2021年7月27日火曜日

【五輪レガシー、地域活性化の起爆剤に】東京都、五輪後の競技施設活用を検討

多目的利用が見込まれる有明アリーナ

  23日に開会式が行われた東京五輪。新型コロナウイルスの流行が収まらず多くの制約がある中で、各国から集まったアスリートが威信を懸けて競技に挑んでいる。五輪開催に当たり東京都は6カ所に「新規恒久施設」を整備。大会期間の選手のパフォーマンスの場にとどまらない、スポーツ振興や周辺エリアの活性化の起爆剤となる施設の後利用への未来を描く。

 「早い段階での後利用検討は重要なテーマだった」。都担当者は、施設整備を振り返る中でこう語る。過去に五輪を開いた都市で「会場施設が利用されていない事例を聞く」。閉会後の安定した施設運営を盤石なものにするため、新規恒久施設の「施設運営計画」を2017年4月に策定した。

 同計画で6施設に共通する運営方針の一つが、民間活力の積極的な導入。民間事業者が蓄積したノウハウを最大限に生かし、収益の向上などにつなげていくとした。19年7月、都は電通(東京都港区、五十嵐博社長)を代表とする特別目的会社(SPC)と、有明アリーナの運営を任せる実施契約を結んだ。

 有明アリーナの運営には都有施設で初めて公共施設等運営権(コンセッション)方式を採用した。他の5施設は指定管理者制度で運営する。都担当者はコンセッション導入の背景に、有明アリーナが担う多様な用途を挙げる。

 都は1万5000人を収容できる多目的アリーナとして、スポーツに限らないイベントの誘致を想定している。さいたまスーパーアリーナ(さいたま市中央区)や横浜アリーナ(横浜市港北区)で開かれる音楽イベントなどを「都内でも開きたい」と都担当者。有明アリーナをエンターテインメントの一大拠点にすべく、コンセッション方式で民間事業者のノウハウを運営の広い範囲で取り入れていく。

 施設運営計画には施設ごとに、五輪後の利用規模の見通しも示した。東京アクアティクスセンターで100大会程度、海の森水上競技場は30大会程度を年間で開催する目標などを設定した。都担当者は「競技関係者へのヒアリングに基づいた数字」と説明。新型コロナの影響が見通せない中でも、「開催したいとの声が多くある。1回開ければ定着する」と今後の大会誘致に自信をのぞかせる。

 ただ、こうした目標設定を基に試算した運営収支は、有明アリーナを除く5施設でマイナスを見込む。利用者を増やす運営事業者の創意工夫や、ネーミングライツ(命名権)導入の検討などで改善していく方針だが、都担当者は「もうけを出すことは目的にならない」と強調する。スポーツ振興の拠点となる施設は、道路や橋梁と同じ「都市に欠かせないインフラ」。厳しい経営状況に向き合いながらも、都民が気軽にスポーツを楽しめる場所を整える行政機関としての使命を訴える。


 各施設のレガシー(遺産)を軸とした五輪後の街づくりも見据えている。有明エリアは有明アリーナをはじめとしたスポーツ機能と、今後控える民間複合開発との相乗効果で、にぎわいを創出する。東京アクアティクスセンターと夢の島公園アーチェリー場がある辰巳・夢の島エリアは、近隣の公園との連続性を確保しながら、水辺空間を生かしたレクリエーション空間などを形成していく。

 何年もかけて積み上げた計画の下、施設が無事完成を迎えた中、都担当者は「非常に残念」と五輪の無観客開催の方針に無念さをにじませる。さまざまな主張が渦巻く東京五輪を「みんながどう受け止めるか」。閉会後に施設や地域に残る大会の記憶が都民、日本人にとって誇れるものになることを期待したい。

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