2019年5月21日火曜日

【臨場感あふれる作品、現場の姿に焦点】写真家・山崎エリナさん、インフラメンテの現場を写真集に

 社会基盤の維持管理に焦点を当てた写真家・山崎エリナさんの作品集『インフラメンテナンス~日本列島365日、道路はこうして守られている~』(グッドブックス)が発刊された。

 インフラを愚直に守る人の姿や、仕事の合間に見せる作業員の笑顔などを切り取った。安全・安心や暮らしを真摯(しんし)に支える姿勢が、作品を通じて伝わり、一般市民からも共感を呼んでいる。

 きっかけは、福島県で道路維持などを手掛ける寿建設(福島市)の森崎英五朗社長の提案だった。「メンテナンスをやる人がいなくなると国自体が危うくなる。そうした認識を多くの人に広げることが難しい」。森崎社長が危機感を募らせている時に、山崎さんの存在を知った。

 山崎さんは神戸市出身。国内外で写真展を開いている。熊本の風景などを撮影した写真集『「ただいま」「おかえり」』や、ショートストーリー写真集『アンブラッセ~恋人たちのパリ~』などを出版してきた。ポーランドの映画監督で巨匠として知られるアンジェイ・ワイダ氏が山崎さんの写真に感銘を受けた経緯から、同国の美術館にも作品が収蔵されている。

 「すごいカメラマンに撮ってもらったらどうなるんだろうという好奇心からお願いした」と森崎社長。山崎さんもぜひとも工事現場を見てみたいと快諾し、2017年秋に撮影が始まった。

写真集に収められた作品の一つ(ⓒ elina yamasaki)
最初に訪れたのは除草の現場だった。「夏は草がすごい生い茂っているのに、道路がきれいになっている。ここまでがインフラメンテナンスだったのだと気付かされた」と山崎さん。それは、故郷が被災した阪神・淡路大震災で感じたこととつながっていた。

 倒壊した高速道路や陥没した道路。それらがいつの間にか元通りになっていた。「直してくれる人がいるというのが、頭の隅にあった」(山崎さん)。東日本大震災で大きな被害を受けた福島県で、何か貢献したいという思いもあったという。

 ◇仕事への誇りがあふれている◇

 撮影当初は、作業の邪魔にならないように遠くから撮っていたが、のめり込むにつれて近付くようになり、1~2メートルの距離から撮影するようになったという。除草から始まり、トンネルや橋梁、舗装、除雪、高速道路などの数多くのメンテナンス現場を回った。現場の一員になったような気持ちで撮影しており、写真集には臨場感あふれる作品が多数収録されている。

 「道具を渡す瞬間も無駄がなく、ベストなタイミングで手から手に渡っていく。その素晴らしい連係プレーにも感動した。皆さんは下を向いて作業することが多いが、ふと顔を上げてコミュニケーションをとる時に笑顔が出る。人間性がにじみ出てくる瞬間で、私にとってはご褒美。そうした全ての瞬間を逃したくないと思って撮影した」(山崎さん)

 撮影には寿建設のほか、ネクスコ・メンテナンス東北(仙台市青葉区、山崎幹夫社長)と小野工業所(福島市、小野晃良社長)が協力した。撮影で感じたのは、真摯に仕事と向き合う姿の本質的な魅力だという。山崎さんは「何度も何度も繰り返しながら、道路の亀裂などをきれいにしていく。そうした作業の一つ一つが、私たちの道路を支えてくれている。仕事への誇りが、後ろ姿からもあふれている」との受け止めを話す。

 インフラメンテナンスを支える姿を多くの人に見てもらおうと、18年夏に福島市内で写真展を開いた。父親の仕事姿を見た子どもが「お父さん、この写真格好いい!」と飛び跳ねるように喜んでくれたという。一般女性が涙を流しながら「これからは(工事の)看板を見たら、『ありがとうございます』って思うようにします」と話し掛けてきたこともあったそうだ。

 ◇安全な暮らし支える姿に反響◇

 その場に居合わせた森崎社長は「現場の写真で泣かせるなど考えたこともなかった。山崎さんの写真には圧倒的な力がある」と感じたという。

 写真集の出版を手掛けたグッドブックス(東京都中央区)の良本光明代表取締役は「当初は商業出版として成り立つのか不安があったが、インフラメンテナンスの実情や社会的意義を知り、まとめようと思った。社会的な意味合いで取り組んだ」と語る。東京都中央区にある大型書店・八重洲ブックセンターでは、3月31日~4月6日の総合部門ランキングで首位を獲得した。
(左から)森崎社長、山崎さん、良本代表取締役
山崎さんは今秋、フランスのルーブル美術館で、日本の家族やふるさとなどをテーマに写真展を開く。来年以降に、フランスで日本の土木やインフラメンテナンスの写真展を実現しようと企画も練っている。山崎さんは「インフラに向き合う真剣さや仕事ぶりが格好いい。これからも撮っていきたい」と話す。

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