現存最古のダムは紀元前1300年ごろシリアに建設された「ナー・エル・アシダム」で、今もなお供用されている。水は文明や産業の発展、生命の維持・保護に寄与する存在、ダムは水をコントロールする存在として人類と共に歩んできた。社会の発展と国民の安全確保の継続のため、これからもダムの適切な維持管理・新設を行うことが不可欠だ。ダム紹介ウェブサイト「ダムマニア」の管理人・宮島咲さんにダムの魅力や観光資源としての役割などを聞いた。
◇持続可能なダム観光の仕組みを◇
――ダムに興味を持ったきっかけは。
「デジタルカメラの登場と自動車運転免許の取得がきっかけです。自分の好きな山道ドライブのついでに、何かカメラで撮影しようと考えた時に思いついたのがダムです。撮り続けるうちに、形状の個性に気がつき、引かれていきました」
――ダム紹介ウェブサイト「ダムマニア」を運営されています。
「2001年からダムマニアの運営を開始しました。既にダム紹介ウェブサイトはいくつかありました。私のサイトはダムまでの道のりを記しているのが既存のサイトとの違いです。昔はナビゲーションシステムがなかったので、ダムにたどりつくまで紙の地図頼りでした。地図上では、一見ただの池にしか見えない場合もあります。細い道が書かれていないこともありました。だから、ウェブサイトを読んだ方が迷わずダムにたどり着けるように、ダムまでの詳細な道のりを記しました」
――ウェブサイトでは何カ所のダムを掲載していますか。
「約700基です。今まで800基ほど訪れましたが、残り100基は未掲載です。旅行のたび、何カ所も見て回るのでストックがたまってしまいます。仕事の余裕ができ次第、順次アップロードする予定です」
――ダム見学にどれほどの時間をかけますか。
「小さいダムは15分、大きいダムは2時間くらいです。写真に収めてさまざまな角度から眺めます。行ったことのあるダムでも放流するときは見に行くことがあります。放流は高頻度で行うダムもあれば年に1回のところもあり、頻度はさまざまです」
――ダムの楽しみ方を教えて下さい。
奈良俣ダム(群馬県、撮影・提供:宮島咲氏) |
三浦ダム(長野県、撮影・提供:宮島咲氏) |
――思い出に残るダムを。
「三浦ダム(長野県)が思い出に残っています。林道を8キロ以上歩かなければならなかったからです。クマなどが出没する地帯なので怖かった記憶があります」
「四国八十八カ所霊場のお遍路さんのように、次第にダムへの厳しい道のりが修行に変わっていきました。やがてそれが『関東のダム約500カ所巡らなければ』という使命感になりました」
――現在の活動は。
「現在、群馬県のみなかみ町(矢木沢ダム、奈良俣ダム、藤原ダムなど)と老神温泉(薗原ダム)で、商工会や旅館、地元の青年団と協力しながら、地元振興のシステム構築づくりに参画しています。水没移転された方たちがいるからこそ、ダムができ、私たちの暮らしを支えてくれています。だから、地元の方々に恩返しをして、より裕福な生活を送ってもらいたいと思います。地元振興でまず始めにやることは、地元民に『ダム活用で利益を出そう』と思わせることです。そこから、具体的な方策を考えていきます」
湯田ダム(岩手県、撮影・提供:宮島咲氏) |
――観光地化に成功しているダムは。
「宮ケ瀬ダム、黒部ダム(富山県)、湯田ダム(宮城県)などです。宮ヶ瀬ダムは観光放流、湯田ダムはライトアップや放流を行っています。ダムの観光地化は管理者の熱量に左右されます。ダム管理者が地元民の要望に対し柔軟になっていただきたい。ダムは最初に就いた管理者の手段に倣いがちですが、状況に応じて変えていけばいいと思うのです」
薗原ダム(群馬県、撮影・提供:宮島咲氏) |
――行政への要望は。
「まず、政府が既存ダムの洪水調節機能強化(事前放流など)を積極的に推進して下さったことに感謝します。要望としては、ダム観光が地元に還元される仕組みづくりをお願いしたいです。予算を出した後を考えてほしいと思います。私たち民間人は、観光客にお金を落としてもらうことで商売が成り立ちます。インフラツーリズムなど、地方に人を呼ぶ契機となる取り組みを生かして、ダム以外の観光も誘引し、お金を落としてもらえる仕組みが必要不可欠です。とはいえ、かけた予算の分だけ地域が良くなるわけではありません。新設ダムにたくさんの地域振興予算を付けたとします。完成直後はたくさん人が来訪するかもしれませんが、時を経るにつれ人出は減ります。隆盛期とのギャップが大きいと反動も大きく寂れてしまいます。長年にわたって地元に利益を生み出せる持続可能なシステムが必要です」
――宮島さんにとってダムとは。
「自分の生命を支える、なくてはならない存在です」。
◇三州家のダムカレー◇
A式(アーチ式) カレールーの圧力をお米の両側と皿底に分散させ支える構造。 横から見るとアーチ状でG式より堤体の幅が薄い |
宮島さん自身が経営する老舗料亭「割烹三州家」と「レストラン三州家」で初めてダムカレーを提供したのは2007年7月。2007年4月に開かれたダム活性化を図る会議で、ダムカレーによるダムPRを提案した。あるマスメディアが取り上げたところ、ダムカレーを求めて人が訪れるようになった。
「仕方なく始めたのです」と宮島さん。当初、店頭に出す構想はなかったが、足を運んでくれるダム好きたちのために、隠しメニューとして提供を始めた。
G式(重力式) カレールーの圧力をダムの重さで支える構造。 堤体は横から見ると三角形になっている |
宮島さんはダムカレーを、カレーではなくダムそのものだと説明する。「これはダムそのもの。米は堤体、ルーは貯水池です。本物のダムと同様、眺めて、構造の美しさを堪能してください。〝ついでに〟食べることもできます」。
主な提供ダム型式はアースダム、アーチ式、重力式、ライスフィル(ロックフィル)だが、すべての型式の「施工」に対応しているそう。施工者は宮島さんだけなので要予約だ。
R式(ライスフィル) カレールーをせき止めるお米(コア)を芯とし、ルーの 圧力を受け止めるお米(ロック)も配置した |
(みやじま・さき)東京都内の老舗割烹料理店・割烹三州家5代目。日本ダム協会認定元ダムマイスター。28歳で脱サラしダム巡りを開始。2002年、ウェブサイト・ダムマニア開設。現在はダムPR事業を展開し、ダムファンの拡大に尽力している。一番好きなダムは奈良俣ダム。
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