2021年12月13日月曜日

【駆け出しのころ】鹿島専務執行役員建築設計本部長・北典夫氏

  ◇遊び心を持って楽しむ◇

 学生時代は音楽の道も考えていました。レオナルド・ダ・ヴィンチのスケッチをまねして描くなど絵画が好きだったこともあり、親友からの助言もあって建築の道を志しました。建築ではデザインなどビジュアル的なことより考え方に興味があり、専門書を読みあさりました。書籍の多くに関わる鹿島出版会を介して、ゼネコンの当社に関心を持ちました。

 当社が携わった霞が関ビルのことも知らず、ゼネコンの設計がどういうものかもよく分かっていません。入社当時、デミング賞の受賞を目指してTQC(全社的品質管理)の取り組みが活発でした。設計本部の配属でしたが、1年目はTQC関連業務の一環でデータ整理やグラフの作成などを任され、設計とはほど遠い仕事に面食らったのを覚えています。

 2年目ごろから建築の模型づくりが多くなり、ビジュアライズする人たちとのつながりが深まりました。3年目に設計本部の20~30代の若手有志4人が集まり、パリの新オペラ座(オペラ・バスチーユ)の国際設計コンペにチャレンジする機会を得ました。最初は業務時間外で行っていたのですが、会社から仕事として取り組むように言われます。オペラに関するテクニカルな知識はなく、休む間もなく大変でしたが、とにかく楽しい日々。トップには選ばれませんでしたが入賞(優秀賞)を果たし、当時の本部長をはじめ、皆さんに祝ってもらえたのがとてもうれしく、当社のことが本当に好きになりました。

 都心部の小規模なオフィスビルの設計を主担当で任されたのも、駆け出しの頃の思い出深い仕事の一つ。20代の若手ながら、現場担当の方々とより良いものをつくろうと一緒に取り組む中で、いろいろと学ぶことができました。

 顧客の言葉から描くイメージや夢をいかに建築の命題として捉え、組み立てるか。問題点の解決に向けて顧客と対話を繰り返す際、こちらから提案はしますが、相手が自ら考えたという感覚を持ってもらえるよう心掛けてきました。イメージされた領域をさらに超えるものを提案する。当時はそこまで深く考えていなかったですが、顧客とアーキテクトの関係で大切にしてきたところです。

 コンペなどの特別なプロジェクトよりも、日常的に取り組んでいる仕事の延長線上にあるものがオリジナリティーを感じられることもあります。10年目ごろに携わった建築プロジェクトでは、完成後に1階のロビー空間に入った瞬間に涙が出るほどの自分らしさを感じました。

 主体性を持って真正面から仕事と向き合う。自分のことだけでなく、他者がやったものも含めて批評することが新たな気付きにつながります。さまざまな価値を高め、多分野の人と接する機会を広げ、最終的には信頼の最大化を図る。遊び心を持って楽しみながら得たものは、設計者の肥やしになると思います。

入社3年目、新オペラ座の設計コンペを担当した
メンバーらと訪れた香港での一枚(右から2人目が本人)

 (きた・のりお)1981年東京工業大学工学部建築学科卒、鹿島入社。執行役員建築設計本部プリンシパル・アーキテクト、常務執行役員建築設計本部長(現任)などを経て、2021年から現職。神奈川県出身、63歳。

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