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取材は横浜市中区にあるカップヌードルミュージアムで。 「子どもたちの『創造的思考』を豊かに育む体験型食育ミュージアムです」と花本室長 |
◇「食」の楽しみ・喜びで社会に貢献◇
9月18日に発売50周年を迎える「カップヌードル」。世界初のカップ麺は新しい「食」を創造し、世界の食文化を変えた。おいしさだけでなく、環境や防災などさまざまな課題に向き合い、今も進化を続けている。持続的成長に向け日清食品ホールディングス(HD)は2020年度に環境戦略を策定。気候変動に対する取り組みや資源の有効活用に関する目標を定め、具体的に活動している。食品メーカーの挑戦とは--。広報部サステナビリティ推進室の花本和弦(かなで)室長に話を聞いた。
創業者の安藤百福が掲げた「食足世平(しょくそくせへい)」「食創為世(しょくそういせい)」「美健賢食(びけんけんしょく)」「食為聖職(しょくいせいしょく)」という四つの言葉はグループ理念の基であり、変わることのない創業の価値観と位置付けています。グループビジョンの「EARTH FOOD CREATOR」には、人類を「食」の楽しみや喜びで満たすことを通じて、社会や地球に貢献するという思いが込められています。その実現にはESG(環境・社会・企業統治)経営やSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みが大事で、それが持続的な成長の原動力になると捉えています。
□食品メーカーとして「食品ロス」に向き合う□
気候変動や環境など課題はたくさんあり、部署を超え全社一丸となって取り組まなければいけません。グループの具体的なリスクや機会を特定するため、19年に気候変動のシナリオ分析に着手し、20年4月に30年までの環境戦略「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」を策定しました。
地球資源を取り巻く環境保護や資源の有効活用に挑戦しています。例えば、インスタントラーメンはパーム油で揚げて作ります。味やおいしさに影響を与えない使い勝手の良い油ですが、森林破壊や農園労働者の人権侵害などが散見され、問題になっている原材料です。環境や人権に配慮された持続可能なパーム油の調達比率100%を目指しています。水資源の節約にも挑んでいます。グループ全体で売上高100万円当たりの水使用量12・3立方メートルを目指すとともに、水の再利用に取り組んでいます。
廃棄物の目標も設定しています。食品メーカーとして「食品ロス」という社会的な問題にきちんと向き合わなければいけません。販売・流通過程の廃棄物総量を15年度と比べて半減させる目標を掲げました。しかし食品メーカーの努力だけでは達成できません。流通業界と一緒に取り組むことや、消費者に理解いただくことが重要です。製造過程で発生する廃棄物の再資源化も進み、99・6%をリサイクルできています。
□原材料生産から廃棄までが責任□
気候変動問題への取り組みでは、二酸化炭素(CO2)排出量の削減を重要課題に位置付けています。スコープ1(自社による温室効果ガスの直接排出)とスコープ2(他社から供給された電気や蒸気の使用に伴う間接排出)だけでなく、スコープ3(事業活動に関連する他社の排出)も企業の責任になってきています。カップヌードルの原材料を作るところから、お客さまが食べ終わり廃棄するところまでが責任の範囲ということです。30年度のCO2排出量を18年度比でスコープ1と2が30%削減、スコープ3が15%削減という目標を立て、取り組みを始めています。
スコープ1と2については、CO2排出量の多い自社工場を対象に省エネルギー活動を積み重ねつつ、再生可能エネルギーへの切り替えも進めていきます。食べ終えた後の油汚れなどが付いたインスタントラーメンの容器はリサイクルが難しく、一般的には可燃ごみとして焼却処分されています。そこで焼却時に出る熱を利用して発電する「ごみ発電電力」を東京本社で使用しています。月平均で本社ビルの電力を100%賄える月もあれば、最も低くて50%を賄う月もあります。エネルギーを循環させていこうという試みです。
スコープ3への取り組みとしてカップヌードルの容器を変えていきます。あまり変わったように見えないと思いますが、実は進化しています。発泡スチロールだったカップが08年、紙を主原料に一部プラスチックを使った「ECOカップ」に変わりました。さらにバイオマスの使用割合が80%以上の環境配慮型容器「バイオマスECOカップ」を開発し、19年12月に切り替えを始めました。21年度中にはすべての切り替えが完了する予定です。これからも容器は進化していきます。
「謎肉」ってご存じですか。豚肉を若干混ぜていますが、主原料は大豆です。大豆は畜産肉と比べCO2排出量が少ないそうです。環境負荷の高い畜産業由来の食材の代わりとなる植物代替肉の活用を進めています。カップヌードルの小さな容器の中には、持続可能なパーム油やバイオマスのカップ、大豆由来の謎肉など小さな努力、工夫が詰まっています。皆さまが召し上がるものなので、積み重なると大きな成果につながっていきます。
□商品通じて消費者に良い取り組み広める□
「カップヌードル DO IT NOW!」プロジェクトはカップヌードルを通して、おいしさだけでなく、食の安全・安心や環境、防災、健康、社会などあらゆる課題に向き合い、地球と人の未来のためにすべきこと、できることを今すぐ取り組んでいくプロジェクトです。その一環として、プラスチック原料の使用量を削減するため「フタ止めシール」を廃止するとともに、新しい形状のフタ「Wタブ」を採用しました。
シールがないと困るという人たちにプラスチックを減らすためだからと、我慢を強いてはいけません。Wタブという別の方法や、楽しさが必要です。新しい価値を提供し、実はそれが環境問題につながっているということです。カップヌードルはトップブランドなので消費者への影響力が大きい。商品を通して、消費者に良い取り組みを広めていくことが使命だと考えています。
環境目標の達成に向けてトップ自ら「サステナビリティ委員会」の委員長に就き、国内外の社員を巻き込みながら、グループ一丸となって全力で取り組んでいます。委員会の下に環境や人権、教育などのワーキンググループを置き、部署横断でいろんな人たちを集めました。情報共有や議論の動きが速く、30年度の目標をどうやって達成していくか、みんなで考えています。
□有事でも商品供給は絶対に止めない□
温暖化の影響だと思いますが、自然災害が各地で相次いでいます。有事が増える中、商品供給を止めないことが私たちの社会的な責任です。BCP(事業継続計画)を策定して、商品を供給し続けるための生産、物流、販売体制を整えています。東日本大震災の時に調達できなかったかまぼこを抜いて、「どん兵衛」を販売したことがあります。有事の際には、かまぼこがなくてもいいんです。
普段からの備えも大事です。防災備蓄セットの「ローリングストックセット」には3日分(9食)の食料と水、カセットコンロなどが入っています。サブスクリプションサービスで3カ月ごと自動的に入れ替え用の商品を届けます。賞味期限を気にしたり、買い替えたりする必要がなく、日常的に消費しながら常に一定量の食品を備蓄していただくことができます。こうした商品を、皆さんにもっと伝えていくことも大切だと思っています。
□フタ止めシール廃止、プラスチック原料年間33t削減□ カップヌードルのフタの形状が発売50年目にして初めて変更される。近年、廃プラスチックによる環境問題が注目される中、カップヌードルで採用してきたプラスチック製の「フタ止めシール」を廃止。これによってプラスチック原料の使用量を年間で33t削減できるという。シールがなくてもしっかり留められるよう開け口を二つに増やした新形状のフタ「Wタブ」を採用。レギュラーサイズのカップヌードルで順次切り替わっていく。