◇女性向け「育成塾」構想始動◇
北九州市を拠点に活動する建築事業会社のゼムケンサービス。スタッフ7人と小規模ながら、女性の力を生かす独特の提案で商業施設、住まい、公共事業、まちづくりなどを幅広く手掛ける活動で注目される。
「ワークライフバランス(仕事と家庭の調和)」「ワークシェアリング(仕事の分かち合い)」を経営戦略に掲げる籠田淳子代表取締役は、女性活躍を推進する政府の表彰を受け、関連した講演活動にも意欲的だ。
その籠田氏が、自身の経験を基に女性技術者・技能者を育成する塾の設立を計画している。女性活躍で建設業の労働力不足の解消と活性化に貢献したいという。
籠田氏が来年設立を目指す育成塾では、時間的制約が多い女性に配慮し、高い学習効果が見込めるeラーニングを活用する。1年の間に現場の管理や作業に不可欠な知識をインターネット環境の中で全国どこにいても繰り返し学べる環境を提供する方針だ。
加えて、1カ月に1回、2泊3日の合宿を行い、塾生同士が寝食を共にする。女性の同期社員が少ない建設業の中で塾生同士で仲間意識を育みながら、組織内でのリーダーシップを学び、現場で求められる安全衛生に関する資格取得の機会にもする。
「これから半年くらいかけてカリキュラムを考えていく」という育成塾で籠田氏が活用しようと考えているのが、現在作成中の「ゼムケンノート」と呼ぶテキスト。人材育成に力を入れるゼムケンサービスの事業活動の中で、籠田氏が社員に伝えてきた数々の言葉を集約・整理して05年に作成した「ゼムケン赤本」がベースになる。経営戦略でもあるワークシェアリングに取り組む中、仕事の「見える化」とナレッジマネジメント(知識管理)に生かしてきたものだ。
木工事の職長を務めた後に、実家の建設会社で営業、設計、現場監督などを手掛け、そこから派生して母が創業したゼムケンサービスを引き継いでから16年間、社長として社を引っ張ってきた籠田氏。その経験やノウハウが詰まった赤本を「ノート」として再構成し、塾生の間で共有を図る。
◇労働力不足解消と産業活性化へ◇
「大工の娘」に生まれた籠田氏は、自らの意志で建設の世界に足を踏み入れた。ゼネコンが施工する現場の職長として仕事をするが、悩みを相談できる同期の女性もいない中で「(男社会の)現場の段取りは喫煙室と焼鳥屋で話が決まっている」現実を目の当たりにしてきた。図面を持って行っても相談に乗ってもらえないこともあった。現場のトイレは男女共用が当たり前。休憩時間に長蛇の列ができ、1日我慢することもあった。
数々の苦い経験も重ねた末に社長になったゼムケンサービスでは、「建設業はサービス業になれる」という強い信念の下で事業を展開。視覚が最も重視される建築の中で、味覚、聴覚、嗅覚、触覚を加えた「五感設計」という新基軸を打ち出し、設計図面だけでは表現できない感性に訴えるアプローチで顧客満足度を高める提案を手掛ける。
こうした事業の中で仕事と生活に相乗効果を上げるワークライフバランスを強味とする経営を展開。夫の扶養で「103万円の壁」を超えられない子育て中の女性の「図面を描きたい」という強い思いも取り込み、独身者とチームを組ませて共に達成感を持たせるワークシェアリングも推し進めてきた。
「女性は補助業務」というこれまでの業界の常識を覆し、「男性と女性が対等に働く」ことで、個性を生かすビジネスに取り組んできた。
籠田氏の活動は、地元で評判を呼び、北九州市からさまざまな表彰を受けたほか、市が主宰する数々の委員会で委員も務めている。
ゼムケンサービスのスタッフ |
これまでの活動を広げる形で、建設業での女性活躍を後押しするために計画するのが女性対象の育成塾だ。「高校生のころ学校の先生になるのが夢だった」という籠田氏は、育成塾を通じて建設業で働きたいという女性の潜在需要を掘り起こし、活躍する場を開いていきたい考えだ。
現在、法政大学イノベーションマネジメント研究科に学び、MBA(経営学修士)取得を目指している籠田氏は、自ら主宰する日本女性力活性化協会で建設業界のダイバーシティー(人材の多様化)を評価する仕組み作りも構想。女性活躍をきっかけに、若者、高齢者、外国人など多様な価値を生かした現場づくりにも力を注いでいく。
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