◇新たなムーブメント生み出す人材輩出めざす◇
来年4月に静岡理工科大学理工学部に、静岡県内の大学で初の「建築学科」が誕生する。「東海地震に備え、地震や津波に強い建築の実現」と「静岡固有の温暖な気候を活(い)かす都市・建築空間の創造」を教育方針に掲げ、防災・減災、地域創生、省エネルギー住宅、スマートシティーなどの分野で「静岡発の新たなムーブメント、知見を生み出す人材の輩出を目指す」と語る野口博学長に、開設の狙いと展望を聞いた。
--建築学科の開設は静岡県内の大学では初めてとなる。
「県内の建設会社や建築設計事務所からは、建築人材への高いニーズがあるにもかかわらず、県内にはこれまで意匠、構造、設備、環境など『建築学』を総合的に学べる大学がなかった。静岡で生まれ、小・中・高と学んでも建築を志す人は県外に行くしかなかった。これが建築学科を設けることにした理由だ」
「建築はまちづくりや地域創生に欠かせない。これまで袋井市の市長や商工会議所の代表を招き、『袋井の街の活性化』をテーマに学生に授業をしてもらっているが、当校に建築学科が創設されることで、袋井の街の振興に向けた活動も変わる。懸念される東海地震に備えた建築の防災・減災対策、津波避難ビルのあり方の検討でも協力できる」
--他校の教育とどう差別化を図る。
「来年4月の開設時は教授と准教授4人ずつの計8人と非常勤講師10人の指導体制でスタートする。教授や准教授は著名建築家の事務所で働き、一度は大学で教えた経験がある。非常勤講師は静岡県内に事務所を構え、地元をよく知る人たちだ。指導教員1人が受け持つ学生は平均5・6人。近隣の神奈川や名古屋にある他大学の建築学科と比べ、担当する学生数が少ない。実験と演習を中心にした少人数教育ができる体制を整えている点は大きな特色だ」
「『建築学部』を新設せず、『建築学科』としたのは、大きくなると教育の目が行き届かなくなる可能性があるからだ。もう一つは、最近の建築は機能が複雑・多様化し、理工学部に設置している機械や電気電子、物質生命化学、情報の分野(学科)との融合が欠かせない。各種分析装置もそろっているため、新建材の性能計測などで連携ができるようそれぞれの学科の授業を互いに受けられるようにしたい」
--カリキュラムも大切になる。
「専門科目は意匠、設備、構造、材料、環境(光・音・熱)・インテリアデザインなど多岐にわたる。将来的には歴史、生産、まちづくりなどの科目もつくりたい。建築を基礎から学びながら、日照時間の長い静岡地域に合った自然エネルギー重視のエコ住宅や、公共建築のデザイン・建築計画を考え、総合的な観点から設計できる建築技術者の育成を目指す」
「教育のキーワードは『地域』。静岡固有の建築やまちづくり、コンパクトシティー、循環型社会の都市設計モデルとなるスマートシティーのあり方などを学ぶ『地域建築学(静岡学)』を重視する。学生に県内の特徴的な建物を調査してもらい、静岡県の建築ハンドブックのような形としてまとめたい。地震、津波対策に貢献する建物の構造・材料、耐震補強、免震、制震技術などについても『地域防災学』として研究を強化する。開設時は担当教員が1人だが、2年後には2人体制とする」
--県内の高校や企業からの期待も高いのでは。
「県内の高校を対象に、建築学科への入学希望者を調べた結果、定員50人に対して3倍の人数がいることが分かった。建築学科がある県内の工業系高校8校には説明もさせてもらった。県内企業の採用計画を調べたところ、建築系新卒人材に対して約500人の採用希望があった。多くの生徒が試験に来てほしい」。
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