する予定で、舗装を最大で40センチ程度厚くする。22年夏ごろに完成する。

【誘致に向け市民に情報発信】横浜IR、2グループの提案イメージ公表

 

 横浜市は27日、山下ふ頭(中区)への誘致を目指すカジノを含むIRに関連し民間2グループが提案した施設の完成イメージ(横浜市提供)を公開した。市役所2階展示スペースなどで閲覧できる。IR事業の狙いや内容を市民に広く知ってもらう。事業者から提案された完成イメージやジオラマ、導入目的などを分かりやすく展示している。

 IR事業者を決める公募型プロポーザルには、2グループから提案があった。グループの一つは代表企業がゲンティン・シンガポール・リミテッド(シンガポール)。大林組と鹿島、セガサミーホールディングス、綜合警備保障、竹中工務店の5社が構成員として参画している。もうひとつのグループの社名は非公表。代表1社、構成員2社の3社グループという。展示は8月7日まで。完成イメージは事業者を特定せず展示している。市は今夏にも事業予定者を選定する。


2021年7月27日火曜日

【回転窓】リバプールと都市開発

  歴史や芸術、学術などの面で普遍的な価値がある建築物や遺跡、景観などを守るため国連教育科学文化機関(ユネスコ)が認定・登録する「世界遺産」。世界遺産条約は1972年に採択され、日本も92年に条約を締結した▼文化庁のホームページを見ると、日本で最初に登録されたのは「法隆寺地域の仏教建造物」で93年。同じ年に「姫路城」と「屋久島」も登録され、25日時点で2019年の「百舌鳥・古市古墳群 古代日本の墳墓群」まで23件が世界遺産のリストに記載されている▼文化や歴史を後世に残すため世界遺産への登録後は開発行為に規制が掛かる。ユネスコは先週、04年に登録した英中部の港湾都市リバプールを世界遺産から抹消すると発表した。18~19世紀の面影を残す街並みが都市開発で破壊されたというのが理由だ▼伝説的なバンド「ビートルズ」が誕生し、The Redsの愛称で知られるサッカーの強豪クラブが本拠地を置くリバプール。今回の出来事は歴史を守りながら都市を再開発していく難しさを改めて突きつけられた気がする▼日本にとっても遠い国の出来事と片付ける問題ではないだろう。

【4D映像活用、リモートでも臨場感アップ】梓設計、スポーツ・娯楽施設に自由視点映像システム導入

沖縄アリーナに導入し、試合を盛り上げるシステムとして活用している

  梓設計は、臨場感ある映像が体感できる自由視点映像システムをスポーツ施設や娯楽施設の計画・設計提案に活用する。4D映像の提供などを手掛ける4D Replay Japan(4DJP、東京都中央区、ジョン・ホンス代表取締役)と協業。計画・設計提案に4DJPが開発した映像システムを組み込み、スポーツ施設などの付加価値を高める。

 複数のカメラを使用したタイムスライス式のビデオ制作システム「4D Replay」を活用する。梓設計が得意とするアリーナやエンターテインメント施設の計画・設計段階に導入する。臨場感あふれる映像が常時提供できる。実際の試合やイベント内容を遠隔地から視聴できたり、施設に訪れた観戦者が見たい映像を繰り返し視聴できたりもする。

 4DJPが提供する「4DVOD」や「4DLive」を駆使すると、スマートフォンやタブレットの画面に触れるだけで視聴角度が変えられる。新たな収益ツールとしての活用も期待できるという。

 同システムは梓設計が設計し、4月に開業した「沖縄アリーナ」(沖縄県沖縄市)に導入。同施設が本拠地のプロバスケットチーム・琉球ゴールデンキングスの試合などに利用されている。

【丸の内に憩いの空間】三菱地所ら、東京・丸の内仲通りで緑化の効果検証

緑化プロジェクトのイメージ(報道発表資料から)

  大丸有エリアマネジメント協会と大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会、三菱地所の3者は、東京都千代田区にある「丸の内仲通り」の活用で実証実験を実施する。8月から通りを一時的に緑化し、歩行者空間として活用する「Marunouchi Street Park」プロジェクトを開催。緑化による人流の変化などを分析し今後の活用方法を検討する。

 プロジェクトの実施期間は8月2日~9月12日。丸の内仲通りの車道部分に天然芝を敷き、公園空間を創出する。人流などを計測し歩行者に開かれた「人中心の道路」の実現策を検証していく。

 実証実験では、緑化による気温の改善効果などを検証。来街者の特徴や人数、歩行速度、行動などもカメラで計測する。就業者にはコロナ禍で需要の高まった屋外空間での作業に協力してもらい、屋外作業の生産性や快適性などを検証する。

 10~30分後の気象情報を配信する「豪雨直前予測」技術を活用した実験も実施する。イベント運営者は雨から機材を保護する手法の効率化や、雨が上がるタイミングでにぎわいを回復させるプログラムなどを検証。降雨予測を知った来街者の行動の変化なども分析する。

【記者手帖】老朽化対策は待ったなし

  先日、郵便受けにたまったチラシを整理していると、水道料金を引き上げるという市役所からのお知らせが目に入った。人口減少で水道料金の減少が見込まれる中、増え続ける水道施設の老朽化対策費用を賄うためと理由が書かれていた。平均で12%の値上げになるそうだ◆全国で水道料金の改定に踏み切る自治体が急増している。2043年度までに値上げが必要な事業体は、全体の9割に達するという民間研究グループの試算もある。蛇口をひねれば当たり前のように水が出る光景。高度経済成長期に整備したライフラインの老朽化対策は喫緊の課題と分かっている。ただそれを日常生活で意識することは、これまでほとんどなかった◆コロナ禍で水道料金を減免した自治体は多い。この時期の値上げを不満に思う人も多いだろう。水道事業者の徹底した経営努力は当然必要だ。同時に水の安定供給に必要な施設の更新に対する市民の理解も求められている。現在のつけを将来に回すべきではない。そんなことを思いつつ何かと節約の必要を感じる単身赴任生活。まずは風呂の余り湯を洗濯に使ってみようと思う。(大)

【五輪レガシー、地域活性化の起爆剤に】東京都、五輪後の競技施設活用を検討

多目的利用が見込まれる有明アリーナ

  23日に開会式が行われた東京五輪。新型コロナウイルスの流行が収まらず多くの制約がある中で、各国から集まったアスリートが威信を懸けて競技に挑んでいる。五輪開催に当たり東京都は6カ所に「新規恒久施設」を整備。大会期間の選手のパフォーマンスの場にとどまらない、スポーツ振興や周辺エリアの活性化の起爆剤となる施設の後利用への未来を描く。

 「早い段階での後利用検討は重要なテーマだった」。都担当者は、施設整備を振り返る中でこう語る。過去に五輪を開いた都市で「会場施設が利用されていない事例を聞く」。閉会後の安定した施設運営を盤石なものにするため、新規恒久施設の「施設運営計画」を2017年4月に策定した。

 同計画で6施設に共通する運営方針の一つが、民間活力の積極的な導入。民間事業者が蓄積したノウハウを最大限に生かし、収益の向上などにつなげていくとした。19年7月、都は電通(東京都港区、五十嵐博社長)を代表とする特別目的会社(SPC)と、有明アリーナの運営を任せる実施契約を結んだ。

 有明アリーナの運営には都有施設で初めて公共施設等運営権(コンセッション)方式を採用した。他の5施設は指定管理者制度で運営する。都担当者はコンセッション導入の背景に、有明アリーナが担う多様な用途を挙げる。

 都は1万5000人を収容できる多目的アリーナとして、スポーツに限らないイベントの誘致を想定している。さいたまスーパーアリーナ(さいたま市中央区)や横浜アリーナ(横浜市港北区)で開かれる音楽イベントなどを「都内でも開きたい」と都担当者。有明アリーナをエンターテインメントの一大拠点にすべく、コンセッション方式で民間事業者のノウハウを運営の広い範囲で取り入れていく。

 施設運営計画には施設ごとに、五輪後の利用規模の見通しも示した。東京アクアティクスセンターで100大会程度、海の森水上競技場は30大会程度を年間で開催する目標などを設定した。都担当者は「競技関係者へのヒアリングに基づいた数字」と説明。新型コロナの影響が見通せない中でも、「開催したいとの声が多くある。1回開ければ定着する」と今後の大会誘致に自信をのぞかせる。

 ただ、こうした目標設定を基に試算した運営収支は、有明アリーナを除く5施設でマイナスを見込む。利用者を増やす運営事業者の創意工夫や、ネーミングライツ(命名権)導入の検討などで改善していく方針だが、都担当者は「もうけを出すことは目的にならない」と強調する。スポーツ振興の拠点となる施設は、道路や橋梁と同じ「都市に欠かせないインフラ」。厳しい経営状況に向き合いながらも、都民が気軽にスポーツを楽しめる場所を整える行政機関としての使命を訴える。


 各施設のレガシー(遺産)を軸とした五輪後の街づくりも見据えている。有明エリアは有明アリーナをはじめとしたスポーツ機能と、今後控える民間複合開発との相乗効果で、にぎわいを創出する。東京アクアティクスセンターと夢の島公園アーチェリー場がある辰巳・夢の島エリアは、近隣の公園との連続性を確保しながら、水辺空間を生かしたレクリエーション空間などを形成していく。

 何年もかけて積み上げた計画の下、施設が無事完成を迎えた中、都担当者は「非常に残念」と五輪の無観客開催の方針に無念さをにじませる。さまざまな主張が渦巻く東京五輪を「みんながどう受け止めるか」。閉会後に施設や地域に残る大会の記憶が都民、日本人にとって誇れるものになることを期待したい。

2021年7月26日月曜日

【センサー設置し地盤変動24時間監視】熱海土石流、国交省が二次災害防止対策に着手

  静岡県熱海市の逢初川水系で3日に発生した大規模な土石流災害の緊急砂防工事で、国土交通省は二次災害の発生防止を徹底する。

 上流に位置する土石流の発生起点(源頭部)が不安定なため、衛星利用測位システム(GPS)観測装置やワイヤセンサーなどを設置。地盤の動きを24時間体制で監視し、下流で行う国直轄の緊急的な砂防工事の安全を確保する。被災地域の早期復旧に向け万全を期す。=2面に関連記事

 国交省中部地方整備局は、緊急砂防工事を現場で指揮する「熱海緊急砂防対策チーム」(リーダー・角田隆司河川部河川工事課長)を21日に設置した。本格的な復旧工事の開始と今後の避難解除を見据え、監視体制のさらなる強化に向け観測装置などの設置作業に入った。

 地盤が崩れる前に土砂の動きを感知するため、源頭部で新しい土砂崩れが起きる危険性がある場所にGPS観測装置を配置。斜面の崩落をいち早く検知するため、逢初川の流れに沿ってワイヤセンサーを張り巡らす。GPSは4カ所、ワイヤセンサーを1カ所に設ける計画。土砂の動きなどの状況によっては設置数を増やす予定だ。センサーなどの配置計画や設置作業は、災害時協定を結ぶ建設コンサルタンツ協会(建コン協、野崎秀則会長)を通じて日本工営が担当している。

 中部整備局は、今後の降雨量によって(源頭部で)土砂崩れが起こる可能性もあると見ている。監視体制を強化し土砂の動きを素早く察知できるようにすることで、二次災害の未然防止や復旧工事の安全確保につなげる。

【Ⅰ期工事は2024~27年度に】新秩父宮ラグビー場整備、施設規模は延べ7・7万㎡に

再開発事業の完成イメージ(港区議会資料から)

  日本スポーツ振興センター(JSC)が東京・神宮外苑で計画している「新秩父宮ラグビー場」を含む「ラグビー場棟」の施設規模が固まった。昨年1月時点で4万3900平方メートルとしていたが、店舗や控え室などを付帯施設を含めた延べ床面積が7万6700平方メートルになる。6階だった階数は7階に増える。工事は2期に分けて実施。2024~27年度をI期工事期間とし、33年度からII期工事に着手する計画だ。

 JSCが6月にまとめた基本計画によると、建設地は明治神宮第二球場の解体跡地。140×87メートルの人工芝のフィールドを整備する。座席数は2万席程度。ラグビーの魅力を伝えるミュージアム、飲食店や物販といった機能を併設する。整備にはBT(建設・移管)+コンセッション(公共施設等運営権)方式のPFIを採用する見通しだ。

 新ラグビー場の整備は三井不動産らが東京都港、新宿の2区にまたがる「神宮外苑地区」で計画する個人施行の再開発事業と一体的に進める。総延べ58万平方メートルの施設群を整備する。22年度にも施行認可を取得し工事に着手する見通しだ。全体工事の完了は36年度を見込む。

 ラグビー場棟以外には▽複合棟A(地下2階地上40階建て延べ12万7300平方メートル)▽同B(地下1階地上18階建て延べ3万0300平方メートル)▽事務所棟(地下5階地上38階建て延べ21万3000平方メートル)▽野球場/球場併設ホテル棟・文化交流施設棟(地下1階地上14階建て延べ11万7700平方メートル)▽絵画館前テニス場棟(2階建て延べ1万5300平方メートル)-の建設を予定している。

【凜】東京都オリンピック・パラリンピック準備局・山崎かすみさん、横沢香奈江さん


  ◇業界の協力に感謝、いざ大会へ◇

 東京五輪・パラリンピックで関係者輸送の円滑化に向け実施されるTDM(交通需要マネジメント)。東京都の担当部署は土木職の女性職員が半数近くを占める。道路などの整備・管理に携わってきたTDM担当課長の山崎かすみさん(写真左)と、統括課長代理(輸送調整担当)の横沢香奈江さんは工事調整を担当し、建設業界などへの協力依頼に奔走してきた。

 首都圏の交通混雑緩和には、あらゆる産業界の協力が不可欠だ。TDM関連の説明会は累計で約600回に達する。公共工事だけでなく民間工事の調整に協力を呼び掛けるため、個々の民間発注者や工事現場にも足を運んだ。

 山崎さんは「多くの企業に準備してもらった。それだけに延期になり申し訳ない気持ちだった」と振り返る。延期決定後に配属された横沢さんは「戸惑いしかなかった。企業に延期後の対応などをひたすら連絡するしかなかった」。コロナ禍でも混雑緩和が必要な交通状況に変わりはない。春先から広報チラシを関係先に配り始め、説明会を再開。問い合わせも増え、手応えを感じている。

 「工事調整は建設業界などの協力無しにはできない。現場での工夫などを考えてもらい感謝している」と山崎さん。大会期間中は24時間体制のシフト勤務で交通状況を管理し関係者輸送を後方支援する。祭典が無事に閉幕するまで気が抜けない日々が続く。 

 (やまさき・かすみ、よこざわ・かなえ)

【きみに期待】安藤ハザマ建設本部建築技術統括部設計企画部設計企画G・森本道生さん

森本さん(写真右)と調グループリーダー

  ◇スピーディーな連携を◇

 2020年から設計部門の運営を担う設計企画部をメインに、意匠設計部の意匠第四グループにも在籍する。4月からは医療・福祉・教育用途チームのチームリーダーを任された。コロナ禍で在宅勤務など新しい働き方が広がる中、メンバーと円滑にコミュニケーションを取り、スピーディーな連携に万全を期すことが、チームリーダーとしての目標だ。

 商業施設、医療・福祉・教育用途施設の設計や経営企画部での仕事を経て現在の部署へ配属に。設計部門全体の管理運営、医療福祉や教育関連の建築設計が主な業務だ。設計の実務を通じて設計者の新たな働き方を模索・実践しながら、設計部門全体にどう定着していくか日々奮闘している。意匠設計部では医療福祉・教育分野の設計力と提案力を強化し、競争に勝てる組織にしたいと考えている。

 上司の調恒治グループリーダーは「クールさと熱さの絶妙なバランスを持つ若手。自己主張もしつつ、上司や部下の長所を引き出せるチーム力の要だ」と評価。「設計部門、そして会社を引っ張っていく人物としてのさらなる成長を期待している」とエールを送る。

【駆け出しのころ】東洋熱工業執行役員東京本店副本店長兼工事統括・野崎豊氏

  ◇自ら考え経験を大切に◇

 アウトドアの趣味などを通じて、環境問題には学生時代から関心がありました。環境関連のビジネスができればと考えていましたが、当時は関連企業の選択肢も少なく、なかなか希望がかないませんでした。同じ学部の先輩たちが建築系の設備会社に就職していることを知り、当社が「環境貢献」を企業理念に掲げていたことが入社のきっかけになりました。

 正直、建設業というものをまったく知らず、建築設備の仕事も建物ができあがった後、比較的クリーンな作業環境で行うものだと考えていました。入社後、ヘルメットをかぶり、安全帯を付けて現場に立った時はさすがに戸惑いを感じたのを覚えています。

 2カ月の研修後、東京都内の事務所ビルの現場に数カ月勤務。工程が遅れ気味で現場勤務のイメージも違っていたこともあり、つらいところもありましたが、最初の3年間は何があっても頑張ろうと自分を鼓舞していました。

 1年目の後期には技術的な研修を受け、現場代理人になるための知識を学びました。現場と違って研修は定時で終わり、同期と懇親するなど、気分転換にもなりました。

 次の現場は都内の大型事務所ビル。計画段階から竣工までの現場の流れを2年半ほどかけて一通り経験できたのは良かったです。先輩の指導を受けつつ、施主や設計事務所など関係者らとの打ち合わせなど、事前検討ではある程度のことを任されました。大型案件で打ち合わせの関係者が多く、若手を応援してくれる人ばかりではありません。厳しい人も多かったですが、これから仕事を続ける自信を持つことができました。

 続いて担当したゼネコンの社員寮建設工事で、初めて現場代理人を任されます。空調設備を担当する当社のほか、衛生、電気など同業他社のベテラン技術者の方々から、仕事の段取りや流れ、管理の仕方などを教えてもらい助かりました。それでも現場を工期内に終わらせることばかりに気が回り、品質面のフォローが足りなかったと反省点は多く、竣工後のクレーム対応で苦労もしました。

 ある企業の本社ビルの建設工事では、建築主が思い描いていた建物のクオリティーが実際と異なっていると、基本設計までさかのぼる非常に大きなクレームに発展。第三者機関を介して解決まで2年ほどかかりました。上司や先輩たちの理解とサポートがなければ、つぶれていたかもしれません。当時は理不尽だと感じたクレームに余裕もなかったですが、建築主の思いをもっと深く理解しようとするべきだったと思います。

 口にはできない失敗も少なくありません。前例に縛られず、常に疑問を持ち、自ら考えながら仕事に向き合う。若手には経験から得たものを大切にしながら成長してもらいたいです。

入社5年目、応援で入った東京都内の現場事務所で

 (のざき・ゆたか)1986年埼玉大学工学部環境化学工学科卒、東洋熱工業入社。東京本店工事部長、執行役員東京本店次長を経て2020年4月から現職。神奈川県出身、57歳。

2021年7月21日水曜日

【回転窓】大任果たした建設業

  「大任果たした建設業、きょう東京五輪開幕」。1964年10月10日付の本紙は旧国立競技場の写真とともに前回の東京五輪の開催をこう伝えている▼国内初、アジア初の東京五輪は1959年の第55回国際オリンピック委員会(IOC)総会で決定。名乗りを上げていたデトロイトとウィーン、ブリュッセルを破った▼以来、開催までの5年間、東京だけでなく日本中につち音が響いた。競技場や選手村など五輪施設はもちろん、宿泊施設や首都高速1号線などの高速道路、日比谷線などの地下鉄、羽田モノレール、そして新幹線。建設業界は施設の建設を急ピッチで行った▼あれから50年以上が経過し東京の街は様変わりした。国立競技場は木材と鉄骨を組み合わせた温かみのある施設に生まれ変わり、今回多くの競技場が整備された臨海部は前回の東京五輪後に本格的な開発が進んだ▼23日、コロナ禍で2回目の東京五輪が開幕する。今回も短工期の中で建設業界は関連施設の整備を懸命に行った。前回同様に「大任を果たした」と言えるだろう。建設業界が総力を挙げて造った競技場で選手らの躍動する姿を早く見たい。

【円滑な大会運営へ工事抑制】五輪開会式目前、東京都内などで工事調整本格化

開会式を目前に控え、東京都内では交通規制が始まっている
(青山二丁目交差点付近、20日撮影)

  東京五輪の開会式を目前に控え、首都圏での工事調整が本格化している。円滑な大会運営に向けた交通混雑緩和が目的。公共発注者は工事の着手時期の変更や一時中止といった施策を展開し、民間にも工事抑制を働き掛けている。工事車両の流入を抑えるため、国と自治体、民間の発注機関が連携。スムーズな大会運営に向け万全な体制を敷いている。 

 関東地方整備局は管内1都4県の直轄工事約240現場を対象に工事調整を実施している。大会関係者の移動が本格化する19日から開始。8月9日まで体制を維持する。パラリンピック開催期間の同24日~9月5日も工事調整を実施する。

 競技会場周辺の混雑を避けるため、受注者と協議したり、発注時期をずらしたりなどし、会場周辺の工事着手と大会期間が重ならないよう準備。工事調整の担当者は「大会延期を含めた2年間で万全の体制を整えた。問題なく工事調整は進んでいる」と現状を説明する。

 事故などが原因による突発的な渋滞発生に対応できる体制も構築。道路管理者や交通管理者との連携組織を設け、道路状況の情報共有に努めている。交通に支障があった場合、速やかな対策の立案に生かす。

 東京都は19日から都発注工事で工事調整期間に入った。2月28日時点で契約していた工事のうち対象は1579件に達する。大会を成功に導こうと、各局が一丸となって工事搬入の時間帯やルートの調整などに取り組んでいる。今のところ大きな混乱は出ていないが、オリンピック・パラリンピック準備局の担当者は「緊急性の高い工事で新たに協議が必要になる可能性はある」と予想する。

 現場ごとの詳細な調整は工事を所管する各局に委ねている。「ロードレースの沿道の道路工事を休止する」(建設局)、「職員の出勤時間を早く設定している」(港湾局)、「臨海部を中心に搬入ルートに配慮している」(住宅政策本部)など、各局とも万全の体制を敷いている。

 開催の1年延期は「調整対象が増えた」(建設局)といった影響を及ぼした。だが「開催がいつになろうと計画を基に着実に工事に取り組む」(水道局)といった理由で、大きな変更なく各局は工事を発注している。一方で「周辺への騒音を考えると夜間に工事を切り替えられない」(同)と対応に苦慮した声も。調整期間は9月5日のパラリンピック閉会まで続く。受発注者の継続した連携が重要になる。

 インフラ関連企業は、関係機関から工事抑制の協力を求められた。東京電力パワーグリッドはメンテナンスなどの工事計画を調整。競技会場周辺や選手村周辺などへの電気供給に影響する地域や緊急対応を除いて、道路占有を伴うような工事を抑制する。東京ガスも路上工事の時期を調整してきた。大会関連施設へのガスの安定供給と保安の確保を目的に、必要な対策工事は前倒しで行った。

 発注機関と調整・協議を重ねてきた東京建設業協会(東建)は「東京五輪に最大限協力したい」(幹部)とし、期間中の交通規制などに協力するとしている。

【日本の歴史や伝統、象徴する施設に】新公文書館・憲政記念館整備(東京都千代田区)、工事費488・9億円


  内閣府は東京・永田町にある国会議事堂の前庭に整備する新たな国立公文書館と憲政記念館の実施設計をまとめた。建物は地下4階地上3階建て延べ4万2421平方メートルの規模。工事費は488・9億円(税込み、以下同)を見込む。左官仕上げの壁、ヒノキやナラなどの木材を採用。日本の歴史や伝統を象徴する施設になる。基本・実施設計は日建設計が担当した。

 2021年度以降に憲政記念館の解体と埋蔵物文化財調査を実施し、本体工事に入る。28年度末の開館を目指す。詳細なスケジュールは決まっていない。国土交通省は解体工事(工事発注規模3億~6・9億円)の施工者を決める入札を21年度第4四半期(22年1~3月)に予定している。

 19日にウェブ開催した有識者会議で実施設計の概要を示した。計画地は千代田区永田町1の1の1。約5・5ヘクタールの憲政記念館の敷地に、新たな公文書館と憲政記念館の合築施設を整備する。専用スペースとして公文書館に延べ2万1872平方メートル、憲政記念館は延べ4920平方メートルを確保。廊下など両館の共用スペースに延べ9308平方メートルを充てる。地下に駐車場(6321平方メートル)を設ける。

 外観は両館の独自性を強調したデザインになる。公文書館は隣接する国会議事堂との調和を重視。議事堂と同じ色調の桜御影石を使用する。憲政記念館は近代を象徴する建築材として、金属(アルミニウム合金の鋳物)やガラスなどを基調とする。

 公文書館の大階段や展示ホールは伝統的な左官仕上げの壁とし、床や壁にはナラなどの木材を使用する。憲政記念館は歴史的価値を尊重し、既存施設にある尾崎行雄像やロビー前の大理石、格子天井などを再配置・再利用する。ユニバーサルデザインや感染症対策の換気確保にも配慮する。

 現在の国立公文書館は東京・北の丸公園に本館、分館が茨城県つくば市にある。本館は1971年の開館で老朽化に伴い、建て替えることになった。

【洋上風力発電に対応、総投資額400億円】JFEエンジ、岡山県笠岡市に国内初のモノパイル工場建設へ



 JFEエンジニアリングは、岡山県笠岡市に着床式洋上風力発電設備の基礎構造物を製造する新工場を建設する。風車の支柱となる「モノパイル」と、風車タワーの接続部材「トランジションピース」を供給。完成すれば国内初のモノパイル製造拠点となる。生産開始は2024年4月を予定。設備投資は総額約400億円を見込む。将来的には港湾桟橋などに用いるジャケット式基礎にも対応し、洋上風力基礎製造のフルラインアップ体制を確立するとしている。

 新工場の建設地はJFEスチール西日本製鉄所(福山地区)内の約20ヘクタール。工場建屋や製造・運搬設備、岸壁を整備する。22年5月に工場の建設工事を開始する。

 JFEスチールが製造した大単重厚板を輸送して、モノパイルとトランジションピース素管を製造する。生産能力は年産8万~10万トン程度を見込む。モノパイルは、直径9~10メートル、重量約1400トンを想定する。

 トランジションピース素管は、津市のJFEエンジニアリングの津製作所に運び、2次部材や内装品を設置して完成品に仕上げる。直径9~10メートル、重量約500トンの大きさで、年産50本程度を見込む。津製作所でも運搬設備の整備や地盤改良などを行う。

2021年7月20日火曜日

【高さ212m、東京駅近接地に新ランドマーク】常盤橋地区に延べ14万㎡の常盤橋タワー完成

 東京駅に近接する常盤橋地区に高さ212メートルの超高層ビルが誕生--。

 三菱地所が進める総延べ約74万平方メートルの大規模再開発事業「TOKYO TORCH(トウキョウトーチ)」プロジェクトのうち、駅周辺のオフィスビルで最も高い大規模オフィスビル「常盤橋タワー」が竣工した。21日から商業ゾーンや大規模広場が順次オープンする。設計・監理は三菱地所設計。戸田建設が施工した。

 建設地は千代田区大手町2、中央区八重洲1。JR東京駅日本橋口から徒歩1分に位置する。建物は地下5階地上38階建て延べ14万6000平方メートルの規模。駅周辺のオフィスビルで最も高い212メートルの超高層ビルとなった。地下1階~地上3階が商業ゾーン、9~37階はオフィスとなる。

 同社プロジェクトで就業者専用アプリを初めて導入する。スマートフォンを利用して、セキュリティーゲートで非接触認証の入退館を実現。ビル内の飲食施設や会議室の利用予約などもできる。

 屋外には約7000平方メートルの広場空間「TOKYO TORCH Park」を整備した。全国の自治体と連携し、日本文化の発信スペースとして活用。茨城県つくば市の天然芝や、新潟県小千谷市のニシキゴイが泳ぐ池などを設置した。

 19日に内覧会が行われ、8階のオフィスサポートフロアや3階のカフェテリアなどを公開した。オフィスサポートフロアには全7室の貸会議室やカフェなどを備える入居企業専用のラウンジを配置した。カフェテリアは一部を除いて入居企業専用のスペースになるが、夕方以降は一般向けにも開放する。

 三菱地所の吉田淳一社長は常盤橋タワーの完成について「世界に誇る新たなシンボルとして立ち上げていく大きな一歩になる」と強調した。延べ約54・4万平方メートル、高さ約390メートルの規模となる「Torch Tower(トーチタワー)」の着工を2023年度に控え、「日本を明るく元気にするプロジェクトとして、皆さんとともに作り上げていきたい」と期待した。

【1926年竣工の大阪府庁舎本館も】文化審、有形文化財に道徳公園クジラ池噴水など220件の登録答申

道徳公園(名古屋市南区)のクジラ池噴水
(文科省の報道発表資料から)

  文化審議会(文部科学相の諮問機関、佐藤信会長)は大阪府庁舎本館(大阪市中央区)や道徳公園クジラ池噴水(名古屋市南区)などを登録有形文化財(建造物)とするよう萩生田光一文科相に答申した。対象は35都道府県にある建造物220件。答申通りに指定されると、同文化財(建造物)は1万3286件となる。

 大阪城公園の西に位置する大阪府庁舎本館は、1926(大正15)年の竣工。背後に議会棟を張り出すコの字形の建物で、外観は大正時代に流行した欧州の「セセッション様式」を取り入た。内部の玄関ホールは、大理石貼りの3総吹き抜け。文化審は正庁や議場も「装飾豊潤」と評価した。後に名古屋市役所などを手掛けた平林金吾とその同僚だった岡本馨が設計した。

 道徳公園はクジラ型の噴水が愛らしい公園。噴水は造形家の後藤鍬五郎が製作した。噴水を中心に石と擬木で護岸を形成し、石製の欄干付きコンクリート橋を設けた。竣工は1927(昭和2)年で戦前から地域に愛されている公園だ。

【デザインはガンダムとシャア専用ズゴック】バンダイナムコグループ、神奈川県小田原市にガンダムマンホールふた寄贈

  バンダイナムコグループがオリジナルデザインのマンホールふた2枚を神奈川県小田原市に寄贈した。同グループが5月にスタートしたIP(キャラクターなどの知的財産)を生かした新戦略「ガンダムプロジェクト」の一環。ガンダムの生みの親である富野由悠季さん(写真㊧)は同市の出身。人気アニメ・ガンダムのモビルスーツを描いたマンホールふたを贈った。

 デザインは「ガンダム」と「シャア専用ズゴック」の2種類。どちらも小田原市のため独自にデザインした。設置場所はガンダムが栄町のダイヤ商店街内、ズゴックが早川1の21の3地先。いずれも8月1日から設置する。

 小田原市役所で17日に行われた贈呈式には、富野さん夫妻と守屋輝彦市長らが出席した。富野さんは「小田原の空気感がSFというすべて絵空事の世界観を描く時にもその元にあった」と生まれ育った小田原市への思いを語った。デザインマンホールは31日まで、小田原城天守閣で特別展示する。

【回転窓】正確で有益な情報発信

  さまざまな情報が発信できるSNS(インターネット交流サイト)。インターネットの普及とともに世界中に広がった▼総務省が6月に公表した2020年「通信利用動向調査」によると、約3・2万人にSNSの利用動向を聞いたところ73・8%が何らかのサービスを使っていると答えたそう。SNSの定着と歩調を合わせるように増加しているのが“炎上”とされる投稿が原因のトラブル、誤情報や未確認情報の流布ではないか▼時事通信は米シリコンバレー発のニュースとして先週、米ツイッターが公表した20年下半期の透明性調査報告書の内容を配信していた。報道によると各国政府がジャーナリストや報道機関に投稿の削除を要請したケースが361件あり、最も多い国はインドの128件だった▼ちなみに政府が投稿の情報提供を要請した件数は1万4600件。インドが全体の4分の1を占め、次いで米国、日本の順だった▼本紙編集部が運営するツイッターは先日、フォロワー数が1万を超えた。多くの方が日々の投稿を見てくれていることに感謝しつつ、これからも正確で有益な情報発信を心掛けたいと思う。

【映画「男はつらいよ」にも登場】東京・葛飾区、老舗料亭・川甚を再整備

 コロナ禍による経営難で1月末に200年を超える歴史の幕を閉じた東京都葛飾区の料亭「川甚」が街の文化を発信する拠点に生まれ変わる。

 区が土地と建物を取得。川甚ゆかりの品を展示し、昭和の雰囲気が色濃く残る柴又の街並みを伝える資料館として活用する。本年度は学識経験者や地域住民らと協議し施設の方向性を固める。2022年度以降に設計などに入る。

 1790(寛政2)年に創業した川甚は、夏目漱石や谷崎潤一郎らの小説に登場。映画「男はつらいよ」でも主人公・寅さんの妹さくらの結婚式の舞台になった。

 所在地は柴又7の10。江戸川の河川敷に近い3400平方メートルの敷地には、RC造4階建て延べ1737平方メートルの本館(1964年完成)とS造3階建て延べ949平方メートルの新館(07年完成)がある。本館は解体し、新館を資料館に改修する。

 資料館には川甚を訪れた作家の三島由紀夫や松本清張、漫画家・手塚治虫らのサインを展示したり、江戸川から舟で座敷に上がれた明治期の写真を飾ったりする案が上がっている。区は地域に根付いた老舗料亭を利活用することで「江戸・東京と北関東や房総を結ぶ拠点として栄えた柴又の歴史を後世に残したい」(産業観光部観光課)考えだ。

【凜】国土交通省関東地方整備局・和田怜奈さん

 ◇経験積んで資格を取りたい◇

 国土交通省に入省し2年目。千葉国道事務所で舗装の修繕やインフラメンテナンスに伴う点検などの業務、工事発注を担う管理第二課に所属する。道路緊急ダイヤルの受け付けも担当しており、怒鳴られたりクレームを受けたりと、つらいこともあった。だが「『対応が良かった』という声をもらうと励みになる」と話す。

 祖父が工務店を経営していたこともあり、幼い頃から建築に心を引かれていた。建築を学ぼうと大学に進んだが、橋梁など土木構造物を目にする機会が多くなり、いつしかダイナミックさに心を奪われた。土木系のコンクリートを研究する道を選択したのは、自然な流れだったと思っている。中国地方整備局に勤める兄の影響もあり、「地域の人と直接関わる仕事がしたい」と国交省を選んだ。

 ただ社会人になる直前、世の中は新型コロナウイルスの流行に翻弄(ほんろう)されるようになった。働き始めてからもテレワークが多く、仕方がないと分かっていても「もっと現場に行きたい」と思っていた。

 現場でしっかり話ができるように知識を増やしながら実務経験を積み、一日も早く土木施工管理技士などの資格を取るのが今の目標。「何か目標がないと勉強しないので」とはにかむ。

 出身は松江市。大好きな東京ディズニーリゾートに気兼ねなく行ける日が来ることを心待ちにしている。

 (千葉国道事務所管理第二課、わだ・れいな)

【やっぱり!マイ・ユニホーム!!】栗本建設工業「75周年迎え刷新、魅力的な作業服に」

  栗本建設工業(大阪市中央区、吉本昇社長)が75周年記念事業の一環として、約10年ぶりにユニホームをリニューアルした。新ユニホームは上着の右腕に入るグループロゴの「K」、背中右肩部に配置した「KURIMOTO」の社名ロゴがポイントだ。ヘルメットも新調し、バイザーを透明カラーにして視認性を高めた。所長がかぶるヘルメットはウイングに3本の反射テープが入り、現場責任者と一目で分かるようにした。

 初のオリジナルユニホームを作るため、社員アンケートで現場の声を聞いた。コンセプトは「機能性を重視した魅力ある作業服」。汚れが目立ちにくい袖口にしたり、社名ロゴ入りの消臭テープを襟内に入れたりと、現場の声に寄り添ったユニホームを追求した。パンツは男女で色を分けていたのを統一。女性社員の増加を踏まえ、SSサイズを新たに用意した。

 7月から新しいユニホームの着用を始めた。機能性の高さを早速実感している社員が多いそう。ある社員は「伸縮性があり座り込むのが楽になった」と動きやすさの違いに驚いている。「ロゴの差し色がかわいい」と話す女性社員もいる。


【駆け出しのころ】日本国土開発取締役副社長執行役員管理本部長・曽根一郎氏

  ◇腹をくくってまず行動◇

 建設産業は基幹産業の一つであり、大きな資金を投じる仕事という点に魅力を感じました。入社後は九州支店に配属。社会人になるまで東京から出たことがなく、何も分からないまま、福岡市内のシールド工事現場に2カ月ほど在籍しました。現場事務所の1階に寝泊まりしながら、現場の整理整頓や資材の荷下ろしなど力仕事の毎日。当時のセメントは1袋の重さが約40キロで担ぐのに苦労しました。

 事務職で技術的なことは分からず、所長に「地元を回って顔を売ってこい」と言われ、現場近くの食堂に毎日通うなど、地域の方々との良好な関係づくりに取り組みました。ある日、外回りの合間に休んでいた時、地盤改良で注入していた薬液が地上に噴き出す事故が起きました。非常時の地元対応ができず、所長から「どこで何をしていたんだ」と厳しく叱られたのを覚えています。

 最初の現場から支店の経理担当へ異動した直後に長崎大水害が発生し、新入社員も被災地や現場の支援に駆り出されました。大規模な宅地造成の現場の応援では事務所に徹夜で待機し、雨が降ったら土石流など災害の危険性がないかを見て回りました。

 入社3年目から沖縄の現場事務を4年担当。当社はトンネルやダム、道路、嘉手納基地の関連施設、上下水道など、かなりの量の仕事を各地で行っていました。当時の事務担当は大きい現場を主務地とし、その他の現場には女性の事務員を置いて定期的に見て回るのが基本スタイル。体は一つですから、現場のことがある程度分かってくると、多少濃淡を付けてポイントを押さえながら効率よく回るようにしました。

 主務地でないへき地の現場を回る時が一番大変。仕事が終わり、寂しがり屋の所長たちとの夜の付き合いは、沖縄タイムで翌日未明まで続きます。道路に寝転がり、朝日で目を覚ましたこともありました。

 沖縄で最初に担当した導水路トンネルの現場では、目の前の仕事や今後の会社人生をいろいろと考え、迷いも多かったです。常に危険と隣り合わせの現場で、技能者・技術者が山を掘り進めていく姿に力強さを感じる一方、自分は何もできていないと思う葛藤の日々。事務屋ながらも同じ土俵に立ちたいと思い、その後に土木施工管理の資格を取得しました。

 沖縄から支店に戻り総務を経て購買を担当。バブル期で鉄筋など資材確保に奔走する大変な時期でした。業界団体の資材研究会のメンバーの方々にも助けられました。

 若いころは何でも任され、自己流でも会社がそれを認めてくれたので、恵まれていたと思います。任されたのだから腹をくくってまず行動。若い人たちには「Never too late」の精神で恐れずに動いてほしいです。

入社3年目、迷いも多かった沖縄のトンネル工事現場で

 (そね・いちろう)1982年成蹊大学工学部経営工学科卒、日本国土開発入社。経営企画室長、関連事業本部長などを経て2021年6月から現職。東京都出身、61歳。

2021年7月16日金曜日

【回転窓】丸刈りの時代

  学生時代、校則で丸刈りになった--。40代から上の世代には、そうした方がいるのではないか。地元の中学校がそうだった。入学式前の散髪は記憶に残る嫌な思い出だ▼校内暴力が社会問題になり、生徒への締め付けが厳しくなった時期と重なる。母校もかつて荒れた学校として有名だった。先輩の1人が漫画『ビーバップハイスクール』の作者、きうちかずひろさん。中学時代のけんかの経験が作品にも影響しているとインタビューで語っていた▼生徒指導に課題があったのは事実だろう。だが理不尽なルールで縛り付けることに違和感を覚えた。最低限のモラルを守らせることと画一的な姿を強いるのは本質的に異なる。その後の生き方にも影響を与えかねない▼文部科学省が生徒指導提要の改訂に向け有識者会議を設けた。校則の在り方も俎上(そじょう)に載っている。初会合で委員の1人が人権に配慮した校則を求めた▼ダイバーシティー(多様性)が叫ばれる昨今。変革の旗振り役の中高年層が多様性を求められる人生を歩んできたとは限らない。自らの経験に固執せず、しっかり意識を切り替える必要があるのだろう。

【東京8号線などの早期事業化を】交政審、東京圏の地下鉄網で今後の在り方答申

  交通政策審議会(交政審、国土交通相の諮問機関)は15日、東京圏を対象にした地下鉄ネットワークの在り方を赤羽一嘉国交相に答申した。東京8号線(有楽町線)延伸と都心部・品川地下鉄は、事業主体の選定や費用負担の調整を早急に進め、「早期の事業化を図るべきだ」と明記した。

 事業主体には東京メトロを挙げた。国と東京都が保有する同社の株式売却は段階的に実施するよう提言。建設期間中は全株式の2分の1を保有し、プロジェクト推進を支援するよう求めた。

 整備の妥当性を議論してきたのは▽東京8号線延伸▽都心部・臨海地下鉄▽都心部・品川地下鉄-の3路線。東京8号線延伸は有楽町線豊洲駅と半蔵門線住吉駅の間を5・2キロのトンネルでつなぐ。総事業費は約1500億円。答申は都心の東部と臨海部を結ぶ重要な路線と位置付けた。

 都心部・品川地下鉄は品川駅と、南北線の白金高輪駅の間に2キロの新線を建設する。総事業費は約1600億円。答申はリニア中央新幹線の始発駅となる品川駅と周辺地区のアクセスを高めると評価した。

 2路線はいずれも東京メトロの既存路線と接続するため、技術的な観点から同社が事業主体を担うべきだとした。同社が建設すれば接続する路線と一体の運賃設定が可能になる。既存の駅舎を最大限利用でき、乗り換え利便性も高まる。

 整備への公的支援の必要性も指摘した。国の「地下高速鉄道整備事業費補助」などを活用し、東京メトロの経営への影響を最小限にするよう求めた。

 2路線の整備期間中は、国と東京都が株式の2分の1を保有しておく必要があるとした。株主としての影響力を残し確実な建設を担保する。都心部・臨海地下鉄は有効性を認めたものの、「事業化に向けて関係者による検討の深度化を図るべきだ」との表現にとどめた。

 赤羽国交相は同日、「関係者と連携し、新線整備の前提となる公的支援や、東京メトロ株式の確実な売却など、必要な取り組みを進める」とコメントを発表した。東京地下鉄株式会社法と復興財源確保法は東京メトロを完全民営化し、2027年度までの株式売却益を復興財源に充当するよう定めている。

【2027年度末の完成目指す】東京都、日比谷公園大音楽堂(千代田区)を建て替え

日比谷公園再整備計画の完成イメージ(都HPから)

  日比谷公園(東京都千代田区)にある「大音楽堂」の建て替えプロジェクトで、都が想定するスケジュールが明らかになった。2022年度に整備・運営を担う事業者を募集。23年度に事業者を決め24年度着工する。完成は27年度末を見込む。Park-PFI(公募設置管理制度)の活用を想定している。20~30年の事業期間を設定する方針だ。

 整備・運営事業者の公募要件などを固めるため、都は15日にマーケットサウンディング(対話)調査の手続きを開始した。8月18日に現地説明会を開く予定。参加申し込みを30日まで建設局公園緑地部計画課で受け付ける。提案書の提出期間は11月1~8日。個別対話を同22~29日に実施し12月にも調査結果を公表する。

 大音楽堂を含む約1・2ヘクタールの敷地活用を想定し、新施設の配置や整備手法、収支などの計画をヒアリングする。周辺ににぎわいをもたらす日比谷公園などと連動したイベントなどでも提案を求める。

 現在の大音楽堂は1983年に完成した3代目。3053人収容し「野音」の名称で知られる。大音楽堂の建て替えは、都が開園130周年を迎える33年までの完成を目指す日比谷公園再整備の一環。都公園審議会が「都立日比谷公園再生整備計画について」の答申を3月にまとめた。

 答申によると、植栽の整理や南北2カ所の道路上空デッキ整備などを掲げた。都は園路や広場などの基本設計を本年度にも発注する。公園内にある「日比谷公会堂」も改修・増築する計画。本年度は実施設計の発注を予定している。

【浄水場用地を有効活用】川崎フロンターレ、9月にもフロンタウン生田整備着手

  川崎フロンターレ(川崎市高津区、藁科義弘社長)は9月にも、多摩区で計画する市民スポーツ施設「フロンタウン生田(仮称)」の建設工事に着手する。生田浄水場用地(川崎市有地、多摩区生田1の1の1)の一部に定期借地権を設定して整備。川崎市が15日の市議会環境委員会に報告した。

 市上下水道局が所管するふれあい広場と多目的広場の整備に先行着手し、2022年1月にはフロンターレが管理・運営するスポーツ広場の工事に入る。供用開始はふれあい広場が23年1月、多目的広場・スポーツ広場が23年3月、フロンターレのサッカースクール・保育施設などは同4月を予定している。

 生田浄水場用地の一部を有効活用する事業。市は19年10月、公募型プロポーザル方式で川崎フロンターレを事業者に選定した。両者は20年間の事業用定期借地権設定契約を結んだ。

 フロンターレはサッカーグラウンドやテニスコート、体育館などを備えたスポーツ施設の整備を計画している。敷地面積は約4万8900平方メートル。フロンターレがフロンタウン生田として運営するのは約3万4000平方メートル。「(仮称)生田ふれあい広場」(約7100平方メートル)と「(仮称)生田多目的広場」(約7800平方メートル)は市が所管するが、整備・運営などはフロンターレが一括して担当する。

 フロンタウンには照明設備を備えた公式サッカーグラウンド2面、照明設備を備えた屋外テニスコート3面、屋内テニスコート3面、体育館1棟、クラブハウス、スポーツ幼稚園、カフェ・ラウンジなどを整備する。

 生田ふれあい広場にはさく井の地下水を利用した親水広場、芝生広場、インクルーシブプレイ広場、震災時の一次避難所などを整備する。生田多目的広場は少年野球やサッカー、ゲートボール、消防訓練など多用途に使用できるグラウンドを整備する計画だ。

 市は生田浄水場と潮見台浄水場を廃止して、長沢浄水場に機能を集約する再構築事業を計画。生田浄水場は工業用水道事業専用の浄水場となったため、更新用地として活用するまでの期間、用地を民間に貸し付けて有効活用を図る。

2021年7月15日木曜日

【回転窓】新たな戦国時代?

  平安中期の武将で関東に一大勢力を築いた平将門。将門を祭る神田明神の資料館(東京・外神田)で、今月から特別展「平将門公展2021」が開かれている▼武士のルーツとされる将門と、戦いのDNAを受け継いだ戦国武将たちに関わる資料などを展示。彫刻家・淺野健一氏が製作奉納した将門の御神像も特別公開している。多くの武将たちの生きざまをより深く知ることができる▼群雄割拠の戦国時代、神田明神は名だたる武将らが信仰した。天下分け目の関ケ原の戦いに臨む徳川家康が戦勝祈願を命じ、大祭・神田祭の日に偶然にも勝利。江戸時代を通じて「江戸総鎮守」と称し、大祭は「天下祭」と呼ばれるようになった▼国内外から多くのプレーヤーが参入する洋上風力市場は、まさに戦国時代の様相を呈す。各海域で発電事業者を決める手続きは、さながら陣取り合戦のようにも見える▼本紙の連載「風をつかむ」に登場された方からは、血で血を洗う激しい価格競争の市場を表す「レッドオーシャン」を懸念する声も。天下取りで市場を荒らさず、時には他者と協調する姿勢も健全な市場の創出には必要だろう。

【施工は大成建設、2棟総延べ7.3万㎡規模】世田谷区の本庁舎建替事業、解体工事がスタート

新庁舎の完成イメージ(世田谷区公表資料から)

  東京・世田谷区の本庁舎建て替え事業が始動する。現庁舎の一部を解体する工事が15日にスタート。現庁舎で業務を続けながら3期に分けて解体と新築を繰り返し、新庁舎を完成させる。各工期で整備した建物をつなぎ、最終的に一つの建物にする高難易度のプロジェクトになる。建て替え後の新庁舎は2棟総延べ床面積は約7・3万平方メートルの規模。大成建設の施工で2027年10月の完成を目指す。設計は佐藤総合計画が担当。CM(コンストラクションマネジメント)業務を明豊ファシリティワークスに委託している。

 建設地は世田谷4の21の27。新庁舎は東と西の2棟構成。S・RC・SRC造で免震構造を採用する。東棟は地下2階地上10階建て塔屋2階延べ3万6484平方メートル、西棟は地下2階地上5階建て塔屋1階延べ3万6518平方メートルの規模となる。

 建築家の前川國男(1905~86年)が設計に携わった現庁舎のイメージを継承するため、建物間に広場やピロティ、ケヤキ並木などを設ける。区民に親しまれた敷地東側の「区民会館」はホール部分を改修して継続使用し、楽屋部分は建て替える。

 工期は▽1期=21年7月~23年7月▽2期=23年7月~25年9月▽3期=25年9月~27年10月-の3段階。区民会館と分庁舎を含めて五つある既存建物を順番に解体する。新庁舎東棟は1~2期、同西棟は1~3期で整備。区民会館は1期で低層部と楽屋部の改築、ホール部分の耐震補強を行う。