2016年8月2日火曜日

【i-Conと女性活躍の関係は?】国交省×道建協なでしこエンジニアの会座談会

 ◇i-Con元年、現場での効果に手応え◇

 ICT(情報通信技術)により作業の効率化や省人化を図る「i-Construction」に大きな期待が集まっている。生産性向上はもちろんのこと、女性や中高年層でも体力差を感じずに力を発揮したり、経験が浅い人が即戦力に近い形で活躍できたりと、「担い手の幅」を広げる効果があるからだ。

 将来を担う層は、i-Constructionや女性の活躍推進をどう見ているのか。国土交通省の桝谷有吾官房技術調査課事業評価・保全企画官と、日本道路建設業協会(道建協、増永修平会長)の「なでしこエンジニアの会(なでしこの会)」のメンバー、岡本明子さん(日本道路)と宮川恵さん(西尾レントオール)、後藤李里さん(アクティオ)に語ってもらった=敬称略。

国交省・枡谷有吾さん
 桝 谷 生産労働人口の減少が見込まれているが、災害対応も含め、建設産業の力は維持しなければならない。そこで、一人一人の生産性を上げようとi-Constructionの取り組みを始めた。ICTの全面活用などを柱に、幅広く生産性向上に取り組んでいく。

 後 藤 リース会社で情報化施工を担当して4年目になる。i-Constructionに関する問い合わせは非常に増えている。スーパーゼネコンから地場企業まで引き合いがある。

 (3次元設計データに基づいて自動制御する)マシンコントロール(MC)などを用いると、丁張りに頼るやり方よりも面の管理になり、きれいに仕上がる。ある現場では、熟練オペレーターがいない日はのり面整形作業をやめてしまっていた。(3次元設計データに基づいて掘削位置などを表示する)マシンガイダンス(MG)を導入したところ、オペレーターの上達が早まり、「整形作業をお願いできるオペレーターの幅が増えた」と評価いただいた。
西尾レントオール・宮川恵さん
 宮 川 情報化施工をメーンとした建機の営業をやっている。測量から計画作り、重機納品、調整まで行い、情報化施工の導入を提案している。現場を経験したことで、「任せてもらえませんか」と押していけるようになった。MCなどを導入すると、丁張りが不要で、その分の人も減らすことができる。人が不足する繁忙期には、「情報化施工でやれば大丈夫」と勧めている。

 オペレーターの訓練への活用も提案している。MCのスイッチを切って、路盤を整正してからスイッチを入れてみると、求められる計画高との違いがよく分かる。そうやって若手の腕を磨くケースが増えている。

 岡 本 道路会社の本社工事部で情報化施工を担当している。全国の現場を回って、情報化施工のためのデータ作成や施工時のナビゲーション操作指導などを担当している。

 今年から国交省でi-Constructionが本格的に導入された。だが、現場が動くのはこれからだ。全体の流れはある程度分かるが、実際に現場で使う時にどうなるのか、まだ見えていない部分もある。しっかりと対応していきたい。

 桝 谷 民間企業にはi-Constructionの良さをどんどん伝えてもらいたい。取り組みを進めていく中で支障が出てきた時に、基準の改善などの環境整備も行っていく。

 発注者側の訓練も必要だ。担当者によって検査対応などが変わるようでは受注者は困る。研修などを行いながら改善も図っていく。

日本道路・岡本明子さん
 岡 本 トラブルが出た時には、計測器や重機の油圧の問題など、いろいろな可能性を考えないといけない。担当者がエラーへの対応で苦労すると、「もう使いたくない」となりかねないので注意が必要だ。

 宮 川 経験していない現場にこそ、使ってほしいと思っている。引き合いが増えてくれば、コストもおのずと下がっていくのではないか。ただ、無理に価格を下げるような競争はやりたくない。

 後 藤 情報化施工の中で一番最初に要領化し、先行している締め固めの管理システムは金額の争いになってきている。ほかのシステムも同じように追い込まれていくことが心配だ。

 桝 谷 台数が増えるともう少しコストダウンすると思うが、無理な価格競争は求める姿とは違う。建設産業全般に言えることだが、処遇を改善しなければ人は集まらない。適正な利潤を確保した上でのコストダウンが行われるとよい。

 ◇女性活躍推進、悩みの共有が大きな力に◇

 岡 本 情報化施工で女性が活躍できる場が増えてきたことから、なでしこの会が設立された。現在の会員は22人で、毎回楽しく参加している。国交省関東地方整備局のi-Constructionの見学会も手伝っている。

 宮 川 社内には現場に出る女性の先輩がいないので、なでしこの会でのアドバイスが助かっている。現場での心構えを教えてもらい、とても心強かった。
アクティオ・後藤李里さん
 後 藤 社内で情報化施工の分野で採用された女性は自分が初めてで、悩んだ時期があった。なでしこの皆で話し合ったことで、一人じゃないと思えた。

 岡 本 道建協で14年にアンケートを行ったところ、体力的な問題や、着替え場所がないなど苦労している意見が多く寄せられた。女性が頑張ることはもちろんだが、男性側の理解を深めてもらわなければ女性の活躍は難しいとも感じている。

 桝 谷 働く女性が社会全体で増えているが、人の意識を急に変えることは難しい。仮設トイレを良くしようと取り組んでいるが、たとえトイレがきれいになっても、皆から見える場所に設置されてしまうと使いづらい。そういうところまで意識が追い付いていかなければならない。変えるべき点について声を上げることはとても大事だ。

 宮 川 現場で女性が増えたらいいなと思う半面、やみくもに増えることも怖い。現場に出たいという気持ちをくみ取って育ててみて、駄目だったら違う業務を任せるという柔軟な対応が必要なはず。それは、女性に限った話ではない。「女性だからできる・できない」という固定観念があるように感じている。そこは変わっていってほしい。

 後 藤 無人航空機(UAV)での測量や3次元設計データ作成などの場面で女性が活躍していくことをすごく期待している。ただ、女性を初めて採用すると、その女性にも上司にも負担がかかる。女性と管理する側の両面をケアする環境ができてくれば、もっと安心して働くことができる。

 岡 本 女性をもっと採用してもらいたいが、土木を学ぶ女子学生はまだまだ少ない。将来をしっかりと考えて大学を選んでいる女性は多いと思うので、建設業に興味を持ってもらうアピールをもっと行うべきだ。

 なでしこエンジニアの会とは?

 道路建設やレンタル、測量機器、建設機械の企業に勤める女性をメンバーとして12年に設立された。14年からは日本道路建設業協会(道建協、増永修平会長)のワーキンググループに発展。情報化施工技術に関する勉強会や、女性が働きやすい環境づくりへの取り組みなど活動の場を広げている。

 《出席者プロフィール》

 ますや・ゆうご 官房技術調査課事業評価・保全企画官。積算の分野からi-Constructionや女性の活躍推進など後押ししている。

 おかもと・あきこ 生産技術本部工事部所属。一般国道・高速道路などの施工管理を経験後、情報化施工の担当に。なでしこの会の設立メンバーの一人。

 みやかわ・めぐみ 関越営業部太田営業所所属。営業担当だが、車両系建設機械の資格も保有。昨年は道路会社に出向し施工管理を経験した。

 ごとう・りり 道路機械事業部技術開発課所属。大学の専攻は建築。情報化施工の営業支援、クラウドシステム導入指導、広報などを担当しており、講習会の講師も務める。

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