2016年8月25日木曜日

【きっかけは厚労省緊急育成支援事業】内装工事会社に就職した押切雅仁さんの一日

 未就業者に建設現場で働くのに必要な技能の習得や資格取得の機会を提供し、建設業への就職に結び付ける厚生労働省の「建設労働者緊急育成支援事業」。15年度に建設業振興基金が受託して始まったこの事業に参加した多くの若者が業界で働き始めている。そうした若者の一人を東京都内のマンション工事現場で取材した。

 ◇研修通じ仕事の「イロハ」学ぶ◇

 内装施工の東京志村(千葉県習志野市、伊東弘樹代表取締役)に所属する押切雅仁さん(22)。ボード、軽鉄、床、クロス…。内装施工の基本を学ぶことができる仕上げ系技能者(内装)の研修を3月、2週間にわたって千葉・幕張で受けた。懇切丁寧に教えてくれる講師の手ほどきを受けながら、短い期間の中で内装工事の「イロハ」を学ぶことができ、「施工の基本的な流れをつかめたことは、実際の現場作業にも生かせる貴重な経験になった」と話す。

 建設工事の現場は、夏は暑く、冬は寒い。きつい、汚い、危険という「3K」の代名詞のようにもいわれる。柄が悪いというイメージを持っている人も少なくないが、押切さんは以前から「仮囲いの中で何が行われているのだろう」と興味を抱いていたという。「自分が住んでいる家を含め、建設の仕事がなければ、誰もが生活を営むことができない」。そう考える押切さんにとって建設業は、「カッコイイ」と思える憧れの職業だった。

 研修では、各職種に見合った技能を学ぶことができ、玉掛け、フォークリフト、研削砥石など現場作業に必要な資格も取得できる。すべて無料だ。建設会社への就職支援もセットで行われる。

 内装工事に関する知識はゼロだった押切さんも最初は不安だった。それでも「基本を一つ一つ教わることができた。資料や実際に現場で用いる資機材も用意され、とても分かりやすかった」。そうした中で実際に現場で働く心構えを醸成することもできたと振り返る。

 この春に就職した東京志村は、ゼネコンの下請として、年間を通じて数多くの現場で内装施工を手掛けている。押切さんも既に、ホテル、スーパーマーケット、病院、マンションと短い期間ながら多くの現場で経験を積み重ねてきた。

 外注先を含めて十数人で現場に出向き、内装施工に当たる。同社が中国から受け入れている技能実習生や建設就労者も一緒だ。そんな環境の中で、先輩社員たちは、時に厳しくも丁寧に仕事を教えてくれる。「自分のミスも的確に指摘していただけるので、次に生かすことができる」と押切さんも前向きに対応する。休憩時間に入る前、自分が施工した箇所を振り返って見ることは、仕事に対する充実感や達成感が得られる瞬間でもある。

 ◇現場に従事する心構えも◇

 上司や先輩から常に言われるのは「いつも現場をきれいにしておくこと」。ごみをためることは、それだけ作業効率の低下につながり、安全な作業にも支障を来す。今後さらに経験を積み、「先輩たちのようにボードをうまく張れるよう、自分の能力をもっと高めていきたい」。いずれは職長と呼ばれる存在になり、「大きな現場での施工を任されるようになりたい」と夢を抱く。

 同社の伊東代表取締役も押切さんが将来、会社を背負うような存在となることを期待しているが、悩みの種が、このところの建設業の離職率の高さだ。「ここ数年、若者が入職してきても、みんな数カ月で辞めていってしまった」と嘆く。

伊東代表取締役㊨と押切さん
研修を経て入ってきた押切さんにはもう1人、同期入社の社員がいる。2人が切磋琢磨(せっさたくま)しながら成長していってほしい-。そんな思いから伊東さんは「現場で学んだことをノートにまとめておくように」と指示している。自分のやり方でよい。仕事をきっちりと覚え、これから入ってくる後輩たちにも仕事を教えられるようになってもらいたいとの願いもある。

 建設業の仕事の魅力は、何といっても自分が手掛けた仕事が形として残ることだ。「そんな仕事に憧れ、目的意識を持った若者にぜひ入ってきてもらいたい」と話す伊東さんも、やる気のある若者が就職前に研修を受けることができる建設労働者緊急育成支援事業の意義を高く評価する。

 技術や技能を習得するということ以上に、「心構えができることは大きな成果だ」として、引き続き、同事業で研修に参加した若者が入職してくることに大きな期待を寄せている。

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