2016年8月31日水曜日

【プロジェクト・アイ】ラックフェン国際港アクセス道路・橋梁工事(越・ハイフォン市)


 ◇施工は三井住友建設JV◇

 ベトナム北東部のハイフォン市で、同国最長の海上橋となる「ラックフェン国際港アクセス道路・橋梁工事」の建設が、日本の政府開発援助(ODA)を活用して進められている。

 ベトナム運輸省PMU2から発注された工事の総延長は海上部と陸上部を合わせて15・63キロ。14年5月から三井住友建設・チュオンソン・シエンコ4JVが工事を進めている。

 海上橋という難工事の克服に向け、ジオチューブによる盛り土や支間長60メートルに及ぶスパンバイスパン架設工法を採用するなど、工期厳守へ果敢に取り組む現場を取材した。

 ◇「チームニャッタン」で難工事に挑戦◇

 工事が完成すると、建設中のラックフェン新国際港と、ハノイ~ハイフォンを結ぶ高速道路新5号が陸路でつながり、ハイフォン市の物流拠点としてのアドバンテージは一段と向上する。海上橋の取り付け部となる陸地は河口部の湖沼などが点在する軟弱地盤にあり、建設事務所とセグメントを制作するヤードの確保・整備については「地権者から約10ヘクタールの土地を借り上げて、最初にヤードの埋め立てから実施した」と山地斉三井住友建設執行役員作業所長は着工当時を振り返る。このヤードを確保できたことがその後、工事が順調に進む大きな要因となった。

 工事用道路を兼ねるアクセス道路の施工には、海中の盛り土の護岸工事などに使われるジオチューブを採用した。当初は台船にクレーンを配置して海上からの施工を計画したが、潮の干満に影響されて浚渫にも費用がかかることから、陸上から施工できるジオチューブ工法を採用した。

 水深2メートル程度の浅瀬に長さ50メートル、外周9・5メートルの繊布ジオテキスタイル製のチューブを3~4段積みにし、陸上から水と砂を混ぜた泥水をポンプで圧送。余分な水分は特殊な繊維から染みだして中には砂だけが残り、護岸を形成するという仕組みだ。

 同工法で二つの護岸を建設し、その間に盛り土をして工事用道路を形成した。「敷設したチューブの延長は約2万4000メートルに達し、それを当初予定していた半年で仕上げることができた」(山地所長)。天候に左右されやすい海中での難工事だったが、大きな遅れもなく順調に作業が進んだ。

 基礎工事では、将来の埋め立てが予定されている陸上部にネガティブフリクション対策鋼管杭を採用。航路となる中央径間150メートルの主橋では鋼管矢板井筒基礎、海上部アプローチ橋には場所打ちコンクリート杭といった具合に、設定条件に合わせて異なる3種の工法を採用した。

 山地所長によると、ネガティブフリクションはベトナムでは初めての採用となったが、鋼管矢板井筒基礎はハノイ市で施工したニャッタン橋(日越友好橋)に続いて2例目。この現場には日本人職員約20人に加え、フィリピン人を中心に外国人のエンジニアが20人近く働いており、「ニャッタン橋を経験しているローカルスタッフを含む350人の職員と技能工で組織を作ったので、まさに日越の『チームニャッタン』で施工している」と話す。

 ◇スパンバイスパン架設など技術駆使◇

 PC上部工は工期短縮を最優先するため、プレキャストセグメント工法を採用した。ハイフォン市側から新国際港に向かう約4・5キロの区間は、PC5径間連続箱桁(75径間)で、支間長60メートルの世界最大級のスパンバイスパン架設工法が導入された。

 セグメントの製作は、10ヘクタールを確保したヤードに550メートルの2ラインを配置。6基の型枠により、ショートラインマッチキャスト方式で、それぞれ標準部は2日に1個の割合で製作した。製作済みセグメントを一方の型枠に使うなど接続面の精度を保持。製作されたセグメントは多軸トレーラーでヤードから建設地に運搬された。

 スパンバイスパン工法に使用する架設桁は、最大断面高7・8メートル、全長132・8メートルのトラス桁を2列配置し、桁上部につり上げ能力90トンの移動式ウインチを設置。総重量960トン、最大つり上げ荷重1350トンの能力で、1径間の架設を7日サイクルで実施している。2基の架設桁を駆使し、橋長4・48キロを13カ月で施工している。

 現在の工事進ちょく率は約90%。所期の目的通り工事は順調に進んでいる。

 「ベトナム企業は道路土工事と張り出し施工の橋梁を施工し、私たちは海上部の難易度の高いスパンバイスパン架設工法によるセグメント工事を分担して施工している。一度、ベトナムのスタッフとはニャッタン橋で仕事をしているので、ベトナム人の気質は十分に分かっています」と山地所長。

 「外国人のエンジニアの力を借りながら、このまま予定の工期内に安全に引き渡しできるよう頑張りたい」と最後まで手綱を緩めず、挑戦的なマネジメントを実践していく考えだ。
アクセス橋の完成イメージ

【提携紙ピックアップ】建設経済新聞(韓国)/ソウル市が文化芸術施設拡充

ソウル市は、約1兆ウォンに達する予算を投じ、2020年までに芸術家のための建築物を相次ぎ新築する計画だ。17日に記者説明会を開き、13カ所の公共文化芸術施設造成に関する「ソウル芸術家プラン」を発表した。

 市は、「2020年までに13カ所中10カ所が新築される予定であり、工事費として策定された予算は約1兆0003億1200万ウォンに達する。この中でソウルアリーナが4700億ウォンに達する」と説明した。

 新築以外の3カ所中1カ所はアニメーション・センター。現在リモデリング工事に着手したところで、他の2カ所は開館済みのものと来月開館を控えているものだ。

 新築される10カ所の施設は、博物館、写真美術館、ソウルアリーナ、芸術庁、演劇創作支援施設などで、現在は妥当性調査が終わって投資審査中段階にある。これらの手続きが完了すれば、早ければ来年から設計作業が進められる見通しだ。

 市は、「これら施設のうち芸術庁(地下1階・地上6階)は、来年下半期から2018年上半期までの間に設計に着手する」とし、「ソウルアリーナは2022年までに造成される計画だ」と語った。芸術庁には、情報資料室、可変型作品発表空間、相談センター、コミュニティー空間、セミナー室などが整備される。

CNEWS 8月18日)

【提携紙ピックアップ】セイ・ズン(越)/不動産市場のリスク要因指摘

 2016年上半期の国内不動産市場は、全体として安定を見せたものの、依然として複数のリスク要因が指摘されている。このほど建設省で開かれた会議で、このような内容が報告された。

 グエン・チャン・ナム前建設副大臣は、中・低価格物件が少ないことや物件情報の不足、社会住宅の整備が停滞していることなどを指摘した。

 これに対しファム・ホン・ハー建設相は、六つの基本的な対応策を提示。市場の監督を強化し、取引情報の公開や人材育成、法令順守の徹底、政府機関による品質管理、建設許可手続きの簡素化などを具体的に推進すると表明した。不動産関連企業に対しては、政府の迅速な対応が必要な場合は大臣宛てに直接意見を届けるよう要請した。

セイ・ズン 8月27日)

【けんせつ小町が全国で活躍】日建連けんせつ小町活躍現場見学会が日程終了


 ◇15カ所で女子小中学生240人参加◇

 日本建設業連合会(日建連)が7月21日から会員企業の土木・建築工事の現場15カ所で行ってきた女子小中学生を対象にした「16年度けんせつ小町活躍現場見学会」が、30日に名古屋市内にある竹中工務店の現場で開かれた見学会で全日程を終えた。

 子ども240人、保護者など174人が参加。「けんせつ小町」の愛称で呼んでいる女性の技術者、作業員らが参加者を案内し、インフラや建築物の役割、建設会社の仕事を説明するとともに、工事現場で活躍する女性の仕事とやりがいをアピールした。

続きはHP

【語り継ぐ土木の心】立命館大学教授(工学博士)・建山和由氏

 ◇本来ある独創性取り戻せ◇

 --土木に対するイメージをどう捉えている。

 「一般の人は、建築に比べるとあまり良いイメージを持っていないのではないか。高校生の進路志望を見ても、土木と建築を比べたら建築志望が圧倒的に多い。その大きな原因の一つに、『創造性』に関するイメージの違いがあると思う」

 「人と環境が調和できる場を作るのが土木の役割。自然を相手に、どのような環境、条件下でも、その環境や条件に適したものを自分なりに見つけて構造物を造っていくことを考えれば、土木も建築に劣らずもともと極めて独創的な仕事だといえる。現場に正面から向き合い、最高の仕事をするために創造性を最大限発揮するのが土木の本来の姿だとすれば、今はその独創性が見えにくくなってしまっているということだろう」

 --原因はどこにあるのか。

 「土木はかつて、自然を相手にさまざまな工夫を凝らして構造物を造ってきた。しかし時代が進むにつれ、インフラを効率よく造るニーズが次第に高まってきた。これに対応して設計方法が体系化され、基準やマニュアルを基調とする一律管理の方法が確立された。一律管理が進むと、発注者側の担当者も現場に出ることなく、事務所で数値を確認して管理するようになる。一律管理の下で現場の工夫の余地は狭まり、創造的な側面が薄れた。それが現在の土木のイメージにつながっているのではないか」

 --独創性を生み出す条件は。

 「高度成長期は夢があった。大規模なプロジェクトに予算が付き、新しいことに挑戦する活気もあった。多くの建設会社が新しい技術の開発に乗りだし、他社とは違うことをやろうとした。いわば独創性を競い合うような雰囲気があった。その後バブルがはじけ、景気が悪くなると、予算も投資も減り、市場が縮小してチャレンジを生む活気も失われた。土木が独創的でなくなったのは、市場の縮小も一因だといえるだろう」

 --大規模な土木のプロジェクトはかつてに比べると随分減っている。

 「建設会社は売上高の0・4%程度しか研究開発に投資していないのに、製薬会社は1~3割、電機や自動車メーカーも約4%を研究開発に充てている。そんな企業の開発担当者から以前、『土木の方がすごい。世界一長いトンネルや橋梁を造る技術を生み出す土木という業界をわれわれは畏敬の念を持って見ている』と言われ、驚いたことがある」

 「特定のテーマを決めて研究予算を投じるのではなく、実際のプロジェクトの課題や問題を解決するための工夫を、そのプロジェクトの中で行い、技術開発を積み重ねる。それが土木流のやり方だ。現場での創意工夫が土木技術を支えているともいえる。中小規模の工事でも、独創的な技術開発を誘発するような仕組みや雰囲気があってほしい。技術は使い続けるだけでは陳腐化してしまう」

 --次代の土木を担う若者に何を期待する。

 「土木は『総合工学』だ。例えば、建設機械がないと工事はできない。ICT(情報通信技術)や環境、生態系などの知見もどんどん取り込みながら、土木は進化していくべきだ。固定的な考えを持つのではなく、広い視野で他分野の知識や情報を土木の中に生かしていくようなことを考えてほしい」

 「土木自体を変えるような話もしてもらいたい。不思議と、景気が悪くなるとそういったことを考えなくなってしまう。新しい発想が生まれなくなるが、本来は逆だ。閉そく感を打破するような新しいアイデアを若者には期待している」。

(たてやま・かずよし)

【結】東洋エンジニアリングプラントプロジェクト統轄本部・孫茜さん

 ◇目標は巨大プラントのプロジェクトマネジャー◇

 中国から日本の大学に入学。大学院まで進学し、就職活動の時期を迎えた。いくつかの企業説明会に参加する中、企業案内のパンフレットに載っていた巨大プラントの写真を見て感動。「こんな大きな仕事がしたい」と入社を決めた。

 入社後、希望通りプラント建設のプロジェクトに携わる部署に配属。中国での巨大化学プラント施工に携わった。見積もり作成から設計、施工、引き渡しに至るまで、コスト・スケジュール・品質・安全・環境面の総合的な管理を担うプロジェクトマネジャーを支えるのが仕事だ。

 「中国でのプラント建設は、庁に提出が必要な申請書類が30種類を超えた。申請が円滑に進まないとすべての工程に遅れが生じる。分からないことも多く、プレッシャーは大きいが、お客さんに喜んでもらいたくて、一心に仕事に打ち込んだ」。その分、プラントが完成した時には感動もひとしおだったと笑顔で話す。

 今年で入社9年目。「プラント建設に携わる女性はあまり多くないが、責任のある仕事を任されることに大きなやりがいを感じる」。今後は設計などを勉強することで、専門的な技術提案などもできるようにし、顧客との信頼関係も今以上に構築できるようになりたいという。

 将来は巨大プラントのプロジェクトマネジャーになることが目標だ。「さまざまな国籍の人、文化が入り交じるプラント建設の現場を取りまとめていきたい」。

 (中国出身、そん・せい)

【建設業の心温まる物語】小池組(和歌山県)・種治勇基さん

 ◇感謝状は私の大切な宝物◇

 入社して3年目、事務所ビル新築工事の現場での出来事です。その現場は、既にある工場内の敷地に建築する工事で、いつもお客様から見られている現場でした。そのため「工場従業員の安全にはくれぐれも注意するように」と言われていました。私は、どうすればお客様に迷惑をかけずに工事を進めることができるのだろうと考えました。しかし、いくら考えてもまだ経験の浅い私にはよい案は浮かびません。考えた結果、自分のできることは元気に挨拶することしかない、と思いいたりました。

 毎朝出勤してくる工場の従業員の方に「おはようございます」、帰宅時には「お疲れ様でした」と精一杯の笑顔で挨拶をしました。さらに他にできることはないかを考え、敷地内を毎朝掃除しました。最初は怪訝な表情だった工場従業員の方々も、しばらくたつと、「おはよう」と返してくれるようになりました。

 そしていよいよ竣工を迎え、引渡しの日がやってきました。式の最後にお客様が「感謝状」を読み上げられました。「無事故で、素晴らしい新社屋を完成していただき感謝しています。また、種治君の毎朝の挨拶で元気をもらい、清々しい気持ちで毎朝出勤することができました」という内容でした。思わず涙がでそうになりました。お客様が挨拶や掃除する姿を見ていてくれたんだ、と思うと胸がいっぱいになりました。

 その感謝状は今でも私の大切な宝物です。感謝状を見直すたび、初心に返り、気を引き締めて工事を施工することができます。

【建設業の心温まる物語】東西建築サービス(大阪府)・大谷光平さん

 ◇何度も足を運んでよかった◇

 入社して4年目の頃、はじめて居宅の改修工事を行った時のことです。場所は閑静な住宅街で、居宅の3方向は全て近隣住宅に囲われていました。お施主様のAさんは気さくな方で、近隣挨拶も一緒に回って下さり、工事担当者としては大変助かりました。

 工事に着手して間もなく、近隣住民Bさんより「工事の音がうるさい」とクレームの一報が入りました。原因は騒音でした。内部の小規模改修だからといって、防音対策を講じなかった私の責任でした。私はすぐさまBさんに謝りに行き、今後の対応を説明しましたが、まったく聞き入れていただけません。このことをAさんに報告し、Aさんと一緒に再度、Bさん宅へ謝りに行きました。しかし、結果は同じで話さえまともに聞いていただけません。

 Aさんは気にせず工事を行ってくださいと私に言って下さいました。しかし、私は工事が終ってからも、AさんはBさんとつきあいが続くので、揉めたままで工事を行うわけにはいかないと思い工事を中止しました。翌日もBさん宅へ謝罪と今後の説明にお伺いしました。それでも「工事再開は許さない」とのこと。その後、何度も何度も足を運び説明を繰り返しました。

 そんなある日「あなたの熱意が伝わりました。これからは騒音のないようにお願いしますよ」とBさん。ようやく工事再開の目途がたちました。後日談ですが、Bさんは同じ建設業経験者でよく騒音でのクレームを受けたそうです。クレーム対応方法など教えて下さいました。また、工事終盤にはお茶菓子などもいただきました。

 あきらめずに何度も足を運ぶ大切さを学んだ工事でした。

【建設業の心温まる物語】近藤建設(富山県)・奥野篤史さん


 ◇胸が熱くなった園児たちの絵◇

 私が保育園の耐震改修工事の現場管理をしたときの話です。工事の期間中は建物が使えないので、園児は園庭に設けられた仮設の園舎で生活をしていました。当然のことながら園庭も使えません。工事着工の日に現場へ行くと、取り壊し前の園舎の壁にはこれまでの保育園での思い出を描いた園児の絵や、園舎に対する感謝の言葉が書いてあり、「この建物を解体するのは心が痛むなあ」と感じました。

 工事中には、園長から「仮設園舎は狭くて、暑い」「気軽に園庭で遊ぶことができなくてストレスを感じている子が多くなってきた」など、仮設園舎での生活の苦労話を聞きました。また騒音がうるさく感じたのか仮設園舎の窓から両手で耳をふさいで現場の様子を見ている園児の姿もありました。相手は幼い子供たちです。工事の内容を理解できないのも無理がありません。「工事だから仕方がない」と思いつつも、子供たちには申し訳ない気持ちでいっぱいでした。工事は順調に進み、無事建物を12月に引き渡すことができました。子供たちは1月から新園舎での生活がスタートしました。

 完成から3カ月たった3月に建物の定期点検で保育園を訪れました。廊下に園児が描いた絵が掲示してありました。それは、卒園する園児が保育園での思い出を描いたものです。なにげなくその絵を見ていると、工事の様子を描いた絵を見つけました。そこには私たち工事関係者が働く姿が生き生きと描いてありました。私は「このように見ていてくれたのか」と胸が熱くなりました。

 「建設」という仕事に少しでも興味をもってくれた子がいたことと、子供たちの「将来の夢」になれたような気がして嬉しく思いました。

【サークル】LIXILサッカー部・FC LIXIL

 ◇モットーはEnjoy!、若手メンバー急募!!◇

 1990年ごろに有志が集まり発足した会社公認のサッカー部「FCLIXIL」。現在の所属人数は約20人。東京都内にあるオフィスや製品開発拠点などに勤務する従業員で構成されており、所属部署も多岐にわたる。以前に同社で派遣や請負の勤務体系で働いていた人も参加している。

 部が掲げているモットーは「Enjoy」。部員の平均年齢が高くなってきているため、けがに注意して、楽しく練習することを心掛けているという。

 主な活動は、毎年開かれる東京の江東区サッカー連盟主催のリーグ戦に参加すること。もちろん優勝を目指して練習に励むが、ネックとなっているのが、11人以上集まっての練習がなかなかできないこと。代表の塩谷俊平さん(情報システム本部コーポレートシステム部)は「平均年齢が高くなるにつれ、家庭の事情などで参加できない人が多くなり、11人集めるのに毎回苦労している」と話す。人数が集まらない場合は、フットサルや7人制サッカーのルールで練習してしのいでいるという。

 現在、社内で部員募集を行っている。「若手を中心に新たなメンバーがたくさん入部することを期待している」(塩谷さん)と若手社員の参加を心待ちにしている。

【駆け出しのころ】清水建設専務執行役員営業担当・山地徹氏

 ◇異動で得た貴重な経験生きる◇

 入社から6年間、原子力発電施設の構造設計業務に従事した後、自ら志望して建築現場の担当になりました。もともと清水建設に入社したのは、建築現場で働きたいと考えたからです。ようやく希望がかなったのですが、それまで現場経験はなく、何とか挽回するために努力しなければと思っていました。

 最初の現場は東京都内の工場建築です。上司からは、仕事に対して妥協せず、真摯(しんし)に取り組むことの大切さを教えてもらいました。職人さんとは腹を割って話すよう心掛け、私のために自分が勉強した本を持ってきてくれた人もいました。大変勉強になった現場でしたが、所属していたラグビー部の練習や試合になかなか参加できなくなっていたのが気掛かりでした。

 初めての現場勤務に続き、大きな転機となったのは、購買部への異動でした。現場を担当して6年後のことです。会社が事務系しかいなかった購買部に現業系の社員を配属させるに当たり、候補者の一人として声が掛かりました。私は竣工を3カ月後に控えていた現場の次席であったため、「絶対に行けません」と訴えました。すると、それが逆に自分の意見をしっかり主張できると評価され、現場からの異動が決まったのです。

 そうして購買部に約1年いた後、建築本部の企画部、さらにその後に統合生産推進部に配属されました。ここでは現在の建築生産システム改革につながる統合生産システムの推進業務に携わります。社内の人脈形成もでき、大変に貴重な経験となりました。

 そんな内勤生活も4年がたち、再び建築現場を担当することになります。やはりものづくりは面白く、早く現場に戻してほしいと言い続けていました。建築生産のあり方を考え直し、ITの活用などを検討した経験は、その後の現場運営に生きました。

 かつて上司から何度も言われたのが「鳥の目で見ろ」です。上から俯瞰(ふかん)して見ることで気付くことがある、という教えです。営業所長や支店長などを務めた時も、この言葉を教訓としてきました。

 九州支店や東京支店などで若手と話すと、「現場責任者をやらせてほしい」という人がほとんどで、とても前向きな姿勢を感じたものです。若手はよく頑張っています。自信を持って前向きに、そして一つ上の立場になって物事を考えて仕事に取り組んでいってほしいと思います。

 4月から営業担当になりました。まだ勉強中ですが、皆がもっと楽しく明るくモチベーションを持ってやっていくにはどうしたらよいか。こうしたことも考えていきたいと思っています。

 (やまじ・とおる)1981年早大大学院理工学研究科建設工学専攻修士課程修了、清水建設入社。東京支店工事長、建築事業本部生産企画部長、執行役員建築事業本部東京支店副支店長、常務執行役員九州支店長などを経て、16年から現職。東京都出身、60歳。
現場に出て3年目、着工間もない現場事務所で

2016年8月30日火曜日

【回転窓】短くなった夏休み

 8月も最終週を迎えた。かつて子どもの夏休みといえば、冬休みの長い北国の学校を除いて8月31日までと決まっていたが、最近は必ずしもそうではないらしい▼東京都教育委員会のウェブサイトによると、3学期制の公立学校で2学期の始業式を8月31日以前に行うのは、小学校が1016校のうち329校、中学校が491校のうち210校。小学校の3割強、中学校の半分近くでもう2学期が始まっていることになる▼夏休み短縮の背景には「脱ゆとり教育」による授業時間の増加があるという。各校とも夏休み短縮に加えて土曜授業を行うなど授業時間の確保に四苦八苦していると聞く。8月31日まで寸暇を惜しんで野山に遊んだ元少年の目から見ると、休みの減った子どもたちが気の毒というほかない▼ゆとり教育の是非はおくとしても、子どもたちの尻をたたいて授業に追い立てるのはどうだろう。夏休みをたっぷり遊びほうけて学ぶことも多い、と言ったら批判されようか▼日本の学校は、先生も世界一忙しいといわれる。残業を減らし生活にゆとりをというのが世の流れ。学校だけが無縁でよいのか。 

2016年8月29日月曜日

【回転窓】ダムファンの増加に期待

 国土交通省が、平日に限っていたダムの施設見学と民間主催ツアーの受け入れを9月から休日も行うという。インフラを観光資源として生かすインフラツーリズムの人気が高まる中、治水と利水に欠かせないダムの役割をさらに知ってもらう狙いだ▼現地の職員の協力を得て、堤体内部を常時見学できるダムを増やしたり、未公開エリアに案内したりもする。「土日が休みの人にも見てもらいたい。水源地の活性化にもつなげたい」と同省の担当者。意欲的な取り組みに期待したい▼この8月も各地で豪雨が相次ぐ。台風9号では北上川上流のダム群が2000万立方メートル以上の水をため、宮城県内の被害を防いだ。一方で昨年9月の関東・東北豪雨で茨城県内の堤防が決壊した鬼怒川の上流は雨が少ない。ダム群の貯水量は平年を下回り、取水制限を解除できない▼気象庁によると、列島周辺の気圧配置は台風が接近しやすい状態。必要な場所に必要なだけ雨が降ってくれればよいが、自然はそんなに都合よくはいかない▼洪水と渇水を防ぎ観光客も魅了する。暮らしに欠かせないダムのファンがもっと増えてほしい。

2016年8月26日金曜日

【回転窓】ビレッジプラザに注目

「雲太、和二、京三」-。平安時代の子ども向け教育書「口遊」に記述があり、当時の三大建築物を指したものとされる。筆頭の雲太は出雲太郎の略で出雲大社本殿、2番目は大和二郎で東大寺大仏殿、3番目は京三郎で平安京大極殿という▼今の出雲大社本殿は江戸中期の造営で高さ24メートル。平安時代は高さ48メートルとされ、大仏殿の45メートルをしのいだらしい。48メートルは15階建てのビルに匹敵する。古来伝わる優れた木造建築技術が日本文化の一端を担ったことは間違いない▼リオデジャネイロ五輪に続く2020年東京五輪の競技施設には、伝統文化アピールのため木材が多用される。ところが、「環境に優しい五輪」を打ち出した4年前のロンドン五輪の競技施設にも、実は木材がかなり使われた▼ロンドンを超えて東京が何を発信できるか。注目は、東京・晴海の選手村に整備される休憩施設「ビレッジプラザ」。すべての部材を国産木材で賄い、大会後に再活用する施設は地域創生、循環型社会の実現を目指したものだ▼ビレッジプラザの基本設計者は現在公募中。世界を驚かせるアイデアが集まることを期待したい。

【治水施設が効果発揮】関東整備局、台風9号被害で応急復旧に全力

外郭放水路に流れ込む雨水=23日午前11時30分ころ
(提供:関東整備局)
関東地方整備局は、22日に関東地方に上陸した台風9号に伴う降雨への対応状況(24日午後6時30分時点)をまとめた。東京都で3回、埼玉県で2回の記録的短時間大雨情報が発表されるなど各地で大雨となり、直轄国道では、のり面の崩壊や橋台護岸の流失が確認され、応急復旧作業を行った。関東整備局管内では、崖崩れによる西武多摩湖線の脱線や、床上浸水被害なども発生した。一方で、ダムや放水路、多目的遊水池などの治水施設が被害の拡大を食い止めていたことも分かった。

 直轄国道では国道1号箱根新道の下り部分で22日午後2時30分ごろにのり面が崩壊。同日午後8時すぎにブルーシート養生による応急処理が完了し、翌23日午前9時30分からは大型土のう積みによる応急復旧を進めている。国道16号では、埼玉県入間市にある高倉橋の橋台護岸が流失。23日午前8時10分ごろに被害が確認され、同日午後6時に応急復旧工事を開始。午後11時30分に応急処理を完了させた。25日も復旧作業を進めている。

 治水施設の稼働状況を見ると、鶴見川多目的遊水池では約42万立方メートルの洪水を貯留した。遊水池が無かった場合は、鶴見川で氾濫危険水位を上回り、横浜市と川崎市で避難勧告が発令される恐れがあったという。

 利根川水系でも、首都圏外殻放水路で218万1000立方メートルを排水するなどの対応を実施した。那珂川・綾瀬川流域では、降雨の約16%を排水機場のポンプで強制的に流域外に排出したという。約1・3万戸が浸水した1979年10月の台風20号と比較すると、降水量は約1・1倍と多かったが、今回は浸水戸数が63戸にとどまった。

 相模原水系の宮ケ瀬ダムでは、東京ドーム13・4個分となる約1662万立方メートルの洪水をため込んだ。仮に同ダムが無かった場合には、氾濫危険水位を上回り、洪水被害が起きる恐れもあったとしている。

【掘るも掘ったり月進270m】鹿島、大断面NATMトンネルで月間掘進の国内最高記録

 鹿島がNATMによる掘削断面110平方メートル以上の大断面山岳トンネル工事で、月間掘進距離が過去最長となる270メートルを達成した。

 2台のドリルジャンボを使った削孔や独自のコンクリート吹き付け手法など合理化技術を複数投入。材料・設備も工夫し、作業時間の短縮と同時に安全性も向上させたことで、6月14日~7月14日(31日間)に最長掘削距離を記録した。

 従来の記録は前田建設が「国道45号新鍬台トンネル工事」で1~2月に樹立した月進232・5メートルだった。

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2016年8月25日木曜日

【きっかけは厚労省緊急育成支援事業】内装工事会社に就職した押切雅仁さんの一日

 未就業者に建設現場で働くのに必要な技能の習得や資格取得の機会を提供し、建設業への就職に結び付ける厚生労働省の「建設労働者緊急育成支援事業」。15年度に建設業振興基金が受託して始まったこの事業に参加した多くの若者が業界で働き始めている。そうした若者の一人を東京都内のマンション工事現場で取材した。

 ◇研修通じ仕事の「イロハ」学ぶ◇

 内装施工の東京志村(千葉県習志野市、伊東弘樹代表取締役)に所属する押切雅仁さん(22)。ボード、軽鉄、床、クロス…。内装施工の基本を学ぶことができる仕上げ系技能者(内装)の研修を3月、2週間にわたって千葉・幕張で受けた。懇切丁寧に教えてくれる講師の手ほどきを受けながら、短い期間の中で内装工事の「イロハ」を学ぶことができ、「施工の基本的な流れをつかめたことは、実際の現場作業にも生かせる貴重な経験になった」と話す。

 建設工事の現場は、夏は暑く、冬は寒い。きつい、汚い、危険という「3K」の代名詞のようにもいわれる。柄が悪いというイメージを持っている人も少なくないが、押切さんは以前から「仮囲いの中で何が行われているのだろう」と興味を抱いていたという。「自分が住んでいる家を含め、建設の仕事がなければ、誰もが生活を営むことができない」。そう考える押切さんにとって建設業は、「カッコイイ」と思える憧れの職業だった。

 研修では、各職種に見合った技能を学ぶことができ、玉掛け、フォークリフト、研削砥石など現場作業に必要な資格も取得できる。すべて無料だ。建設会社への就職支援もセットで行われる。

 内装工事に関する知識はゼロだった押切さんも最初は不安だった。それでも「基本を一つ一つ教わることができた。資料や実際に現場で用いる資機材も用意され、とても分かりやすかった」。そうした中で実際に現場で働く心構えを醸成することもできたと振り返る。

 この春に就職した東京志村は、ゼネコンの下請として、年間を通じて数多くの現場で内装施工を手掛けている。押切さんも既に、ホテル、スーパーマーケット、病院、マンションと短い期間ながら多くの現場で経験を積み重ねてきた。

 外注先を含めて十数人で現場に出向き、内装施工に当たる。同社が中国から受け入れている技能実習生や建設就労者も一緒だ。そんな環境の中で、先輩社員たちは、時に厳しくも丁寧に仕事を教えてくれる。「自分のミスも的確に指摘していただけるので、次に生かすことができる」と押切さんも前向きに対応する。休憩時間に入る前、自分が施工した箇所を振り返って見ることは、仕事に対する充実感や達成感が得られる瞬間でもある。

 ◇現場に従事する心構えも◇

 上司や先輩から常に言われるのは「いつも現場をきれいにしておくこと」。ごみをためることは、それだけ作業効率の低下につながり、安全な作業にも支障を来す。今後さらに経験を積み、「先輩たちのようにボードをうまく張れるよう、自分の能力をもっと高めていきたい」。いずれは職長と呼ばれる存在になり、「大きな現場での施工を任されるようになりたい」と夢を抱く。

 同社の伊東代表取締役も押切さんが将来、会社を背負うような存在となることを期待しているが、悩みの種が、このところの建設業の離職率の高さだ。「ここ数年、若者が入職してきても、みんな数カ月で辞めていってしまった」と嘆く。

伊東代表取締役㊨と押切さん
研修を経て入ってきた押切さんにはもう1人、同期入社の社員がいる。2人が切磋琢磨(せっさたくま)しながら成長していってほしい-。そんな思いから伊東さんは「現場で学んだことをノートにまとめておくように」と指示している。自分のやり方でよい。仕事をきっちりと覚え、これから入ってくる後輩たちにも仕事を教えられるようになってもらいたいとの願いもある。

 建設業の仕事の魅力は、何といっても自分が手掛けた仕事が形として残ることだ。「そんな仕事に憧れ、目的意識を持った若者にぜひ入ってきてもらいたい」と話す伊東さんも、やる気のある若者が就職前に研修を受けることができる建設労働者緊急育成支援事業の意義を高く評価する。

 技術や技能を習得するということ以上に、「心構えができることは大きな成果だ」として、引き続き、同事業で研修に参加した若者が入職してくることに大きな期待を寄せている。

【回転窓】科学技術館で楽しく体験

東京・北の丸公園で、たくさんの星をちりばめた外壁が目を引く科学技術館。今週初めに訪れると、夏休みも終盤とあって多くの子どもたちでにぎわっていた▼館内4階には「建設館」がある。ここでシールドマシンやタワークレーンの操作が行えるコーナーなどは、順番を待つ子どもたちでちょっとした列ができていたほどの人気ぶりだ▼日本建設業団体連合会(現日本建設業連合会)がそれまでの建設技術のPRスペースを、建設館としてリニューアルオープンさせたのは2003年夏。参加体験型の展示やワークショップ、実験などを組み合わせ、楽しみながら建設の科学と技術にアプローチできるようになっている▼恐ろしい地盤の液状化はどのように起こり、どう防ぐのか。そうしたコーナーに足を止める子どもたちも多い。訪れた日は表情の異なるコンクリートを一つずつ丁寧に手で触れていた小学生の姿も。建設の魅力にもきっと触れてくれたことだろう▼今夏話題の映画「シン・ゴジラ」の撮影場所にもなった科学技術館。都会の真ん中に大人の好奇心も十分に満たしてくれる施設があるのはうれしい。

【輝く!けんせつ小町】興栄コンサルタント・前川利枝さん

◇人のつながりを大切に◇

 大学進学時に土木建設工学科を選んだのには三つの理由があった。一つ目は実力で合格できそうな学科であること、二つ目は人付き合いが苦手で研究職に就きたいと思ったこと、三つ目は大きなものを作ってみたいと思ったこと。「前向きと後ろ向きの理由がありますが、結果的に今の自分には土木という選択肢しかないと思っています」。

 卒業後、富山県庁に入庁。道路の改良・維持を担当した。4年後、結婚を機に県庁を退職。夫の実家のある岐阜県内に転居した。「地元の測量設計事務所に勤めたのですが、1年半で辞めました。2人の子どもを出産したこともあり、数年間はパート勤めでした」。

 子育てをしながら感じていたのが“未消化感”。「どの仕事も中途半端で終わってしまい、このままではどの時点を振り返っても後悔する。自分はやはり技術屋になりたい」。

 漠然と目指していた技術士の資格取得へ向け、本腰を入れて勉強を始めたのは、こうした思いが強くなったからだ。「下の子はまだ夜泣きがあり、勉強しては子どもをあやし、机に向かう生活でした。家族の協力もあり無事に技術士の資格が取れました」。

 下の子どもが保育園に入園するのと同時に現在の会社に入社。子どもの迎えがあったため、事務職で時短勤務での採用だった。「仕事に就けただけでうれしかった。1年後に技術職に異動し、家族とも相談して通常勤務になりました。時短勤務では業務の主担当者になれないためです」。

 現在、道路グループに所属し道路維持・改良に関する調査設計業務などに従事する。最近では治山事業も担当し、崩壊した山腹現場に入って対策工のための調査設計も行う。「治山関係の仕事はあまり経験がないため、いろいろな人に各種の知識を教えてもらっています。どんな仕事も同じですが人とのつながりが大切です。人とのつながりで今の仕事が続けられています」。人付き合いが苦手だった学生時代とは変わった。

 子どもたちは中学生1年生と小学5年生に成長した。「将来の夢は技術者としての充実が、仕事にも生活にもよい刺激になること。だから今は目の前の仕事を一生懸命やるだけです」。

 (東濃営業所技術第一部、まえかわ・りえ)

【力いっぱい押してみました。その結果は…】日建連、都内でけんせつ小町現場見学会開く

 日本建設業連合会(日建連、中村満義会長)は24日、けんせつ小町活躍現場見学会を東京都練馬区の「(仮称)東映アニメーション新大泉スタジオ計画」で行った。

 小学生の女子を中心に夏休みの親子連れ28人が参加。建物を大地震から守るために地下部分に設置する免震ゴムに触れたり、現場に配置された足場に上ったりしながら、建設の仕事の大切さを肌で感じた。

 現場は築60年が経過した老朽施設を取り壊した跡に、S造(CFT)造地下1階地上4階建ての免震構造の建物を建設する。

 設計・施工を清水建設が手掛け、17年夏ごろの完成予定。清水建設で工事管理を務める蒔苗沢子さんのほか、新菱冷熱工業の女性職員2人も現場に従事し、女性の墨出し職人も働いている。

 見学会では、床部分のコンクリート打設や地下部分の免震装置の見学、足場体験、用意された装置を使った強風体験などを通じて、建設現場の仕事を学んだ。ブリヂストンが持ち込んだ免震体験車に乗り込み、東日本大震災や阪神大震災の揺れが免震装置によってどのように軽減されるかも体験した。

 参加者からは、女性技術者に対して、「業界に入ったきっかけは」「この仕事をしてうれしかったことは」といった質問が寄せられ、「職人さんと一緒に取り組み、建物が出来上がったときには感動する」などと回答した。

 日建連の竹島克朗常務執行役は「見学会を将来やりたいことを考える上でのきっかけにしてほしい」と呼び掛けた。

【自治体職員が現地視察】比ブトゥアン市、PPP推進で日本の自治体と交流

 日本とフィリピンの自治体がPPP(官民連携)の取り組みで交流を深めている。富山市と群馬県板倉町の職員らは、11~13日にフィリピン・ミンダナオ島北東部の中心都市・ブトゥアン市を訪問。同市で進む民間主導型PPPによる地域開発プロジェクトの現場を視察したほか、ロニー・ラグナダ市長らと意見を交わした。

 6月に就任したラグナダ市長は、ブトゥアン市の地場ゼネコンでCOO(最高執行責任者)を務め、長大など日系企業と地域開発事業を展開してきた。日本の先進的施策を取り込むことで同市を中心とするカラガ地域全体の低炭素型地域開発を効率的に進めるため、東洋大学PPP研究センターのアジアPPP研究所を通じ、日本の自治体と連携関係の構築に取り組んでいる。

 今回の訪問では、連携先候補の富山市、板倉町に加え、銀行、民間企業、、国際協力機構(JICA)、日本貿易振興機構(JETRO)マニラ事務所の職員が参加。サム田渕東洋大アジアPPP研究所所長、難波悠国連CoE地方政府PPPセンター代表も招かれた。

初日は、民間主導型PPPによる地域開発として、11年から進められている「アシガ川小水力発電事業」「ブトゥアン市水道供給コンセッション事業」などの現場を視察した。

 2日目は、拡張計画が行われているナシピット港とマサオ港などを視察したほか、フィリピンの政府関係者に日本の先進的な取り組みとして、富山市が進めるLRT(次世代型路面電車)網と整合したコンパクトシティーによる低炭素型まちづくりなどを紹介した。

 最終日には、富山市の担当者が同市に拠点を置く民間企業と連携した都市ごみを燃料にした廃棄物による発電を説明し、低炭素型都市づくりに向けた施策の共有を提案。板倉町の担当者は、農業研修の人材交流などを提案した。ブトゥアン市の長期的な展望、開発コンセプト、予算・組織の裏付けなどの必要性についても議論された。

 ブトゥアン市は、先進的な自治体施策や組織体制・制度・システムなどを市政運営に生かすと同時に、日本企業の進出を呼び込む方針という。

【ホームドアの設置前倒しへ】国交省、駅の安全性向上へ検討会立ち上げ

ホームドアの設置をどう進めるのか、検討が本格化する
(写真はイメージ、本文とは関係ありません)
 東京メトロ銀座線の青山一丁目駅で15日に発生した視覚障害者の転落・死亡事故を受け、国土交通省は鉄道駅ホームの安全性向上対策の検討に着手する。

 鉄道事業者などで構成する検討会を立ち上げ、ハード・ソフト両面から総合的対策を検討。ハード面では昨年2月に閣議決定された交通政策基本計画(14~20年度)で掲げたホームドア設置目標の前倒しや、新しいホームドア技術の普及促進などがテーマとなる。26日に初会合を開き、年内にも中間取りまとめを行う。

 24日の閣議後の記者会見で石井啓一国交相は、「(検討会では)ホームドアの整備前倒しを検討する」と表明。新型ホームドアの情報共有や駅係員によるアテンド、盲導犬を同伴する視覚障害者への接遇など、ハードとソフト両面からの対策強化を検討する考えを示した。

 国交省が6月にまとめた交通政策基本計画の初の追跡調査結果を見ると、駅のホームドアは20年度に東京都内などにある約800駅に設置する目標を立てているが、15年9月末時点で設置されたのは621駅。13年度から38駅しか増えておらず、国交省は、現状の設置ペースが続けば目標値を下回ると懸念している。

 政府が先にまとめた経済対策では、生活密着型インフラの整備として、鉄道立体交差やホームドア設置の推進、高齢者や障害者が住みやすくなる街のバリアフリー化などが列挙されている。

【「鉄の腕」で櫓を支持】大林組、熊本城緊急対策工事に総力挙げる

 城の再建を復興のシンボルに-。

 大林組が4月の熊本地震で被災した熊本城(熊本市中区)の再建に向けた緊急対策工事に取り組んでいる。

 崩壊を免れた角部分の石垣だけで辛うじて支えられている飯田丸五階櫓(やぐら)の倒壊を防ぐ工事では、櫓を上から覆うように仮設の架台を組み、櫓の下に荷重を受ける梁が付いた「鉄の腕」を入れて抱え込む方法を提案し、6~7月末の約2カ月という短期間で設置を完了した。

 熊本城は戦国大名・加藤清正が築城。大林組は、1877(明治10)年の西南戦争で失われた天守閣や本丸御殿の再建・復元工事を施工した。4月の熊本地震では石垣や塀、瓦が崩落したほか、建屋にひびが入った。

 同社は、熊本市発注の「熊本地震に伴う熊本城飯田丸五階櫓倒壊防止緊急対策工事」(工期16年6月~17年3月)と「熊本地震に伴う熊本城南大手門倒壊防止緊急対策工事熊本城南大手門倒壊防止緊急対策工事」(同16年6~8月)の施工を担当している。

 五階櫓倒壊防止緊急対策工事で一番の難題となったのは、架台施工段階での事故による櫓の倒壊をいかに防ぐかという点だ。櫓から離れた敷地で長さ33メートル、高さ14メートル、幅6メートル、重量220トンの架台を最大限まで組み立てた後、地面に敷いたレールで南側へ約20メートル、そこから西側の櫓まで約20メートルスライドさせる施工計画を採用した。

 櫓の下部の状況が確認できず、「鉄の腕」を指し込む空間の寸法も実測できない条件。地盤を崩壊させず、石垣や櫓にも影響を与えず安全に設置するため、「鉄の腕」の先端部となる荷重受け梁の鉄骨を、いったんボルト接合せずに、架台本体と重なり合うように電動ホイスト(巻き上げ装置)でつり上げ、架台のスライドに合わせて上下左右に動かしながら二つの石垣を越える手順を考案したという。

 現場を率いる土山元治熊本城工事事務所長は熊本県の出身。「被災した熊本城の姿を目にし、私を含め地元の皆さんにとって、熊本城がいかに大切な存在だったかということをあらためて認識した。今回の仕事を成功させることが、熊本の皆さんを元気付ける結果につながると信じて取り組む」と話している。

 工事の詳細は同社ホームページの「プロジェクト最前線」でリポートしている。

2016年8月24日水曜日

【プロジェクト・アイ】震災復興事業工事施工等一体的業務(岩手県陸前高田市)


 ◇施工は清水建設JV◇

 岩手県陸前高田市の高田町と気仙町で進む「陸前高田市震災復興事業の工事施工等に関する一体的業務」。東日本大震災の大津波で甚大な被害を受けた土地をかさ上げし、大規模な高台を造成する工事が行われている。

 計画面積約300ヘクタール、約1100万立方メートルという膨大な量の土砂を扱うため、施工を担当する清水建設は複数のICT(情報通信技術)を組み合わせて工期短縮を図る技術を提案。効率的な施工管理を行いながら、急ピッチで工事を進めている。

 ◇作業効率化へUVAやICT建機導入◇

 計画の事業主体は陸前高田市。同市から事業委託を受けて業務全体の総合調整を行う都市再生機構が、復興まちづくりモデル事業としてCM(コンストラクション・マネジメント)方式で発注した。受注したのは、清水建設・西松建設・青木あすなろ建設・オリエンタルコンサルタンツ・国際航業JV。測量から調査、設計、施工までを一体的に行っている。

 清水建設は、これだけの大規模な造成工事を効率的に進めるために、▽無人航空機(UAV)による写真測量▽ICTブルドーザーによる敷きならしガイダンス▽ICT振動ローラーによる締め固め管理システム▽ICT油圧ショベルによるバックホウガイダンス▽GPSによるのり面変状監視-というさまざまなシステムを現場に導入した。

 使用するUAVは、時速80キロの飛行速度が出せる「固定翼」と呼ばれるタイプ。近年さまざまな現場で活用され始めたドローン(小型無人機)と比較し、1回当たりの航続時間が倍以上なのが特徴だ。

 UAVを、GNSS(汎地球測位航法衛星システム)による位置誘導に基づき自動操縦する。従来の20メートルメッシュでの方眼測量を行う場合と比べ、大幅な省人化と工程短縮を図ることができる。

 UAVによって収集した航空測量データを基に、1メートルメッシュの点群データによる2次元・3次元(2D・3D)モデルを作成する。
点群データで作成した現場の3Dモデル
 これによって、毎月の土工量を短時間で算出できるようになる。3Dモデルとオルソ画像(位置情報を含む真上から見たような傾きのない画像)を重ねた鳥瞰(ちょうかん)図を作成して出来形管理も行う。月ごとにデータを管理しているため、造成計画変更時の全体土量バランスの確認や、運搬計画の修正などにも早急な対応が可能になる。

 ◇街全体が現場、品質確保に全力◇

 ICT建機による施工効率の向上、工事品質の安定化も図っている。敷きならしでは、GNSS搭載のブルドーザーにより30センチ厚を高精度に確保。GNSS搭載振動ローラーによる規定の転圧回数(6回)管理も行うことで、ばらつきのない施工を実現する。

 GNSSによる位置情報を利用することで3DモデルによるCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)データを作成し、情報の一元管理を図っている。1層ごとの締め固め終了後の面データを重ね合わせて作成した3Dモデルに、▽作業期間▽施工高さ▽走行時間▽転圧回数-などの属性情報を持たせて帳票管理を行い、高品質な盛り土施工につなげている。

 GNSSによるダンプトラックのトレーサビリティー(追跡可能性)管理も実施している。GNSS機能付きのスマートフォンをダンプに搭載し、土砂の区分や積み込み・荷下ろし地点の位置情報を取得してデータをサーバーに保存。これを各運搬段階に引き継ぐとともに、土質の試験結果を付与して敷きならし・締め固め工程にデータを引き渡す。

 現場で工事を指揮する小出直剛所長は「最盛期にはJVの社員や作業者も含め、現場の人員が1000人弱に膨らむこともあった。『街全体が現場』という感覚は今までに経験したことがない。全員を統制して安全に施工するためにも、繰り返し安全教育を徹底することを心掛けた」と工事の苦労を話す。

 UAVやICT建機については「最初は戸惑う人もいたと思うが、今では施工効率と品質の確保の点で優位性を大きく発揮してくれている」という。

 予定工期は19年3月まで。今後もしばらくは工事は続くが「被災地ではいまだに仮設住宅に暮らしている人も多い。少しでも早く工事を終わらせることが復興につながる。安全・安心を十分に考慮
しながら、残りの工事に取り組んでいきたい」と気を引き締めている。

 《工事概要》

 【工事名】=陸前高田市震災復興事業の工事施工等に関する一体的業務
 【発注者】=都市再生機構
 【施工】=清水建設・西松建設・青木あすなろ建設・オリエンタルコンサルタンツ・国際航業JV
 【工事場所】=岩手県陸前高田市高田地区・今泉地区

【回転窓】熱戦はまだ終わらない

 地球の裏側で熱戦が繰り広げられたリオデジャネイロ五輪が閉幕した。21日に現地で行われた閉会式で次の開催都市である東京都の小池百合子知事に五輪旗が手渡された▼2020年東京五輪のPRタイムでは「ドラえもん」や「スーパーマリオ」など日本を代表するアニメ・ゲームのキャラクターを演出に活用。マリオに扮した安倍晋三首相が、ドラえもんの未来道具により地球を貫通する土管を通り抜けて会場に登場した▼キャラクターの力を借りて日本のソフトパワーを示したかったようだ。感動的なフィナーレを経て世の中が4年後の東京五輪に目を向ける中、もう一つのスポーツの祭典が始まる。9月7日開幕のパラリンピックだ▼12年ロンドン大会で「ゴールボール(女子)」競技に最年少選手として出場して金メダルに輝き、本紙14年元日号のインタビューにも登場いただいた若杉遥さんも2大会連続で出場する▼「日本では障害者スポーツはいまだにリハビリの一環としてのイメージが強く、健常者も楽しめる競技として認知されるように頑張りたい」と語った若杉さんたちに引き続き声援を送ろう。

【進路選択に役立てて】新潟建協ら、中学生に映像で仕事内容紹介



 新潟県建設業協会(新潟建協)と、新潟県建設専門工事業団体連合会(新潟建専連)は、23日に新潟市中央区の朱鷺メッセで開かれた県立専門高校メッセにブースを設けて、中学生とその保護者に業界の役割や仕事内容を紹介した。両団体がそろって同メッセに参加するのは昨年に続いて2回目。

 新潟建協は、5月に作成した建設業にやたらと詳しい男の子が女の子に建設技術を紹介するユーチューブで配信中のCMと、過去につくったTVCMの映像をブース内に設けたスクリーンで放映した。

 このほか、昨年と同様、建設業の役割や魅力を紹介するパンフレットを用意して来場者に、建設業は市民の生活に欠くことのできない産業であることを伝えた。ユーチューブとTVCMの映像の放映は今回が初めて。ユーチューブCMのアクセス数は約4万6500回に達しているという。

 新潟建専連からは新潟県室内装飾事業協同組合が参加。店舗の床によく使われるPタイル、アパートの水回りの床に多い長尺シート、壁クロスの3種類の張り込みを実演した。同時に、体験コーナーも設置。中学生がPタイル張りに挑戦する姿も見られた。

 専門高校メッセは、中学生の進路選択を支援する目的で新潟県が毎年開催している。

 県立の工業高校、農業高校やそれらの科を持つ高校、大学、企業などがブースを設けて、各校各科や大学は進学後の学習内容を、企業は自社の仕事内容を紹介する場になっている。

【季刊大林で新たな挑戦】史上最大の木造建築「方広寺大仏殿」を再現

大林組が広報誌「季刊大林」の最新号(57号)で、豊臣秀吉が京都に建てた史上最大の木造建築「方広寺大仏殿」の復元に挑戦している。

 同社の技術陣による誌上構想「大林組プロジェクト」で、秀吉の都市づくりと建築を京都を中心にひもとき、過渡期の京都に7年間だけ姿を現したとされる方広寺大仏殿の実像に迫った。監修は黒田龍二神戸大大学院工学研究科教授が務めた。

 1590(天正18)年に天下統一を果たした秀吉は、その4年前から京都での大仏殿建設の検討を開始。大仏殿は1588(天正16)年から7年の歳月をかけて建設された。

 完成した建物は、高さ、建築面積とも奈良の東大寺大仏殿の大きさをしのぐ規模だったという。この巨大建築物がどのようにして造られたかを詳細に解き明かしている。

 季刊大林は、建設にまつわる文化を考察、紹介する広報誌。中でも社内で編成したプロジェクトチームが歴史的建造物の復元や検証、未来社会に寄与する建造物や街の構想などに挑戦し、そのプロセスと成果を誌上で発表する「大林組プロジェクト」が人気。近年では、「宇宙エレベーター建設構想」を掲載している。

2016年8月23日火曜日

【回転窓】遺影の若返り、許容範囲は?

夏休みを終え、きのうから平常勤務という方もおられよう。お盆には、帰省した実家の仏間でご先祖の遺影と久しぶりに対面した方も多いのでは▼昨今は、死後に飾る遺影を生前に自ら用意しておく人も少なくないようだが、遺族が葬儀の前に近影を選ぶことも多いだろう。故人も気に入るよう、できるだけ表情も写りも良いものをと考えるのが人情だが、あいにく適当な近影が見当たらないこともある。高齢で長く寝込んだ人などはなおさらであろう▼近影でない場合、遺影の若返りはどこまでなら…。作家の嵐山光三郎さんが先日、雑誌の連載で〈遺影として使っていい許容範囲は10年から15年前ぐらいでしょう。70歳をすぎたら一律20%オフのサービスとする〉と持論を書いていた(週刊朝日「コンセント抜いたか」)▼新聞も著名人の訃報に付ける顔写真の確保に苦労することがある。当方もできるだけ良い表情をと考えるのだが、特に高齢の方は随分以前のインタビュー写真しか手持ちがないことも▼嵐山さんの言う「許容範囲」はなかなかいい線かもしれない。そんなことを考えながら仏壇に手を合わせた。

【語り継ぐ土木の心】九州電力代表取締役副社長・佐々木有三氏

 ◇異分野含め多様な議論積極的に◇

 --土木は何のために存在する。

 「土木は有史以来、人々の安全を守り、生活を豊かにする社会資本を整備し、維持・管理するために貢献してきた。電力の分野でも、経済社会やエネルギー事情の変化など時代の要請に応じた電源開発の担い手として腕を振るい、そのアイデンティティーを確立してきた。土木の役割は、いつの時代も『社会からの要請』に応え、『つくること』と『機能させ続けること』といえる。『つくる』のは『もの』だけではない。新たな『仕組み』をつくる、新たな『事業』をつくるのも土木の仕事といえる。そのために『人』をつくることも重要だ」

 --土木は常に自然を相手にしてきた。

 「5年前の東日本大震災では、自然と向き合う際には謙虚さが大事なことをあらためて学ばされた。想定を超える大災害になったことについて、『想定外は言い訳だ』と土木に対して批判が向けられた。しかし、震災直後に現場にいち早く駆けつけ、人命救助や応急復旧に献身的役割を果たしたのも土木だった。『自然に対する畏敬の念』を忘れず、『国土と人命を守る誇り』と『日本の将来を支えるという気概』を持ち、『自立』の精神で新しい時代を切り開いていくことが土木の原点であるべきだ」

 --これから土木技術者には何が求められる。

 「自然現象や施工品質といった不確かなものと向き合う際には、『分かっていること』と『分からないこと』をきちんと分け、『分からないこと』については、必要な情報を蓄積し、問題解決のための技術開発や研究に先導的に取り組んでいかなければならない」

 --土木への社会の理解や信頼も必要では。

 「土木技術者は、有事や困難に対して逃げず、避けたり捨てたりもしないという真摯(しんし)な姿を社会に積極的に示すことが重要だ。そのためにも、土木技術者一人一人が、周囲に目を向け、足を運び、そこから得られる新たな教訓やさまざまな情報を日頃の業務に落とし込み、自分は仕事を通じて社会とどう関わっているかをしっかり考えていく必要がある」

 「何事も前向きに受け止め、自らの思いを社会にしっかりと伝えられるよう説明力も磨かなければならない。そのためにも専門力を深めると同時に、社会の動きを察知できる広い視野をバランスよく身に付けることが重要だ。土木の仕事は、『定型』タイプでなく『変動タイプ』といえるだろう。変動タイプの仕事はあらゆることを想定し、その都度工夫を重ねて対処しなければ責任を全うできない」

 --次代の土木を担う若者への期待は。

 「まずは目の前の仕事を確実にやり遂げた上で、『なぜ』を繰り返し、真実を知ろうとする不断の努力を続けてほしい。そして、真実を知るためには、現場に足を運び、現物を見て、当事者と話すという現地、現物、現人の『三現主義』に徹することが不可欠だ」

 「特に大事なのが、異分野も含めた多様な議論・コミュニケーションを積極的に行い、複数の目で横断的に仕事を進めることだ。直面する壁に立ち向かった経験を一つ一つ積み重ねることで、自立する力、判断できる力が身に付き、確信を持って情報を発信できるようになる。決してうろたえたり、振り回されたりしないことが肝要だ。土木技術者の活躍の場は大きく広がっている。小さくまとまるのではなく、物事を大きく捉える姿勢を養ってもらいたい」。

 (技術本部長、ささき・ゆうぞう)

【凜】森本組東京支店・森末涼子さん


 ◇頼まれたらまずはやってみる◇

 幼い頃から図画工作が好きで、大学では建築学科に進んだ。「大学の課外活動で、木材を使いモニュメントとベンチを作る機会があった。何もない所に自分の手で物を完成させた経験から建設現場で働きたいという思いが募り、ゼネコンを就職先に選んだ」という。

 念願かなって入社後すぐに現場に配属された。今年で入社4年目。「頼まれたことはまずやってみる。これを繰り返し、自信を持って引き受けられるようにする」というプロセスを大切にしてきた。

 「前の現場ではマンション地下躯体の仮設足場の段取りを任されたが、数量を間違えて迷惑を掛けた。失敗もあったけれど、1フロアずつ高くなっていく様子を間近で見られたのがうれしかった」と目を輝かす。

 現在は東京都内のマンション建設工事で施工管理を担当。最初の現場でお世話になった所長や先輩と再び一緒になり、後輩もできた。「指示された内容を、理解を伴ってできるようになりたい」とさらなるステップアップを自身に課す。

 建築系技術職で現場に配属されている女性は社内で1人だけ。人見知りな性格だったが、職人とのコミュニケーションもうまくなってきたと感じている。「これまでの現場はどこもRC造だったので、S造にも挑戦してみたい」と目標を語る。

 休日は自宅でのんびりリフレッシュ。ジグソーパズルが好きで1000ピース級を手掛ける。「完成したらばらばらにしてまた始める。その都度違った楽しみがある」。

 (東日本橋2丁目作業所、もりすえ・りょうこ)

【中堅世代】それぞれの建設業・145

最先端のテクノロジーで現場どう変わっていくのか…
 ◇「最適解」を追い求めて◇

 ICT(情報通信技術)やロボットなど最先端のテクノロジーを、建設産業にどのように取り込んでいけばよいのか-。

 建設会社で新技術などを活用して業務改善に取り組む部門に所属する前川聡二さん(仮名)。最近は国土交通省が推進している建設現場の生産性向上策「i-Construction」などの取り組みが注目を集め、現場や業務の生産性を高める施策の具体化に知恵を絞っている。

 「世の中の流れや同業他社の動きに後れを取らないように」との上層部の指示を受け、業界内外からの情報・アイデア集めにも一段と熱が入る。

 入社後、技術者として建築設計を中心に現場に関わってきた。近年は3次元(3D)モデルを活用するBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の構築に力を入れてきた。社内では2次元の紙でのやり取りがまだ主流だが、3Dモデルの領域は着実に広がりつつあると手応えを感じている。

 業界内では、構造物の設計データや付属する各種情報を3Dモデルに統合し、建設生産の全プロセスで有効活用しようとする動きが活発化。建築物のBIMに加え、土木構造物を対象にしたCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)の具体化に向けた官民の取り組みも目立ってきた。

 「こうした先進的な取り組みに対しては、総論では賛成派が多数を占めるが、各論に入ると従来のやり方を刷新することに異を唱える人が少なくない」。BIMやCIMなどの導入は、現場の生産性向上はもちろん、品質の確保や維持管理を含めたライフサイクルマネジメントの効率化などにも寄与するといった効果を分かってはいても、組織や個人が新しいやり方やシステムを受け入れ、それに慣れるには時間がかかると実感する。

 生産システムにいくら最先端のテクノロジーを組み込んでも、それを使う人たちの意識が変わり、スキルも高まらなければ意味がない。技術やシステムはあくまでも手段。最後は人で成り立っている産業だという原点に立ち返って、人材と技術をうまく融合させることが求められていると思う。

 新技術を使える環境を整えるには設備投資も必要だ。コストと手間をどれだけ許容できるかも業務改革を進める上での重要な要素となる。

 「3Dモデルを案件受注のためのプレゼンテーションで活用したい」と営業マンが言ってきた時に、どこまで労力と費用をかけ、どの程度のレベルのモデルを作り上げるかで判断に迷うこともしばしば。何でもかんでも新しい技術・システムを取り入れることが正しいとは限らない。費用対効果などを踏まえ、その時々で最適なやり方を見定めようと心掛けている。

 日進月歩のITが多くの産業の業務革新に大きな影響を与えていることは間違いない。従来の技術より優れた新技術を活用するのは自然の流れでもある。しかし、長い年月をかけて職人が技を磨き、技術者が知恵を絞って新工法を生み出してきた流れとは異なったものにも見える。「目先の新しさにとらわれすぎると、建設業の根幹をなす技術力が逆に弱まるのではないか」。そんな疑問もある。

 変えるべきもの、残すべきものとは-。日々、最適解への模索が続く。

【サークル】三井住友建設 SMCCランニングクラブ

◇たすきをつなぐ一体感が醍醐味◇

 マラソン好きの社員が集まり、2010年に駅伝大会に参加したのがきっかけで結成された。新入社員から50代のベテランまで、さまざまな部門・支店のランニング好きな社員35人が所属する。

 代表を務める田中徳明さん(管理本部経理部)が「たすきをつなぐ駅伝は、個人参加のマラソンとは違った楽しみや感動がある」と話す通り、チーム活動最大の醍醐味(だいごみ)は、駅伝だからこそ味わえるチームの一体感。年に2回参加する駅伝大会では、おそろいのオリジナルTシャツに身を包み、一体感を楽しんでいる。

 今年5月に東京都板橋区の荒川河川敷で開かれた「ハイテクタウン駅伝」には7チーム・28人が参加。全国から773チームが出場する中、クラブからの参加チームの一つ「SMCC NO.1」が見事6位入賞を果たした。秋に出場予定の大会では表彰台を目指している。

 そしてもう一つの楽しみが大会後に毎回開く反省会。「走った後のビールは最高」(田中さん)と、日常業務では交流の少ない他部署や世代の離れたメンバー間の交流促進に一役買っている。

 田中さんは「社内には隠れランナーがもっといるはず。全社的な活動に広げ、最終的に社内の駅伝大会が開催できるようにしたい」と、ランニングを通じて社内交流の輪を広げるつもりだ。

【駆け出しのころ】三信建設工業取締役執行役員東京支店長・城戸博行氏

 ◇疑問を持ち進化の第一歩に◇

 大学の機械工学科に在籍していたため、入社したら施工機械の整備を担当するのかと思っていました。

 ところが、入社試験の面接で言われたのは「現場に出てもらう」でした。土木の知識もなく不安でしたが、「考えるより慣れろ」と覚悟を決めました。それに知らないことを担当するのですから、自分で勉強していくしかないと良い意味で割り切ることができたのかもしれません。

 入社して1カ月間、当社が地盤改良工事を担当していた上越新幹線・中山トンネル(群馬県)の現場で研修を受けました。先輩から出水して危ない時期もあったと聞きましたが、私たちが研修に行ったのは工期も残すところ1年という時期で、出水もなく落ち着いた雰囲気の中で工事が進んでいました。

 そこには、現在の大沢一実社長が当時は主任として赴任していて、図面は誰が見ても間違いがないように数字の書き方に注意するよう言われ、事務所のドラフターで何回も書いて練習したのを覚えています。

 研修を終えると、シールド工事の立坑部を地盤改良する現場に配属されました。入社1年目は言われたことをやるしかなく、2年目になって少しずつ自分で動けるようになっていった気がします。

 この現場には、元請の共同企業体にも2人の新入社員が配属されていて、同年代の私たちは休日もよく一緒に行動していました。会社は違っても社会人の第一歩を同じ現場で踏み出せたことをとても心強く感じ、その後も長年にわたり良いお付き合いをさせていただいています。

 当時の教えで今でも大切にしているのは、地盤改良工事に伴って地上に出てくる土をよく観察することです。その土には、目には見えない地中からの貴重なメッセージが込められているからです。数値でも管理を行いますが、頭で考えるだけでなく、目で見て吸収したものは大変に役立つものです。

 「繊細に、そして大胆に」-。現在、社内で皆に言っている言葉です。事前にさまざまなことを想定して対応策を練り上げたら、現場では自信を持って実行してほしいと思っています。

 そして、常に「何でこうなっているのか」と疑問を持ち、「こうやればもっと良くなる」という自分の考えを持ってほしい。例えば施工機械はこの30年で大きく進化し、これからも進化していくはずです。進化というのは誰かが疑問に思うことから始まります。その進化の第一歩をぜひ踏み出してくれるよう期待しています。

 (きど・ひろゆき)1981年東海大学工学部動力機械工学科卒、三信建設工業入社。東京第一事業部主任、同課長、同部長代理、同部長、東京第三事業部長、東京支店副支店長、執行役員東京支店長などを経て、16年現職。富山県出身、58歳。
新人研修後に初めて配属された現場で

2016年8月19日金曜日

【回転窓】未来志向のインフラ

1日に10万人以上が利用する鉄道駅でホームドアが設置されている割合は3割ほどだそうだ▼2001年に東京のJR新大久保駅で韓国人留学生を含む3人が死亡した事故から15年。先日も東京メトロ青山一丁目駅で盲導犬を連れた男性が転落して電車にはねられ死亡するという痛ましい事故が発生した▼何とか整備を加速してもらいたいが、思った以上に手間暇のかかる事業のようだ。東海道新幹線や首都高速道路は1964年東京五輪に向けて急ピッチで建設された。戦後の荒廃から立ち上がったことを世界に示す未来を志向した投資だった▼2020年東京五輪に向けて何をすべきか。4年後の大会は、障害者スポーツの祭典「パラリンピック」も強く意識されている。であるなら、誰もが安心して使える都市づくりこそが最も優先されるべき課題ではないか▼政府は経済対策でリニア中央新幹線の整備前倒しなどを「21世紀型インフラ」、ホームドアなどを「生活密着型インフラ」とした。トーキョーが世界一安全な街だと示すためにも、ホームドア整備は未来志向インフラとして強力推進すべきだと思うが。

【輝け!けんせつ小町】日中コンサルタント名古屋支店・川瀬瞳さん

 ◇達成感が味わえる仕事◇

 大学進学時に建築学部を希望していたが、合格したのは工学部土木工学科だった。「土木の世界がどのようなものか、全く知識がないまま大学に入学したのですが、土木は“土”や“コンクリート”だけでなく、水や各種の構造物など幅広い世界がありました」。

 02年に大学を卒業し、建設コンサルタント会社に就職。橋梁の新設や耐震補強などの業務に携わり、その5年後に今の会社に移った。現在、橋梁だけでなく、土木構造物全般の耐震診断やその補修・補強方法などの提案・設計、構造計算などを担当。セールスエンジニアとして営業もこなす。

 「耐震補強を提案するには、新設を設計する以上にいろいろな知識が求められます。特に古い構造物は複雑な構造も多く、どのような補強方法が良いのか悩みます。その際、感心するのはこんな複雑な構造計算を、昔の技術者はよく手計算で行っていたなということ。それに比べると、まだまだ勉強が足りません」

 建設コンサルタント会社は納期に追われ、夜遅くまで仕事をしなければならないこともある。それでもやりがいのある仕事だという。

 「苦労して提案した工法が採用され、それが実際に施工されると喜びを感じます。現場にいくチャンスはあまりないのですが、施工後の写真などを見せてもらうと、この仕事をして良かったという達成感があります」

 現在の会社に入社後すぐに結婚し、出産した。1人息子は今年、小学1年生になる。「子どもが小さい時は大変でした。子育ても仕事も両方が中途半端な感じで、私はいったい何をしているだろうと何度も考えた」。そのたびに家族や上司、同僚が励まし、助けてくれた。

 こうした悩みを抱える女性技術者は多い。「仕事と子育ての両立は難しいものです。ただ、そうした人たちには“その辛さは永遠には続かない。もっと力を抜いていいよ”と声を掛けてあげたい」。自分の経験から、子どもの成長とともに、その辛さも和らいでいくものだという。

 趣味は旅行。家族で知らない土地に出かけるのが楽しいという。「子どもがもう少し大きくなったら黒部ダムを見せにいきます」。

 (技術部課長、かわせ・ひとみ)

【多機能化への第一歩】埼玉スタジアム、飲食店整備の検討開始

 2020年開催の東京五輪でサッカーの試合会場として使用される埼玉スタジアム(さいたま市緑区)の大規模改修プロジェクトで、ホスピタリティを高めるための検討が始まる。

 埼玉県は、7月19日に指名競争入札を開札した「埼玉スタジアム2002改修検討業務」の落札者を800万円で梓設計に決めた。

 スタジアムの4階部分にある活用されていないスペースを対象に、飲食店舗などの整備の可能性を検討する。履行期限は17年3月24日。

 大規模改修プロジェクトは昨年度に始動し、県は「コンコースほか改修工事設計業務」を宇田川太郎建築設計研究所、「外壁ほか改修工事設計業務」を井上建築工学設計事務所にそれぞれ委託した。別途発注の「電気設備改修工事」は島村電業が受注し、すでに作業を終えている。

 スタジアムは▽施設本体(RC造6階建て延べ6万0867㎡)▽クラブハウス(S造2階建て延べ782㎡)▽チームハウス(RC造平屋597㎡)▽入場ゲート(S造平屋90㎡)6棟▽総合案内所(RC造平屋191㎡)2棟▽トイレ兼倉庫(RC造平屋240㎡)―などで構成する。

 国内最大の球技専用スタジアムとして、サッカー日本代表やJリーグ・浦和レッズなどが使用。建設から10年以上が経過し老朽化が進みつつあることに加え、東京五輪での利用も決まったことから、県は空調設備修繕や外壁塗装、南広場常設テント設置など大規模改修や施設整備も行っている。

 スタジアムが立地する埼玉高速鉄道浦和美園駅周辺地区では昨年、区画整理事業で造成した320haの土地を有効活用しながら居住人口を増やすために、官民協働の「美園タウンマネジメント協会」が発足。数万人規模の集客が見込める埼玉スタジアム、見沼たんぼや綾瀬川といった豊かな自然を生かしながら、現在5600人程度にとどまっている人口を3万人以上に増やす取り組みも始まっている。

【おうちクラブ始動!】国交省と吉本興業、女性活躍応援キャンペーンでコラボ

 国土交通省と吉本興業グループが建設業の女性活躍を応援するキャンペーンをスタートさせた。

 よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属の女性芸人「おかずクラブ」をメーンキャラクターに起用して建設業の魅力を発信するグループ「おうちクラブ」を17日に結成した。

 「つくっている私がすき!」をテーマに全国各地で多彩なキャンペーンを展開し、進路を考えている女性や若者などに建設業への就業・入職を働き掛けていく。

続きはHP

【もっと楽に、自由に、大胆に】ものづくり・匠の技の祭典、左官職人・挟土秀平氏が開幕イベント参加

 「ものづくり・匠の技の祭典2016」の関連イベントとして、9日に東京・有楽町の国際フォーラムで行われたパネルディスカッションと、10日の開幕イベントに、カリスマ左官職人の挟土秀平氏(職人社・秀平組代表)が登場した。

 挟土氏は「伝統と革新の両立」をテーマに「職人は守るべき点と、現代風にアレンジする点を使い分けるべきだ」と現代の匠の仕事のあり方を語った。

 パネルディスカッションで挟土氏は、「日本の職人は緻密にしっかりと作るところがあるが、今の時代は人によって流れている時間がまったく違う。考え方を変える必要もある」と指摘。具体例として、東京でテナントの象徴となる壁をつくる場合、「『この店は15年程度で改装するだろう』と考えてしまう。日本の職人が積み重ねてきた技能は100年をターゲットにしている。15年でよいと考えれば、クリエートできるチャンスが増える。本当に良い家を造りたいという人に出会えば、100年でものを考える。めりはりができて職人の領域は広がる」と持論を展開した。

 その上で「昔の職人も同様の考え方を持っていた」とし、実例を挙げながら「職人は相手や場所によってもっと楽に、自由に、大胆なことをやってほしい」と述べた。

 開幕イベントでは「何百年も続いてきた技がある。文化財として保存するものは決してアレンジしてはいけない。昔の人が寸法を間違えていたと分かっても、そのまま修復する。しかし、現代の都心の一等地にあるホテル、飲食店のラウンジであれば、使われ方を考え、その雰囲気にマッチするものを工夫するべきだと思う。職人はきっちりと譲らずに守るべき点と、現代が匂うように工夫を凝らす点を使い分けるべきだ」とあらためて強調した。

 さらに「葦(あし)でも、和紙の楮(こうぞ)や雁皮(がんぴ)でもそうだが、素材を育てる人、素材を保存してくれている人、素材を吟味してくれる人が消えると職人も駄目になる。彼らに目を向けることが大事だ。職人の素材を守らなければいけない」と締めくくった。

【教育のキーワードは『地域』】静岡理工科大学・野口博学長に聞く/建築学科新設の狙いは?

 ◇新たなムーブメント生み出す人材輩出めざす◇

 来年4月に静岡理工科大学理工学部に、静岡県内の大学で初の「建築学科」が誕生する。「東海地震に備え、地震や津波に強い建築の実現」と「静岡固有の温暖な気候を活(い)かす都市・建築空間の創造」を教育方針に掲げ、防災・減災、地域創生、省エネルギー住宅、スマートシティーなどの分野で「静岡発の新たなムーブメント、知見を生み出す人材の輩出を目指す」と語る野口博学長に、開設の狙いと展望を聞いた。

 --建築学科の開設は静岡県内の大学では初めてとなる。

 「県内の建設会社や建築設計事務所からは、建築人材への高いニーズがあるにもかかわらず、県内にはこれまで意匠、構造、設備、環境など『建築学』を総合的に学べる大学がなかった。静岡で生まれ、小・中・高と学んでも建築を志す人は県外に行くしかなかった。これが建築学科を設けることにした理由だ」

 「建築はまちづくりや地域創生に欠かせない。これまで袋井市の市長や商工会議所の代表を招き、『袋井の街の活性化』をテーマに学生に授業をしてもらっているが、当校に建築学科が創設されることで、袋井の街の振興に向けた活動も変わる。懸念される東海地震に備えた建築の防災・減災対策、津波避難ビルのあり方の検討でも協力できる」

 --他校の教育とどう差別化を図る。

 「来年4月の開設時は教授と准教授4人ずつの計8人と非常勤講師10人の指導体制でスタートする。教授や准教授は著名建築家の事務所で働き、一度は大学で教えた経験がある。非常勤講師は静岡県内に事務所を構え、地元をよく知る人たちだ。指導教員1人が受け持つ学生は平均5・6人。近隣の神奈川や名古屋にある他大学の建築学科と比べ、担当する学生数が少ない。実験と演習を中心にした少人数教育ができる体制を整えている点は大きな特色だ」

 「『建築学部』を新設せず、『建築学科』としたのは、大きくなると教育の目が行き届かなくなる可能性があるからだ。もう一つは、最近の建築は機能が複雑・多様化し、理工学部に設置している機械や電気電子、物質生命化学、情報の分野(学科)との融合が欠かせない。各種分析装置もそろっているため、新建材の性能計測などで連携ができるようそれぞれの学科の授業を互いに受けられるようにしたい」
 
 --カリキュラムも大切になる。

 「専門科目は意匠、設備、構造、材料、環境(光・音・熱)・インテリアデザインなど多岐にわたる。将来的には歴史、生産、まちづくりなどの科目もつくりたい。建築を基礎から学びながら、日照時間の長い静岡地域に合った自然エネルギー重視のエコ住宅や、公共建築のデザイン・建築計画を考え、総合的な観点から設計できる建築技術者の育成を目指す」

 「教育のキーワードは『地域』。静岡固有の建築やまちづくり、コンパクトシティー、循環型社会の都市設計モデルとなるスマートシティーのあり方などを学ぶ『地域建築学(静岡学)』を重視する。学生に県内の特徴的な建物を調査してもらい、静岡県の建築ハンドブックのような形としてまとめたい。地震、津波対策に貢献する建物の構造・材料、耐震補強、免震、制震技術などについても『地域防災学』として研究を強化する。開設時は担当教員が1人だが、2年後には2人体制とする」

 --県内の高校や企業からの期待も高いのでは。

 「県内の高校を対象に、建築学科への入学希望者を調べた結果、定員50人に対して3倍の人数がいることが分かった。建築学科がある県内の工業系高校8校には説明もさせてもらった。県内企業の採用計画を調べたところ、建築系新卒人材に対して約500人の採用希望があった。多くの生徒が試験に来てほしい」。